ACT.28 約束の花(Ⅳ)
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そして俺たち三人は、早速行動を開始した。
とにもかくにも、まずはロマンさんを探さなければ。
そう思って俺たちは、旧ジュワユーズ邸の中を散策する。
客室のある二階から階段を下りて一階へ、キッチンやダイニング、リビングなどを順にまわる。
しかし、どこにもロマンさんの姿はない。
「どこにいるんだろうな」
屋敷の中をしばらく探しまわったが、ロマンさんの姿は一向に見つけられない。
最後に立ち寄ったリビングルームの中で、思わず俺はそう呟く。
そんな俺に、一緒にまわっていたシャルルがこう言う。
「でもさ、今見て回ってわかったことがあるんだけれど」
「うん?」
シャルルの言葉を聞いて、俺は視線を彼に向ける。
するとシャルルは、顎に手を当ててこう言った。
「この屋敷、どこも凄く掃除が行き届いているね」
その言葉を聞いたエヴァが「確かに」とつぶやく。
「廊下やリビングは兎も角、どの客室にも埃一つなかったわね」
「うん、凄く管理が行き届いているよね。ここを管理しているのは、ロマンさん一人だけなんだよね?」
「あぁ、その筈だけど」
俺がそう返すと、うむと悩む様にシャルルは考え込む。
彼は数舜の沈黙ののち、こう口を開いた。
「これってすごく大変なことだよ、ただの仕事だからってここまで完璧になんてできないよ。――特別な思い入れとかが無い限りは」
「特別な?」
俺がそう聞き返すとシャルルは、こくんと頷く。
「仕事だからって以外で何か理由がないと、ここまで熱心になんてしないよ。――それに、あの時ロマンさんがエドのお母さんの名前を呼んだ時、別に悪い感情が顔に浮かんでいるわけではなかったよね」
シャルルにそう言われて俺は思い出す。
『マルグリットお嬢様にそっくりなもので――』
――確かに、あの言い方に悪いニュアンスは含まれていなかったと思う。
ならば、それはどういうことなのか。
「つまり、ロマンさんはエドのお母さんの事を悪く思っていないってことじゃないかな」
シャルルの言った結論に、俺は咄嗟に首を横に振る。
そんなはずは無い。
だって、物心つく以前の幼い息子を捨てていなくなるような人だ。
そんな人に、そんな人に――。
「もしかしたら、何か特別な事情でも――」
「あっ!」
シャルルがそこまで言いかけたその時、エヴァが何かに気が付いたように声を上げる。
「私たちがここに来た時、ロマンさんは屋敷の裏から来たわよね! もしかして、外で何かやってる途中だったんじゃないかしら」
エヴァがそう言うと俺とシャルルは「あっ!」と同じタイミングで声を上げる。
そうか、俺としたことがなんでそんなことに気が付かなかったんだろうか。
俺がシャルルに目配せすると、彼も同じことを思っていたみたいで頷いて返事を返す。
「じゃあ、急いで外に!」
そうして、俺たちは気持ち駆け足で、急いで外へ向かう。
玄関から外へ出て外周をまわると、その途中である香りがすることに気が付く。
甘く、それでいて清涼感のある香り。
屋敷の裏側に向かえば向かう程強まるその香りを辿る様に、足早に俺たちは駆ける。
そして、屋敷の角を曲がったその時、俺たちの目に飛び込んできたのは――。
「おや、エドワード様? どうなさりましたか?」
裏手の庭一面に咲く、背の高い紫色の花々。
美しいその景色の真ん中で彼は、花の世話をしていた。
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少し高い背丈と、釣鐘の様な形をした鮮やかな紫色をした五枚の花弁。
一つの茎に多くの花を鈴なりに咲かせるその花。
この先の俺たちの行く先、その節目に必ず添えられることとなるその花の名は――風鈴草。
俺たち三人にとって、大切な約束の花。




