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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第二章 彼を待つ剣
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ACT.22 花の旅路(Ⅰ)

                                       

 ▽▲▽                             

                                          

 早朝。

 鳥のさえずりと、涼やかな朝靄がジュワユーズの屋敷を包む。

 そんな静けさの中に一石を投じる様に、玄関の扉が大きな音を立てて開く。

 俺は外に出るなり大きく背伸びをして、深呼吸をする。

 清々しい空気を吸い込んで、早起きもまぁ悪くないなと思う。


「いい朝だね、エド」


 そう言って、俺の横に並ぶように立つのは親友であるシャルル。

 彼の足元にも、俺と同じような大きめのトランクが置いてあった。

 俺たちは、今日からジュワユーズ家の領地へと向けて、旅立つ。

 滞在予定は三日、往復を含めて一週間の旅路だ。

 ちなみに、早朝出立の為にシャルルたちは屋敷に前泊した。


「僕、リゲルを一週間も離れるのは初めてだからさ、ちょっと楽しみにしていたんだよね」


 眠気がまだ取り切れず、欠伸を噛み殺していた俺とは違い、シャルルはこの早朝なのにどこか調子よさげだ。


「眠くない?」


「じ、実は、昨日全然眠れなくて。ほぼ徹夜みたいな感じかな」


 そう言って少し恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべるシャルルに、俺も小さく笑ってしまう。

 初めて出会ったあの時からずいぶん経つのに、そのどこか子供っぽいところは変わっていないなと、俺は思った。


「ところで、アイツは?」


「あぁ、エヴァなら――」


 次の瞬間、俺は背中を思いっきり叩かれてびっくりして前につんのめる。

 あわててバランスを整えて、なんとか転ばずに済んだ俺は振り返って犯人を睨む。


「え、エヴァ!」


「――ちょっと、勝手に二人だけで先行くなんて酷い。私の方を手伝ってよ!」


 振り返った先にいるのは、一人の美しい少女だ。

 月の光を湛えたような銀の長い髪は、美しく風に靡く。

 新雪を彷彿とさせる白い肌、瞳は翠玉(エメラルド)の様に輝く。

 今だって質のいい紺色のドレスを身に纏っているが、その豪華さは本人には及ばない。

 花というより、宝石や星を彷彿とさせる容姿をしたこの少女の名前は、エヴァ・ナミュール。

 シャルルと同じ、俺の昔からの友達だ。

 彼女の後ろには、俺たちのよりひと回り大きなトランクが三つ置いてあった。

 これを運ぶのに、遅れて来たのだろう。


「いや、お前荷物持ちすぎだって」


「女の子は、男の子と違って色々と必要なの!」


 そう言って腕組みをして俺を見るエヴァは、どこか偉そうであった。


「エド、気遣いが出来ないとモテないわよ?」


「うぐっ」


 もっともらしいことを言う彼女に、俺は反論出来ずに黙り込む。

 そんな俺たちの間にシャルルが割って入り、エヴァをなだめる。


「そうだね、気が利かなくてごめん。あとで馬車に積み込む時は手伝うから、許してくれると嬉しいな」


 穏やかに諭すシャルルの言葉に、エヴァは仕方ないといった風に首肯する。


「まぁ、楽しい旅行なんだしこれくらいは水に流してあげる! ふふっ、実は私、今日がずっと楽しみだったのよね!」


 一気に破顔してうきうきとした表情を浮かべるエヴァの姿を見て、ちょっとだけ俺も嬉しくなって顔を俯かせる。

 シャルルと違って、最近めっきり会う機会が減ってしまったエヴァと会うのも内心少し楽しみだったのだ。

 だから、エヴァの笑顔が純粋に嬉しい。

 この気持ちが悟られない様に、綻びそうになる顔を必死で押さえつつ、俺は顔を上げた。

                                         

 この気持ちは、悟らせてはいけない。

 "友達"でいる為に。

                                     

 遠くから、俺たちを乗せる迎えの馬車の蹄音が近づいて来ていた。

                                          

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