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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第二章 彼を待つ剣
22/112

ACT.21 運命の蹄音(Ⅲ)

                                        

 ▽▲▽                                 

                                      

 突然だが、処刑人というのは裕福である。

 処刑人の仕事は年俸制で、毎年国王から定額が贈られる。

 その額、およそ16000ギール。

 一般的な国民の平均年収が2700ギールだと言われているから、その約6倍である。

 この金額が、()()()()()()()()()()()()となる。

 ならば、古い処刑人の家系の場合はどうなるのか。

 実は、そういう家系は国王からの年俸を辞退し、貴族の様な領地を持って経営して税収を得ている。

 その場合の年収というのは、6倍程度では済まない。

 そして、王国で最も古い処刑人であるジュワユーズ家は、当然の様に後者だった。

                        

 ▽▲▽                            

                                  

「ここから馬車で一日半南へ駆けた場所に、ジュワユーズ家の領地がある。そこに、ルテル家の子息やナミュール伯のお嬢様と一緒に向かえ」


「そ、そこで何をするんですか?」


「――何も」


 俺が理由を問うと、祖父はそう言った。

 ジュワユーズ家の領地。

 そんなのがあることは知っていたが、俺はそこを見たことがなかった。

 だから、祖父の考えている真意がわからない。


「一週間時間をやるから、そこで過ごしてきなさい。――帰ってきたなら、お前の覚悟を問おう」


 お前の覚悟を問おうという、その言葉を聞いて、俺はようやく祖父の真意に思い至った。

 つまり祖父は、俺がこのまま処刑人になることを良しと考えていない。

 考え直す時間を授けると言っているのだ。


「おじい様、俺の覚悟は変わりません! 必ず跡を――」


「くどい。話は終わった、行け」


 祖父は俺の主張など意に介さず、一瞥も視線も合わせずに、会話を切った。

 俺は、そのことが悔しくて奥歯を噛みしめながら、無言で執務室を出た。

 暖かな春の日差しが差し込む廊下の窓際、その窓枠に手を付いて体重をかけながら大きくため息を吐く。

 祖父に対する怒りはない。

 あるのは、祖父に見抜かれる程に弱い俺自身への怒り、情けなさだ。


「俺、本当にダメだな」


 そう独り言をつぶやいたが、そんな自虐は誰にも聞かれることなく、暖かな陽気に溶けて消える。

 しばらくそこで呆けていたが、このままじゃいけないと両手で軽く頬を叩いて気分を入れ変える。

 

「気持ちを切り替えろ、気楽にいこう」


 今回の話は、要は旅行みたいなものだ。

 俺は物心ついた時から、リゲルの外に出たことがないし、これはきっといい経験になる。

 それにきっと、襲名してからだとリゲルを離れることも少なくなるだろう。

 もうきっぱりと切り替えて、楽しんでしまおうじゃないか。


「――よし、大丈夫だ」


 こうして嫌な気分を払拭し、この話を伝える為にシャルルの元へ急ぐことにした。

                           

 ▽▲▽                       

                      

 こうして、俺の――否、俺たちの旅は始まる。

 シャルルとエヴァと、お互いの立場なんて気にせず過ごせた最後の一週間。

 最初で最後の思い出の旅路が。

                                        

神聖ルーレンスの通貨は3種類あります。

ギール金貨、レイノル銀貨、ファフ銅貨と言い、それぞれの現代日本円での価値換算だと、下記の様になります。


1ギール:5000円

1レイノル:100円

1ファフ:5円

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