ACT.1 死神の子(Ⅰ)
俺が彼ら、シャルルとエヴァと出会い、一緒に遊んですぐのことだ。
俺とシャルルは、屋敷の使用人に呼び出されて、二階のある部屋に連れていかれた。
「やっぱり、おじい様の言いつけをやぶったから――」
この頃の俺にとって、祖父の存在は絶対であった。
祖父の言いつけを破ったことなんて、今が初めてだったのだ。
「大丈夫だよ、まんがいちそういうことになったら、僕が守ってあげる」
不安な気持ちに襲われる俺を、シャルルはそう言って励ました。
初めて出来た友達のその言葉は、幼い俺の心をぐっと軽やかにした。
「不安なら、手をつなごう。そうすれば、きっと大丈夫」
「――うん!」
そういって俺たちはしっかりと手をつなぎ、その部屋の扉を開けた。
部屋は、書斎だった。
その書斎の応接用の長いすには、三人の大人が座っていた。
一人はいつもみたいに厳めしい表情をした祖父。
もう一人は、豊かな口ひげを蓄えた、正装姿の男性。
最後に、この中で一番若そうな三十代の優し気な男だ。
「来たな、エドワード。――その様子だと、顔合わせは既に済んでいるようだな」
怒られると思っていた俺は、祖父の予想外の言葉に少しきょとんとする。
続いて、一番若い男が笑顔を浮かべてこう言う。
「やぁ、よく来てくれたねエドワード君。さぁ、こっちへ」
言われるがままに、俺たちは長いすに誘導され、そこに座る。
髭の男性が反対側に移動して、大人三人と俺たち二人が、向かい合うような形になった。
そこで優し気な男が口を開く。
「それじゃあ、二人に改めて自己紹介しないとね。私はエリオット・ルテル。そこにいるシャルルの父親で、この家の当主をしている者だ」
ソレに続いて、今度は祖父が言葉を紡ぐ。
「儂が、ヴィクトー・ジュワユーズ。エドワードの祖父、ジュワユーズ家の長だ」
厳めしい祖父の表情に一瞬気圧されるようにびくりと肩を震わせた後に、シャルルは頭を下げた。
そんなシャルルを見て、祖父もゆっくりと首を縦に振った。
「――いい子だ」
「おほん、最後に私が、エヴァの父でここでの話を見届ける役目を負ったマティアス・ナミュールだ。エヴァともどもこれからよろしくな」
最後に髭の男、エヴァの父を名乗るマティアスがそう言った。
そこで、マティアスが言った言葉に引っ掛かりをおぼえた。
「話、ですか」
「そう、大事な契約の話だ」
マティアスの放ったその言葉の後を、祖父が引き継ぎ、話始める。
「ジュワユーズ家が処刑した刑死者の扱いについて」
その言葉を聞いた俺は、びくりと肩を震わせた。
処刑という言葉を、俺の正体をシャルルに知られたと――嫌われると思ったからだ。
ジュワユーズ家。
それは、国王直々に聖剣の名を与えられるほど由緒正しき、王国最古にして最高峰の処刑人の家系。
人殺しを生業とするため、人からは死神と揶揄される一族だ。
俺が、外に出ることが滅多にないことも、同世代の子供たちと遊んだことがないのも、これが理由であった。
これを知られてしまったからには、俺はシャルルたちに嫌われてしまう。
そう思い、俺はぎゅっと目をつぶった。
――だがその心配は、杞憂に終わった。
そうしておびえる俺の耳元で、シャルルはこうつぶやいた。
「大丈夫だよ、エドワード。だって、僕たちの一族は――」
「――え?」
その言葉に驚きながら、俺はシャルルを見つめる。
同時に、祖父の言葉の続きが耳に入ってきた。
「これより先、次の当主の代になっても今の関係――ジュワユーズ家が処刑した遺体をルテル家に引き渡す契約を続行するを君たちにお願いしたい。今日はその説明のために、ここへ呼んだ」
シャルルはその時、こう言ったのだ。
――僕たちの一族は、同罪なんだから。