ACT.17 少年の進む道(Ⅰ)
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天高く昇った太陽が、眩い光で遍くを照らす午後。
あけ放たれた窓から、熱を孕んだ風が部屋に流れ込んでくる。
熱風に目を細めて、窓の外に視線を向けると遠くから蹄鉄の音が響く。
その音に気が付いた俺は、テーブルの向かい側で眠りこけるお姫様に声をかける。
「エヴァ、起きて。シャルル達が来たよ」
「――んあ?」
寝ぼけながらもむくりと起き上がるエヴァの姿に、俺はくすっと笑って彼女の隣へ行ってその手を取る。
「迎えにいこう」
そういって彼女の手を引いて玄関へ向かう。
今日は久しぶりの勉強会、今回はジュワユーズの屋敷で先に俺とエヴァでやっていた。
階段を降り、玄関の扉を開けて外に出ると、騒がしい虫の音に包まれる。
首都リゲル郊外にあるこの屋敷周辺は、自然が多くこの季節は特に騒がしくなる。
「今日は一段と騒がしいね」
「だけど、私はこの騒々しさが好きよ。なんか非日常な感じがして!」
夏の太陽にも負けない彼女の笑顔に、俺は何故だか顔を合わせることができなくて、そっと目を反らす。
そんなことをしている間に、玄関の前に馬車が止まる。
ウチがシャルルの家に迎えに行かせた馬車だ。
その馬車から降り立つのは、金色の髪をした少年・シャルル。
――と、もう一人。
「暑いね、エド、エヴァ」
そういって降りてきたシャルルと、そんなシャルルに手を引かれて慣れない風に降りてきたのは、一人の少年。
シャルルのおさがりであろう服を着た、黒い髪と浅黒い肌をした小柄な少年だ。
「うん、すっかり夏だよねシャルル!――と?」
シャルルに元気に返事したエヴァだが、その視線は不思議を孕んでその隣に向けられる。
そんなエヴァの視線に、緊張した様に言葉に詰まる少年。
「エヴァ、この子は――」
「――ようこそお越しくださいました、シャルル様」
俺が少年の事情を教えようとしたところで、ぱたぱたと玄関に駆けてきたメアリが、シャルルに向かって礼をする。
「メアリさん、こんにちわ。この子は――」
そういって挨拶するシャルルが、少年を紹介するように手を差し向けると、メアリは大仰にうなずく。
「その子が、今日からうちで働く子ですね」
「は、はい」
未だに緊張した様子でぎこちなくうなずく少年を見て、メアリは笑顔で頷く。
「うん、よろしくね。――ただ、手加減はしないからね。 最短コースでジュワユーズ家に相応しい使用人に育ててあげる」
そう言って笑顔でガッツポーズをするメアリに、少年は少し身体を強張らせる。
「メアリ、ほどほどにね」
俺はその様子に、苦笑いして忠告する。
――そう、今日からこの少年はジュワユーズ家で働くことになる。




