ACT.14 覚悟の対価(Ⅱ)
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「ごめんなさい」
その少年は、開口一番に俺にそう謝罪した。
「ボクが、お父さんに言われて泥棒をして、それで君たちも怪我して――」
瞳に涙を貯めて俯く彼に、俺は何故だか申し訳ない気持ちになる。
俺は彼を責めたくてこういう話をしているわけではなかった。
「怪我は大丈夫だよ、元気元気!」
そう笑顔でポーズを取るが、彼の視線は俺の右腕に注がれる。
俺の腕には未だに包帯と添え木が。
彼のその視線に、思わず俺は苦笑いを浮かべる。
「そ、そうは見えないかもしれないけど、治りかけなんだよ。ほら、この通り――いてて」
無理に腕を回して見せると、右腕に少し軋むような痛みが走る。
その姿を見たシャルルが慌てて駆け寄ってくる。
「エド、無茶しない!」
「わ、悪い」
情けなくシャルルに怒られる俺の姿を見て、少年は少しだけクスりと笑った。
その様子を見て、俺とシャルルは視線を合わせてほっとした様に笑いあう。
シャルルもよかったと小さく呟く。
「ちょっとずつでいいから、話をしよう。楽しい話を!」
そう言って俺たちはちょっとずつ言葉を交わし始めた。
俺と少年は住む世界が少し違う。
だが、違うからこそ話は尽きない。
立場の違うから友達になれないということはない。
――そのことを、シャルルとエヴァから教わった。
▽▲▽
俺たちはしばらく少年と楽しく話をしていたが、途中でこの部屋にルテル氏が入ってきた。
「エドワード君、もうそろそろ時間だよ」
ルテル氏の言葉を聞いて、ふと窓の外をみると赤い光が差し込んでいた。
その夕日を見て、ようやく相当な時間話をしていたことに俺は気が付いた。
「傷にも障るだろうし、今日はここまでにしないかい」
ルテル氏がそう言ったので、俺は首を縦に振って少年に向かって「それじゃあ、またね」と言って部屋をシャルルと共に後にする。
廊下の窓から玄関の方を見下ろすと、そこには迎えの馬車が止まっていた。
結構待たせてしまっただろうか、申し訳ないな。
そう思いながら、前を歩くルテル氏にあることを聞いた。
――少年の前では、口にしづらいことを。
「あの子は、この後どうなるんですか?」
そう、ずっとそのことが気になっていた。
この国では、場合が場合であれは窃盗すら死罪になることを、俺はよく知っている。
祖父が首を落とすところを、俺は知っている。
だからこそ、薬を盗むということを働いた彼の処遇が、ずっと気がかりだった。
もしかしたら、彼の首を祖父が斬り落とすことになるのではないかと、ずっと怖かった。
その不安は、俺の表情に出ていたようで、俺を安心させるような優しい声色で、ルテル氏はこう返した。
「大丈夫、指示を出したのは父親だということが分かっているから、あの子は年齢もあって罪には問われないよ」
その返事に、俺も隣を歩くシャルルもほっと胸をなでおろす。
しかし、続くルテル氏の言葉が俺の胸に深く突き刺さることになる。
「――けど、あの子には帰る場所がない」




