ACT.13 覚悟の対価(Ⅰ)
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あれから三週間が経過した。
数日おきにルテル氏の診療所で傷の経過を見てもらったりして、治療を受けさせてもらっていた。
「うん、経過は良好だね」
そういってルテル氏は、腕の包帯を外して触診する。
時間がたった包帯は、ツンとしたすえた匂いがして俺は思わず顔をしかめる。
俺の折れた右手をしばらく触って、彼はこう言う。
「驚いた、もう骨が結合し始めているみたいだね」
それを聞いて、俺はむしろ疑問を感じた。
普通なら、骨折とはどれくらい治癒にかかるのだろうか。
「普通なら六週間以上かかるね。 そこは、さすがジュワユーズ一族と言わざる得ない」
「俺たちの、一族?」
その言葉を聞いて”ジュワユーズ一族”というワードが引っ掛かった。
まるで、俺たちがなにか特別かのような言い方だった。
「あぁ、君や君のおじいさんを含めたジュワユーズ家の人たちは、稀に特殊な体質で生まれてくるみたいなんだ。普通の人より骨も筋肉も丈夫で、傷の治りも早い」
ルテル氏がそう説明すると、驚くというよりも納得してしまった。
高齢といっても差し支えない歳でありながら、現役で処刑人の仕事ができている祖父や、自分の怪力への疑問がここで解消された。
それはきっと喜ばしいことのはずなのに、この時の俺は他のことに気を取られていてそれどころではなかった。
ルテル氏がテキパキと腕の包帯を巻きなおすと、俺はさっそく今まで気になっていたことを聞いた。
「ルテルさん、その、泥棒をしたあの子はどうしてますか?」
そう、俺はここに来られなかった三週間の間、そのことがずっと気がかりだった。
俺の目の前で、自身の父親からの暴行を受けて、重傷を受けた少年。
あの子のことが、ずっと心配だった。
「あぁ、あの子は順調に回復しているよ。今は、屋敷の客室に寝かせているから、会いに行くかい?」
「はい!」
ルテル氏に案内されて、屋敷の二階にある客室へ向かう。
そして、その客室にたどり着き、ノックをするとシャルルの声で返事が聞こえてきた。
「どうやらシャルルも様子を見に来ていたみたいだね。シャルルは君のことも心配していたから、会って安心させるといい」
ルテル氏の言葉に背中を押され、俺は扉を開ける。
中は質素で清潔そうな寝室になっていて、真っ白なシーツの敷かれたベットの上に例の少年がいて、その傍らに置いた椅子の上には見慣れた金色の髪をした少年が――シャルルが座っていた。
「――久しぶり、シャル」
「エド!!」
少し申し訳なさげに、そして若干の気恥ずかしさも混じった声で話しかけると、シャルルは破顔して俺に駆け寄ってきて、思いっきり抱きしめてきた。
「き、君は本当に僕たちに心配かけるんだから! うぅ、元気そうで安心したよ!」
少し涙で濡れたようなその声に、自然と俺も眼頭が熱くなる。
久しぶりの、といってもたった三週間ではあったが、その再開に自然と胸が躍った。
そうしてしばらくぎゅっと抱きしめあうと、俺はおもむろにシャルルを離す。
「ありがとうシャル。あとでいっぱい話をしよう。――今は、ちょっと彼と話をしたくて」
そう言って俺が視線を向けると、ベットの上で身を起こしていた少年は、さっと目を伏せる。
褐色の肌の上にガーゼを当てているその少年に近づいて、俺はこう話しかけた。
「初めまして、かな? 少し、話をしたいんだけど大丈夫かな?」




