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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第五章 人と世間と、情と罰と
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ACT.93 破門(Ⅲ)

▽▲▽


 アベルに破門を言い渡して二日後の晩、俺はシャルルの元を尋ねていた。


「──エド」


 シャルルの咎めるような声が、彼の自室に響く。

 その声を無視して、俺はグラスに更に安酒を注ぎ込む。


「医師として忠告するよ、やめなさい」


 言われて渋々酒瓶を手放し、グラスに入っていた分を煽るように飲み干す。


「君の気持ちはわかるけど──いや失敬、あまりに軽率な発言だった」


 言って彼は軽く頭を下げる。

 その姿を見て、バツが悪くなったのはむしろ俺の方だった。

 少し視線を逸らし、グラスをテーブルに置き直す。


「こっちこそ、ごめん」


 謝罪の言葉を口にした後に、ぐしゃぐしゃと自分の頭を掻きむしる。


「少し自暴自棄になっていた」


「無理も、ないさ」


 シャルルは優しく俺の肩を叩く。


「アベルくんは、もう」


「来週には、出て行くと」


 結局、正式にアベルはジュワユーズ家から破門、放逐されることになった。

 ソフィやクロードはもう一度チャンスをくれないかと訴えたのだが、それを俺が全て却下した。

 ──アレは、それほどまでに許されない行為だった。

 どうやっても、許してはいけない冒涜だった。


「アベルへの処分は、妥当だった。俺は間違えていない」


 そこだけは自信を持って言える。

 だが、ソレとは別に俺自身の──処刑人としてではない俺は。


「それでも、情はあるんだよ」


 アベルとは、短くない時間を共に過ごした。

 師匠と内弟子でありながら、俺自身はアベルを弟か息子みたいに思っていたんだ。

 そのアベルに対して残酷な処分をしたと──思ってる。

 思ってしまってる。


「エド、思えば君は昔からそうだったね」


 シャルルは優しい声音で語りかける。


「初めて出会った時も、ソフィの時だって、いつだって君は死神にしては優しすぎだ」


「シャルル」


「だからこそ、僕は君と仲良しでいられるんだけどね」


 そう言いながら彼は少し笑った。

 久々に見る、かつての少年のような笑みだった。


「──シャルル、頼みがあるんだ」


 俺の話に、無言で耳を傾けてくれるシャルル。


「しばらく、アベルをよろしくお願いします。アイツには、一般以上の教養やマナーは教え込んでる筈だから就職先にはきっと困らない筈だから」


 家から出す以上、ここから先は俺に干渉する権利はない。

 ──だから。


「しばらく、アイツの生活が安定するまでは目を掛けてやって欲しい」


「──わかった、任せて」


 二十年以上共に歩んできた親友はそう返した。

 もうシャルルには頭が上がらないな、と独言ちて酒を飲もうとグラスを煽った。

 ──それが空なのを忘れていて、それを見たシャルルと俺は笑いあった。

 


 酷い時代の最中ではあるが、俺やシャルルにはこういった瞬間が幸せだった。

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