ACT.93 破門(Ⅲ)
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アベルに破門を言い渡して二日後の晩、俺はシャルルの元を尋ねていた。
「──エド」
シャルルの咎めるような声が、彼の自室に響く。
その声を無視して、俺はグラスに更に安酒を注ぎ込む。
「医師として忠告するよ、やめなさい」
言われて渋々酒瓶を手放し、グラスに入っていた分を煽るように飲み干す。
「君の気持ちはわかるけど──いや失敬、あまりに軽率な発言だった」
言って彼は軽く頭を下げる。
その姿を見て、バツが悪くなったのはむしろ俺の方だった。
少し視線を逸らし、グラスをテーブルに置き直す。
「こっちこそ、ごめん」
謝罪の言葉を口にした後に、ぐしゃぐしゃと自分の頭を掻きむしる。
「少し自暴自棄になっていた」
「無理も、ないさ」
シャルルは優しく俺の肩を叩く。
「アベルくんは、もう」
「来週には、出て行くと」
結局、正式にアベルはジュワユーズ家から破門、放逐されることになった。
ソフィやクロードはもう一度チャンスをくれないかと訴えたのだが、それを俺が全て却下した。
──アレは、それほどまでに許されない行為だった。
どうやっても、許してはいけない冒涜だった。
「アベルへの処分は、妥当だった。俺は間違えていない」
そこだけは自信を持って言える。
だが、ソレとは別に俺自身の──処刑人としてではない俺は。
「それでも、情はあるんだよ」
アベルとは、短くない時間を共に過ごした。
師匠と内弟子でありながら、俺自身はアベルを弟か息子みたいに思っていたんだ。
そのアベルに対して残酷な処分をしたと──思ってる。
思ってしまってる。
「エド、思えば君は昔からそうだったね」
シャルルは優しい声音で語りかける。
「初めて出会った時も、ソフィの時だって、いつだって君は死神にしては優しすぎだ」
「シャルル」
「だからこそ、僕は君と仲良しでいられるんだけどね」
そう言いながら彼は少し笑った。
久々に見る、かつての少年のような笑みだった。
「──シャルル、頼みがあるんだ」
俺の話に、無言で耳を傾けてくれるシャルル。
「しばらく、アベルをよろしくお願いします。アイツには、一般以上の教養やマナーは教え込んでる筈だから就職先にはきっと困らない筈だから」
家から出す以上、ここから先は俺に干渉する権利はない。
──だから。
「しばらく、アイツの生活が安定するまでは目を掛けてやって欲しい」
「──わかった、任せて」
二十年以上共に歩んできた親友はそう返した。
もうシャルルには頭が上がらないな、と独言ちて酒を飲もうとグラスを煽った。
──それが空なのを忘れていて、それを見たシャルルと俺は笑いあった。
酷い時代の最中ではあるが、俺やシャルルにはこういった瞬間が幸せだった。




