9 トレニア、スティナの友人
俺とスティナは目的地の都市クーシュタに辿り着いた。
事前に聞いていた通り、綺麗な場所だ。
城壁に白い石が使われているため、明るい印象を受ける都市の外観。
大門を抜け都市に入ると目抜き通り、大通りが真っ直ぐ続いている。道のずっと先に見えるのは教会だろうか。
「着きましたね。私の友人に会いに行くのは明日以降にして、今日はギルドで登録だけ済ませて、宿を探しましょうか。ギルドの場所は知っているので」
「了解。そうしよう」
行き交う人は多く、街には活気がある。大通り沿いには多くの店が並び、食材やら雑貨やらを売っていた。心地よい喧噪の中、二人並んで歩く。
程なく、冒険者ギルドに辿り着く。眠そうな顔をした若い女性の事務員さんに話しかけ、この街で新規に活動したい旨を伝える。名前と等級を確認され、答えると事務員さんは奥の部屋へ。
少し待つと戻ってくる。
「ライノ=ナサカ様ですね。私の耳元で合言葉を」
宝銀以上の等級の冒険者は各地のギルドで名簿を共有され、本人確認に使う合言葉と共に情報を管理されている。
下位や中位の冒険者は数が多いし、詐称する利点もあまりないので、このような管理はされていない。
「猫は木登り名人」
耳元で囁く。ちなみに、合言葉はギルド側が適当に決める。ギルド事務員に嫌われると酷い合言葉にされたりするらしい。
「はい。合っています」
「続いてスティナ=モルビク様、合言葉を」
スティナが何かを事務員さんの耳元で言う。きっとスティナのことだ、良い感じの合言葉を設定されているに違いない。
「ぷっ、ご、ごめんなさい心の準備してた筈だったのに」
笑い出す事務員さん、いったいどうしたんだろう。
「いえ、お気になさらず。こんな合言葉を設定した人が悪いので」
苦笑いのスティナ。どんな合言葉なのか凄く気になるが、他人に教えてはいけない決まりだ。
「合言葉は確認できましたので、後はこちらで登録しておきますね」
事務員さんは去っていく。
変な合言葉、よもやスティナ嫌われてた!?
「スティナ、何か嫉妬とかされて変な言葉にでもされたの?」
スティナが嫌われるとしたら嫉妬ぐらいしか思い付かない。
「いえ、むしろ変に好かれて渾身のギャグを……宝銀になったとき『一週間考えましたっ』って嬉しそうに伝えられました」
なんか、彼女も大変だ。
用事は終わったのでギルドを出る。
宿を探さなくてはならない。
ギルドでオススメでも聞いておけばよかったか、と思いながら歩いていると
「すっすっすっスティナ先輩!!!!」
突然大きな声が響いた。
振り返ると、栗色の長い髪をした女性。年齢的にはスティナと同じぐらいか。
はっきりした眉毛にきりっとした目、可愛くも理知的な印象を受ける。
「あ、トレニア。久しぶり。会いに行く手間が省けたよ」
スティナは笑顔でそう言った。
なら、この子がスティナの言っていた友人か。着ている服は飾り気こそないが、質の良い布で作られていることが見て取れる。店を経営しているような話だったし、それなりの人物なのだろう。
「本物だ、スティナ先輩だ。ついに私のところに嫁いで下さる気に!?」
「トレニア、そのノリ別にやらなくていいから」
「割と本心です。違うのは分かってますけど!抱きついていいですかっ、てか抱きつきますね!」
両手を広げ、踏み込むトレニアにカウンターで手刀をまっすぐおでこに振り下ろすスティナ。だがおでこに直撃を受けても怯むことなく、抱きつく。
ぎゅーっと抱きしめられつつ、スティナはなんだか楽しそうだ。
「こんな感じで、変わってます。この子が私の友人のトレニアです。魔法を一緒に習った仲なんですよ。少し私が先に習い始めたので先輩とか呼んできます」
引き続き抱きしめられながら、スティナは友人を紹介してくれる。
「素敵な友人だね」
「ええ、とっても。で、トレニアそろそろ離して」
スティナがそう言うと「はーい」と言って体を離す。
「トレニア、この人は冒険者仲間のライノさん」
「どうも、はじめまして。トレニアです。立ち話も何なので、とりあえず私の店で話します?」
「そうだね、トレニアが抱きつくから注目集めちゃったし」
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