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7 村の宿屋

 道中モンスターの襲撃というトラブルはあったものの、俺とスティナは隣村に辿り着いた。

 村とは言っても宿屋ぐらいはあるので一泊して、今後の方針を話し合うつもりだ。


 なので、とりあえず村に一軒しかない宿屋に向かった。


「今夜二部屋お願いします」


 食堂兼宿屋のカウンターで、宿を頼む。


「はぁーい。あっすみません、空いてるの一部屋のみですー」

 

 のんびりした雰囲気の宿屋のお姉さんが言う。


 さて、どうしたものか。


「なら一部屋でいいのでお願いします」


 と、考えているうちにスティナがあっさり答えてしまう。

 ……スティナが良いならいいか。俺は床で寝れば。何せこちとら冒険者、野営にも慣れている。


 「わかりましたー小銀貨1枚ですー」と言って、お姉さんが部屋に案内してくれる。


 中に入ると特に変哲のない小さな部屋、テーブルとベットが一つずつあるだけだ。


 「ごゆっくりー」とお姉さんが戻って行ってスティナと二人になる。


「勝手に答えちゃってごめんなさい。でも、ほら無いものは仕方ないので」


 うん。確かに無いものは無い。


「えと、必要とあれば馬小屋か何かで寝るぞ?」


「馬鹿言わないで下さい。体拭くときだけ後向いてて欲しいですけど」


 ちょっとだけ唇を尖らせて、スティナが言う。


「なら、お言葉に甘えて床を使わせて貰うね」


「いえ、前衛の体調は大事です。ベット使って下さい。私床で良いですから。というかライノさんなら一緒でも……」


「後衛だって大事だよ。スティナ床で寝かせて俺がベット使える訳ないだろ」


 俺は笑って言う。最後の言葉はどう反応していいか分からないから聞き流す。


「なら……やっぱり、その…間を取って一緒……そこそこ大きいですし」


 確かにベットはやや大きめの作りだが、そういう問題ではあるまい。


「いや、ほら、そりゃ勇者とは違うけど、俺も一応男だし」


 二人向き合って暫し沈黙。


「意見が分かれてしまいましたね……。分かりました。コインが表なら一緒にベット、裏ならライノさんが床です」


 そう言ってスティナは懐から銀貨を取出す。


 そして、表を上にしてテーブルに「パチン」と置いた。


「……表ですよ?」


 俺フリーズ。


「表、だね」


 ここまでやられると、負けというか、これ以上対応が思い浮かばない。






 1階の食堂で、スティナと二人夕食を食べる。


 オススメだというので、魚の塩焼きを頼んだ。村の近くに川が流れているので、そこで捕れるのだろう。結構美味しい。


「さて、今後どうするか」


 勇者パーティーをクビになり、ノープランで街を出てしまった俺達だ。


「やっぱりどこかギルドのある街に拠点を置いて冒険者生活ですよね、現実的なのは」


「だよな。問題はどこにするか。全く伝手のない都市で暮らし始めるのは大変なんだよなぁ。誰か一人でも知り合いとか居れば全然違うけど」


 俺もスティナも冒険者としての等級は宝銀、9段階の上から4つ目で、首には小さな宝石の埋め込まれた銀のタグが下がっている。そこそこ高位だが、冒険者の信用なんて多少等級が高くても飾り程度だ。宿には泊まれても家を借りるのは難しいし、その他諸々苦労が多い。


「えーと、あまり気が進みませんが、丁度いい規模の都市に友人がいるはずです」


 少し歯切れの悪いスティナの言葉。


「気が進まない?」


「えっと、良い子なんですよ。少し変わって……いえ、かなり変わってますが」


 ふむ。よく分からないが、人格に問題がないなら個性的でも良いと思う。


「他にあてもないし、スティナが良ければそこを目指そうか」


「じゃあ、そうしましょう。店を持ってる筈ですし、方々手を回してくれると思います」


 へぇ。お店を持っているというのは凄い。


「ここからだと北東に2日程進めば辿り着けると思います」


 行先は決まった。


 なんか良いなぁ、勇者パーティーじゃない気楽な旅。スティナと一緒だし。



 ◇◇ ◆ ◇◇ 



 スティナ=モルビクはライノのことが大好きだった。口に出すのは恥ずかしいが、隠す気もない。


 優しくて、穏やかで、誠実で。本当に素敵な人だと思う。しかも魔法の腕は一流で、容姿も中性的な美形だ。


 なので、スティナは心臓がバクバクだった。

 ベットの中、呼吸がはっきり聞こえるほどの距離。自分で一緒に寝ようといっておいて、寝られそうにない。

 だが、自分がベットに寝て、好きな人を床に転がしておくなんて嫌だった。


 とりあえず、目を閉じ、じっとしている。


 確証はないが、ライノもまだ眠りついてはいなそうだ。


 彼も同じ気持ちで緊張してくれてたらいいなぁ、なんて思ってみる。


 これから向かう都市は大きな湖の近くにある美しい場所だ。気に入ってくれるだろう。楽しみだ。


 結果としては勇者に感謝だ。一緒に追放してくれたお陰で自然に二人で旅が始められた。このままずっと一緒にいたい。


「ライノさん、起きてますか?」


 小さな声で話しかける。


「うん。起きてる」


 返ってくる小さな声。


「目的地の街ですけど、湖畔の綺麗なところなんです。湖では魚が取れますし、水路で港と繋がっているので、海産物も手に入りやすいです。周辺の土地も肥沃なので農作物や家畜の肉もばっちりです」


「それは良い。サクサク稼いで、色々食べよう。太らないように気を付けないとな」


「そうですね。そこだけは注意です」


 二人でぷくぷく丸くなっていく想像をして、小さく笑う。うん、想像する分には楽しいけど、実際にはなるまい。


 少しお喋りして、リラックスできた。寝られそうな気がする。


「ライノさん、明日もその先も、よろしくお願いしますね。お休みなさい」


「ああ、こちらこそよろしくスティナ。お休み」


 静かな夜、耳に聞こえるのは二人分の呼吸だけ。すっと、スティナの意識は眠りへ落ちていった。



 評価や感想いただけたら、凄く嬉しいです。

 ブックマークされたら小躍りします。


 執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。


昼前にもう1話投げたいです。

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