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66 ワイバーン戦①


 宮廷魔法師隊の隊長、アラン・サフォークは青空の下、焚火で羊肉が焼かれるのを眺めていた。肉の焼ける香ばしい匂いと共に、もくもくと煙が上がっていく。

 焚火は何箇所もあり、同様に煙を上げている。辺りには多数のテントが立ち並び、簡易な物見櫓(ものみやぐら)も1つ作られている。

 空を飛ぶワイバーンからは見つけやすいだろう。


 宮廷魔法師隊のうち45人と冒険者32人は街道脇の平原にキャンプを張っていた。

 ユフォルト王国から派遣されたヴィオラ次席錬金術師の案に従い、作戦中である。

 現在、キャンプ開始から2日が経っていた。


「北東にワイバーン!」


 声が上がる。アランは立ち上がり空を見る。3体のエルダーワイバーンが高く、空を飛んでいる。こちらに近付いているようだ。


「手はず通りやれ!」


 アランは叫ぶ。「承知しました!」と物見櫓ものみやぐらの上で監視にあたる部下が叫び返した。

 ワイバーンの姿は徐々に大きくなっていく。アラン達の直上を通り過ぎるつもりのようだ。


 櫓の上で詠唱が開始される。ワイバーンがキャンプの直上へ来たタイミングで、上級攻撃魔法フレアバーストが放たれる。

 櫓の上からとは言え射程外だ。ただ空に紅く炎熱を撒き散らす。


 そのまま3体のワイバーンはどこかへ飛び去って行った。


「やりましたね隊長。計画通りです」


 隣に居た部下が言う。アランは「ああ」と頷いた。まずは第1段階クリアである。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 偵察と思しきワイバーンが上空を通り過ぎた日の夜、宮廷魔法師と冒険者は交代で仮眠を取りながら警戒にあたっていた。

 アランも数人の部下と共に焚火を囲い、その時を待っていた。


「なかなか来ませんね」


「なに、払暁が本命だ」


 少しそわそわした部下の言葉にアランは返す。パチリと薪がはぜる。

 風は穏やかで空は満天の星、天候は絶好である。きっとくる。


 揺れる炎を眺めるだけの時間が過ぎ、ほんの僅かに空の端が白み始めた時、羽ばたきの音が聞こえてきた。


「来たな。全員起きろ!防御魔法詠唱準備!!」


 腹に力を入れ、あらん限りの声でアランは命じる。


 宮廷魔法師と冒険者は一斉に動き出す。困難で危険な任務だ。皆顔には緊張が観て取れる。


 星空を遮る無数のエルダーワイバーン。

 そして、炎が降ってきた。


「防御!」


 アランは叫んぶ。エルダーワイバーン特有の攻撃、オイルブレスだ。

 魔力の込められた油は超高温で燃えながら落ちてくる。100体近いエルダーワイバーンが一斉に放つそれは、巨大な炎の柱が天から地上に伸びてくるかのようだ。


 アラン自身も対炎熱防御魔法アクアベールを2重展開、汎用防御のクレイバリアも発動させ、3重の防御で自分と周囲の部下を守る。


 世界が朱に染まる。


 隣に居る部下が詠唱を開始している。部下ではあるが魔法使いとしては彼の方が上である。宮廷魔法師隊唯一の極域攻撃魔法の使い手だ。

 上空に向け爆裂系極域魔法『エクスブリニー』が放たれる。巨大な爆発、空高くを飛ぶエルダーワイバーンには届かないが、降り注ぐオイルブレスを爆風で吹き散らす。

 続いて、次々と氷結魔法が放たれ炎の勢いを削る。


「手はず通りだ!方向を間違えるな!はぐれるな!」


 アランは叫び、馬に跨がる。辺りはまだ火の海だ。訓練された軍馬だが流石に怯え、思うように走ってくれない。

 アランは進行方向に向け、氷結魔法を多重詠唱し放つ。炎の消えた方向に向け馬は走り出す。


 部下達もアランに続く。多くの蹄の音、全員無事とはいかないだろうが、初撃は凌げたようだ。

 発光魔法を使って目印となりながら、アランは進む。テントや物資は放置だ。


「整列は厳禁だ!混乱しての敗走を演出しろ!余裕のあるものは演技も入れていけ!」


 ワイバーンに背を向け、なるべく無様な敗走を演じる。

 宮廷魔法師の中でも手練れの者は防御魔法で身を守りつつ故意に落馬してみせたりしている。

 人間相手なら少しわざとらしいが、エルダーワイバーンにはこのぐらいか丁度良いらしい。

 追って来い。そう祈りつつアラン達は馬を走らせる。



◇◇ ◆ ◇◇ 



「オイルブレス確認!オイルブレス確認!」


 声が響く。計画通りに襲撃を誘発できたようだ。ちゃんと防御できているか少し心配だが、向こうには防御魔法が得意な者を優先して配置している。大丈夫な筈だ。


 急ぎ準備し、俺達4人は地下室を出る。外には既にブレンダさんが待っていた。


「私はいつでも行けます」


「では、行きましょー。ブレンダさん、貴方が足をつく場所には足場があるようにしますから、安心して走って下さい」


「はい。レピアス殿よろしくお願いします」


「スティナ、大丈夫?痛かったりしない」


「うん。大丈夫」


 スティナはトレニアにおんぶされている。手作りのおんぶ紐を使っているので両手はフリーだ。

 何だか微笑ましい光景だが、別に遊んでいる訳ではない。

 俺達5人はこれから魔法で足場を作って空を上がり高高度で待機する。

 最初は俺がスティナ、レピアス様がトレニアの足場を担当して4人で上がろうと考えたが、上空戦力を拡張する為にこうなった。おんぶにより4人分の足場で5人が空に上がれるという寸法である。


「じゃあ、上昇開始しましょう!」


 そう宣言して、まずは身体強化バフを自分にかける。極域は使わず上級だ。トレニアとレピアス様とブレンダさんも、皆自分に身体強化を入れる。


 暗い崖の上から、星空に向け走り出す。

 ちらりと振り返ると、宮廷魔法師達が崖の際に腹這いになり準備を整えていた。


 急角度で上へ上へ。エルダーワイバーンに気付かれない高度まで上がらなくてはならない。


「この辺でいいでしょう」


 レピアス様の声に足を止める。かなりの高さまできた。少し息が苦しい。


 攻撃を誘発し、敗走を演じて追撃させ、有利な地形で待ち伏せ攻撃する。

 人間同士の戦争でも使われる策をエルダーワイバーンの知能に合わせ調整した作戦だ。


 部隊を先導するアランさんの発光魔法と思しき光が小さく見える。後ろからはファイヤーブレスやサンダーブレスの赤や青の光、明らかに追撃を受けている。


 移動する敵相手に高高度からオイルブレスを当てるのは困難だ。ワイバーンは反撃がない事に安心し高度を下げているようだ。


 よし、全てヴィオラさんの計画通り。


 アラン隊長の部隊とワイバーンが近付いてくる。


 空は黒から紺に色変え、少しづつ明るくなっていく。アラン隊長は崖の下の道を走りそれをワイバーンが追う姿が見える。


 もう少し


「今です。降ります」




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