6 勇者はある意味本物です
「さて、当面の方針だが、パーティーメンバーの入れ替え直後はどうしても連携が不十分になる。なので慣れるまでは本格的なダンジョン攻略は避け、慣らしを行う」
勇者フロックスは馬鹿だが大馬鹿ではない。メンバー入れ替えで戦力が低下していることは理解していた。ライノはともかくスティナの攻撃魔法がなくなったのは痛い。新規加入の二人が他のメンバーと十分連携できるようになるまでは慎重に行かなくてはならない。
「よって今日の目的地は灰雫の森だ」
街の西にある灰雫の森はダンジョンではないが一定数モンスターが生息している。肩慣らしには丁度いいとの判断だった。
勇者パーティー8名は出発する。勇者フロックス、女騎士アニタ、女槍戦士ヘルヴィ、女僧侶マルケッタ、女弓士ミラ、女シーフのレベッカ、女シーフのミーナ、女魔法使いシーラ……
ミーナとシーラが新規加入の双子である。
街を出た勇者パーティーは程なく森に辿り着く。
「よし、適当に探索してモンスター倒して日帰りだ」
灰雫の森は深く、晴れていても暗い。そのため草は少なく、代わりに腐葉土の上にキノコがたくさん生えている。
勇者を先頭に森を進みそしてモンスターに遭遇した。
レッドリザードマン3体だ。
「程よいザコだ。肩慣らし行くぞ」
「「はい!」」
勇者の言葉にメンバーが一斉に頷き、戦闘態勢をとる。武器を構え、杖を握り、弓に矢をつがえる。悪くない動きだ。
敵を認めたリザードマン達は曲剣を構え走り寄ってくる。
上段からの振り下ろしに、勇者は前に出て剣で受け止め――
「ぐぁっ」
攻撃の重さに思わず声が漏れる。
軽く弾くつもりが、衝撃で手が痺れた。
「キャァァッ」
隣から悲鳴、女騎士アニタがリザードマンの攻撃を盾で受け、そのまま弾き飛ばされていた。
一方、槍を構えたヘルヴィは得物の長さを活かしてリザードマンを牽制することに成功している。
「クソっ」
勇者は力任せに目の前のリザードマンの剣を跳ね除け、アニタのフォローに入る。アニタを吹き飛ばしたリザードマンへ剣を降り下ろすが、無理な体勢からの一撃はあっさり曲剣に受け止められる。
最初に勇者と打ち合ったリザードマンは無防備な勇者を斬り付けようとするが、シーフのレベッカが短刀を構えて斬りかかり、勇者をフォローする。レベッカの斬撃はあっさり躱されるが勇者への攻撃は阻止された。
「この礫、鈍くも重く穿て、石槍!」
シーラの魔法が飛ぶ。リザードマンは大きく後に飛んで躱した。続いてミラも矢を放ち、リザードマンを下がらせる。
敵が間合いを取った隙にアニタは立ち上がる。
何だこれは?
勇者フロックスは焦っていた。
レッドリザードマンとは何度も戦ったことがある。こんなに強くないはずだ。
勇者フロックスは大馬鹿ではない。今までと何が違うかぐらいは理解できる。
ライノのデバフだ。あいつが弱体化系の魔法を使っていた事は知っていた。
しかし、あいつのデバフの有無でこんなに変わるのか。ザコのはずが死を感じさせる強敵だ。こんな事なら……
そこまで考えて、勇者フロックスは思い直す。
こんな事なら何だと言うのか?
双子で、ロリで、巨乳なのだ。
可愛らしさと豊かさのアンバランス、なんと素晴らしいことか。更に双子だ。しかも処女だった。
例えライノが強かろうと、仮にあいつがパーティーの要だったとしても、結論は変わらない。
勇者フロックスが選ぶのはロリ巨乳だ。
100万回問われたって、変わらない。
苦しくとも進むのはこの道だ。
再び、レッドリザードマンが斬りかかってくる。フロックスは剣を斜めに構え斬撃を受け流すと、リザードマンの左腕に斬りつける。皮と肉を断つ感触。のけ反るリザードマンを蹴り飛ばす。
「アニタ、両手盾!レベッカ追撃!」
フロックスは指示を叫ぶ。
アニタはすぐさま剣を捨て、両手で盾を構える。斬りかかるリザードマンの攻撃かろうじて受け止める。
レベッカはフロックスに蹴り倒されたリザードマンに飛びかかると、刃を突き立てる。
フロックスはアニタに攻撃を弾かれたリザードマンへ向かい踏み込む。足元の腐葉土を蹴り上げて牽制、僅かに敵が怯んだ隙に大きくしゃがみ、足と胴の筋肉も使って斜め下から剣で突き上げる。全身の筋力を使った一撃はリザードマンの胴を貫く。
槍で1体を受け持っていたヘルヴィにはシーフのミーナが支援に入っていた。
「ヘルヴィ!ミーナ!飛び退け!」
フロックスの声にリザードマンから飛び退く二人。そこにシーラの魔法とミラの矢が飛ぶ。避けきれず、リザードマンは胴に魔法、頭に矢を受け、倒れる。
勝った。
勇者フロックスの心臓はバクバクしていた。久しぶりに感じた死の恐怖。
勇者フロックスは心の中で自分に"笑え"と命じる。自分が不安がれば皆はもっと怯える。向日葵みたいな笑顔だっ、と表情筋に力を込め、パーティーメンバーに振り返る。
「よし、皆お疲れ様。やっぱり入れ替え直後は少し大変だなぁ。今日はこれで帰って、夕食はシチューでも頼もう」
勇者フロックスは全力で警戒しつつ、速やかに森を脱した。
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執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。
また明日も頑張ります。