53 スティナ手紙を貰う
俺は宿『胡桃の葉亭』のベッドの上で目を覚ました。
ぴったりくっ付いてスティナが寝ている。二人共、服は着ていない。柔らかくて、温かくて、素敵だ。
窓に目を向ける。光の感じからして、たぶんもう結構日が高い。
スティナの寝顔を眺めて、可愛いなぁと思っていると、彼女の目が開いた。
「おはよ」
ほわんとした、寝起きの笑顔でスティナが言う。俺も「おはよう」と返す。
今日は特に予定はない。スティナと市場でも行って、買い食いでもしてのんびり過ごすつもりだ。
体を起こし立ち上がると、いそいそと服を着る。スティナも同様に。
と、その時ドアがノックされた。服は着終わっている。スティナが「今開けます」と返した。
「こんにちは。やっと捕まりました」
ドアを開けると、居たのは冒険者ギルド事務員のサナリーさんだった。
「こんにちは。お久しぶりです」
スティナが返す。
たぶん何度か来てくれていたのだろう。俺達はあまりギルドに顔を出さないし、部屋は空けてることが多い、手間をかけてしまった。
「連絡の付きにくいギルド員でごめんなさい。何かありましたか?」
俺はそう尋ねた。
「いえいえ、冒険者なんだからそういう仕事ですよ。お届け物があって来ました。まずこれです」
そう言ってサナリーさんは金色に輝くタグを2つ差し出して来た。
「お二方に宝金の冒険者票です。オパールワームの件でランクアップとのことです。今のは回収させて下さい」
小さな青い宝石が埋め込まれた金色のタグを受け取る。冒険者の高ランクなんて単なる名誉称号だが、まぁ損はない。高級店とか入りやすくなるし、金だと錆びないのは嬉しい。
銀のタグを返す。
「あと、スティナさんにお手紙です」
「ありがとうございます」
スティナに封筒が手渡される。スティナは表を見て、ひっくり返して裏を見る。
「実家からだ、何だろう?」
「私の用件は以上です。たまにはギルドにも来て下さいね。あと1ヶ月くらいするとフレイムモニタの玉から作る薬が、また在庫切れますし」
「了解です。それまでには、個体数減らし過ぎない程度に狩ってきます」
「ありがとうございます。皆さんだと物足りないモンスターだと思いますが、アレ在庫無くなると面倒で……。同じく在庫切らせないザロビアフィッシュの浮き袋は新人さんが頑張ってくれるので良いのですけど」
精力剤確保が冒険者ギルドの悩みとは何とも。まぁ、貴族が跡継ぎを作らなくてはならず必死の場合もあるようだけど。
ちなみにザロビアフィッシュの浮き袋は避妊具の材料だ。全く、人間は人間である。
「ではまた」
ぺこりと頭を下げ、去って行くサナリーさん。
「さて、何かな」
スティナはベッドに腰掛け、手紙を開封する。手紙を開いて読み始め……そして眉間にシワがよっていく。
手紙を畳んで封筒に戻し、ため息をつく。
「スティナ、どうした?」
「うん、ちょっとね。ライノ、私トレニアの家に行ってくる」
「分かった。行ってらっしゃい」
スティナは手紙をポケットにしまい、部屋を出て行く。
何だろう。少し心配だが、トレニアに相談に行ったのだろうから、待つしかあるまい。
何か適当に食べて、魔法の練習でもしよう。
◇◇ ◆ ◇◇
スティナはクーシュタの街を歩きながら考える。
先程受け取った手紙、オパールワーム討伐が話題になり、スティナへの縁談が次々来て困っているとの内容だった。文面の端々から相当に弱っている様子が見て取れた。
こうなると、未婚でだらだらしては居られない。
この先どう生きていくか、早急に結論を出す必要がある。ライノと結婚したいのは確定だが、トレニアとの関係をどうするか。
トレニアも立場上、一生独身では居られないだろう。男性が駄目な訳ではないし、いずれ何処かの誰かと結婚する。お互い子供ができて、少しずつ疎遠になる。
そんなのが順当な未来だ。
うん、嫌だ。
トレニアとはずっと一緒だ。
トレニアの希望は、分かっている。知っている。酒の席の冗談の体で、ずっと言ってた。
私もそれが良い。
まずはトレニアと話を付けて、その後ライノだ。
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執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。
30分後ぐらいには次話を投稿するつもりですが、女性同士のやや性的な表現があります。




