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44 アニタを勇者の元へ

 レピアスは一人、火の番をしていた。残りの4人は寝ている。

 ぼんやりと、揺れる火を眺める。

 無事に戻れてよかった。心にあるのは安堵、随分と久しぶりの感情だ。

 ライノ達はレピアスにとって本当に大切な存在だ。誰かを友人と思えたのは、いつ以来か。

 へこんだ時には慰めてくれるし、何より才能が程よくあって鍛えて楽しい。

 彼らの才能なら大英雄ぐらいまでは行くけれど、神に召し上げられまではしない。だから気兼ねなく訓練できる。共同詠唱による奇跡の行使だけは要注意だけど、大丈夫だろう。

 明日からまた楽しみだ。強敵との戦いで一皮むけたから、一気に成長する筈だ。


 と、ガサゴソ音がした。振り向くと、スティナが体を起こしていた。


「目が覚めてしまいました」


「生活リズム滅茶苦茶ですからね、無理もないですよ」


 夜クーシュタを出発して夜通し走り、仮眠からの地下ダンジョンで数日間だ。生活リズムが崩れない訳がない。


 スティナがレピアスの隣に腰を下ろす。レピアスは焚火に枝を数本追加した。燃える木がパチパチと音をたてる。


「ねぇ女神様、何やかんやで、アニタはいいお母さんになる気がします」


「そうですね。アニタちゃんは、うん。少なくとも私より育児上手そうです」


 想像して、自分と比べる。


「あ、女神様子供いたんですか?」


 なんか意外そうな顔をされていた。


「いましたよ。男の子と女の子の双子です。一応ちゃんと育てましたよ」


 まぁ「即死しなきゃ極域回復魔法があるさ。はっはっは」とか言って大雑把やってたけども。


「女神様なら素敵なお母さんでしょうね」


「いえ、正直その、どうですかね?一度咽に食べ物を詰まらせた時なんて、痛覚遮断魔法からのナイフで咽切開、極域回復魔法で治癒、この間僅か一秒。で、夫に啞然とされました」


「女神様って昔から力押しだったんですね。でも、その対処方法、覚えておきます。上級治癒魔法でもなんとかなりますよね?」


「ええ、上級魔法でも大丈夫だと思います。ただ切口は小さめに」


「了解です」


 実際にやる機会があれば、父親はライノだろうから、口をあんぐり開けて啞然とするだろう。そしてレピアス直伝の方法と説明されて"なるほど"って納得した顔をするのだ。

 楽しいな、とレピアスは思う。


「で、旦那さんってどんな人だったんですか?やっぱり凄い冒険者とか」


 嬉しそうに聞いてくるスティナ。この手の話はやっぱり好きみたいだ。


「いえ、普通の人でした。戦闘能力は皆無です。でも、お料理が上手で、餌付けされました」


 年頃になった頃には既に殆どのモンスターは一人で楽勝だったし、交際相手に強さは求めていなかった。

 結婚したときは英雄『万華鏡のレピアス』がシチューで落ちたとか騒がれたものだ。失礼な話だ、彼はシチュー以外も何でも作れた。


「女神様が好きになるとすると、線が細くて穏やかな感じですか」


「ふふっ、スティナちゃん、やりますね。正にそんな感じです。ええ。春の小川のせせらぎみたいな、柔らかくて優しい人でした」


 懐かしい大切な記憶だ。


 小さな木の家で、二人で暮らした。子供が生まれて4人になって、バタバタきゃあきゃあ育児に苦戦して。


 遠い、陽だまりのような、幸せな日々。大好きな人。


 今彼の魂がどこにあるのかは、知らない。転生を追い続けることもできたし、何なら自分の管轄するこの世界に転生させずっと手元に置くことだって、可能だった。でも、しなかった。

 一生を誓った仲だけど、死後まで捕えるのは身勝手だし……何より彼が別の人間として生きて、別の人と結ばれて、そんな姿を見ていたら、きっと私は壊れてしまうから。


 ああ、駄目だこの話題は。話を変えないと、泣いてしまう。


「スティナちゃんはライノくんとはどうですか?」


「付き合い始めてから色々忙しいですけど、でも幸せです」


「奥手そうなライノくんとにしては関係持つまで早かったですよねー。スティナちゃん少し積極的に行ったでしょ?あ、その辺神権で観測したりはしてないですよ」


「えへ。でも、そこまで積極的には。というか、事実関係は既定ですか」


「ええ。二人ともホント顔に出ますよね。素敵なことですが、読み合いのあるギャンブルはしちゃ駄目ですよ」


「ううっ。肝に銘じます」


「ふふっ。今度トレニアちゃんと一緒にじっくり問い詰めますね」


「女神様、御慈悲を」


「ありません」


 レピアスは意識して、くすくすと笑う。空が少し白み始めた。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 俺達は勇者フロックスが拠点とする街に辿り着いた。石の城壁はなく、木製の柵に囲まれている。規模もクーシュタに比べれば大分小さい。

 アニタが「戻ってこれた」と呟く。


「さて、ここまでくれば今回の冒険は完了ですね。レピアス女神モード!」


 そう言って、翼を生やすレピアス様。突然どうしたのだろう。認識阻害が発動したのか、アニタは???どなっている。


「最後に、この子にささやかな祝福を」


 レピアス様はアニタの前で膝を付くと両手を握り合わせてお祈りのポーズをする。


「この子に辛い事があった日の夜は、眠りの中で良き夢を。そうあるように。神意を以って、律を刻む」


 手を解き立ち上がるレピアス様、終わったようだ。きっと言葉通りの効果だろう。


「じゃあ、アニタさん届けてきます」


 トレニアがアニタを抱き抱える。いわゆるお姫様抱っこ。アニタは「ふぇ」と変な声を出したが、大人しく抱えられている。


「じゃあねアニタ。機会があればまたどこかで」


 スティナが手を振る。

 俺とスティナは街には入らない。フロックスと鉢合わせしたらまずい。


「元気でなー。本格的に何か困ったらギルド通じて手紙でもくれな」


「うん。本当にありがとう」


 トレニアに抱えられたまま、小さく手を振るアニタ。


「私は馬車の確保ですね。上手く借りられるといいな」


 街に入って行く3人。街の入口には一応見張りは居るが、入るのに審査などはない。


 俺とスティナはその辺にあった倒木に並んで腰をかける。


「しかし、フロックスが父親……」


 人間としても冒険者としても成長しているのは感じたが、どうにもお父さんのイメージは湧かない。


「そう言えば、女神様もお母さんらしいよ。双子を産んで育てたって」


 ほぁっ。何その重要情報。将来子育てすることになったら色々聞こう。

 あ、いや参考にならない育て方してそう。


「あ、ライノが女神様に失礼な事考えてる」


「いや、そんなことは……少しだけ。極域魔法使って育児しそうだなーと」


「流石だね」


 当たりらしい。くすくすとスティナが笑う。


「ねぇ、ライノ」


 俺の手の上にスティナが手のひらを重ねてくる。暖かい。スティナはこちらを見つめてくる。いつも綺麗な青い瞳。

 少しの間、静かに見つめ合う。


「私達もいずれ」


 恥ずかしそうにスティナが言った。


「ああ、俺達もいずれ」


 そう言って、唇を重ねた。



 評価や感想、ブックマークいただけたら、凄く嬉しいです。小躍りします。


 執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。

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