4 久しぶりの前衛
宿を引き払い、食事を済ませた俺達はちょうどいい乗合馬車に乗ることが出来た。これで今日中に隣の村まで行ける筈だ。
森を切り開いた街道を馬車は進む。ガタガタと振動を体に感じながら、外を眺める。相変わらず天気はいい。季節は春、新緑が美しい。
「パーティーはクビにされちゃいましたけど、なんか気が楽になって良かった気がします」
隣に座るスティナが言った。俺も同意見だ。
「そうだな。あの勇者パーティー居心地イマイチだったし。でも俺がクビにされるのは分かるけど、なんでスティナを外したんだろうな?」
勇者が外見重視でパーティーメンバーを選んでいたのは分かるので、俺が排除されるのは順当だ。しかし、スティナは……
視線を横にしてスティナの顔を見る。大きな青い瞳に、形の良い鼻、薄い唇、どう見ても美人だ。肩にかかるぐらいの長さの髪型も似合っている。
「あーあの、うん。私が全く勇者になびく様子がないからでしょうね。他の子は何というか、でしたから」
歯切れの悪いスティナ。
「うへぇ。いや女騎士とかはそんな感じだと気付いていたけど、他もか?」
「ええ。たぶんあの勇者、私以外の5人は全員……この話は止めましょうか」
酷いパーティーだな。クビになって良かった。なんか居心地悪かったのはその所為か。
と、そのとき急に馬車が大きく揺れた。足に力を入れて体を背もたれに押し付けるように固定し、スティナの肩を掴む。
馬車が止まった。
「も、モンスターです!!」
御者の叫び声。乗合馬車に護衛などはいない。この街道は比較的安全なのだ。とはいえ運が悪ければこういうことも起き得る。
馬車の車内を見回す。戦えそうなのは俺とスティナだけか。
「降りるぞ」
「ええ」
スティナと二人、馬車を降り、馬の前へ。
その20メートル程先に赤い体の蜥蜴系モンスターが3体見えた。
「うそっ!レッドリザードマン!!」
スティナの叫び声。確かにレッドリザードマンは普通は街道で出会うようなモンスターではない。
巨大な曲剣を手にしたそのモンスターは近接戦に優れ、高い膂力を持つ。
ま、3体なら楽勝だが。
前衛に戻った俺を倒したければゼロが一つか二つ足りない。
「どうします?牽制して馬車が逃げる時間を稼ぐか、いっそ正面からぶつかるか」
スティナの深刻な声。ん?何でそんなに怖がっているんだろう。
ああ、そうか。スティナは前衛としての俺を全く知らない。そりゃ慎重になる。
俺だって自分が後衛の状態で、普段魔法使ってるスティナが「私前衛できます」って槍構えてたら警戒する。
「えと、大丈夫だよ。一人で倒せるからスティナは馬車守ってて」
「へ?レッドリザードマンですよ!?」
と、敵は話が終わるまで待ってはくれない。レッドリザードマン3体が剣を振り上げ突っ込んでくる。
さて、久々の前衛だ。
俺は剣を抜き、構えつつ呪文の心裡詠唱を始める。
まずは自分の全身に筋力強化。
リザードマン達は横一列に突っ込んで来る。距離が迫り、敵が同時に斬りかかるべく最後の踏み込みをする直前
俺は両側のリザードマンの右足に筋力増強のバフ、左足に筋力減退のデバフの魔法を発動した。2体のリザードマンは右足の筋力増強で強く地面を蹴り過ぎ、弱体化した左足で踏みとどまれずに、思い切り転ぶ。
倒れる2体を横目に見つつ、正面のリザードマンが降り下ろす曲剣を長剣で弾き、返す刀で首を刎ねる。
そのままの勢いで左で倒れているリザードマンに剣を突き立て背骨を断つ。
右のリザードマンは身を転がして距離を取り、立ち上がろうとするが、身を起こした瞬間を狙い中級魔法『石槍』を叩き込む。物理属性攻撃魔法の『石槍』はリザードマンの胸を綺麗に貫いた。
5秒かそこらの戦い。三体のレッドリザードマンは全員致命傷を負い倒れている。
よし。腕はそんなに落ちてない。
「え?へ?ほ?」
後ろでスティナが混乱していた。
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今日中にもう一つぐらい投稿したいです。