39 勇者パーティー救助作戦④
俺達は詰まっていた。
「格好つけて穴に入って、これは相当に恥ずかしいですね」
穴があったら入りたいが、生憎と現在進行形で穴の中だ。
状況はある意味単純だ。あの穴は斜めに長く続いていて、途中で小さくなっていた。人間の体は大きすぎて途中でつっかえる。
「はは、大丈夫ですよ。鼻から葡萄酒飲んだ私より良いです」
アニタは居た。俺は目視出来ないが、レピアス様の前で詰まってる。穴の中はアニタ、レピアス様、俺、トレニア、スティナの順で止まっている。
「その声、まさかライノ!?えどうして」
困惑したアニタの声。まぁ困惑するよな。
「私もいるよ~」
「スティナ!何がどうなって」
「その辺はこの状況を脱したら話そう」
「ところで、今言うのも何ですが、あの宴会芸面白かったです?」
トレニア、本当に今言うな。
「酷い。宴会芸の強制なんて初めてなんですよ。他に何にも思い付かなくて。裸踊りは流石に嫌だったから」
「トレニア、あれは嫌がらせだから面白いかどうかは視点が違う。笑えるじゃなくて嗤えるが大事なんだ。あれで大正解だよ」
「ねぇ、みんな現実逃避で雑談始めないの。アニタ困ってるよ。対応策考えないと」
スティナに諫められる。つい乗ってしまった。
「そうです。この体勢は少し辛いですし。あと誰かがトイレ我慢できなくなると皆で尊厳とお別れですよ」
怖い事実を指摘するレピアス様。上から下へ液体は流れる。
「どうしますか、穴を逆走して戻れますかね」
頭の中で色々想像する。力任せにずるずると後ろに這い戻る……うん無理だ。ここまで落ちた距離が長すぎる。更に悪いことに俺達は頭を下にして入ってしまった。前が見えないと困るからだが、結果としては失敗だ。魔法で足場とか作ってもちょっと無理。
「無理だと思う」
スティナが判断を述べる。
「うん、俺も今言ってそう思った」
「魔法で掘削しか思い付きません。可能ですかね?」
トレニアの案、考える。穴は縦が狭く体がつかえたが、横にはまだ余裕がある。少しづつなら掘削で出た土砂を下に流せるだろう。何とかなるのか?時間はかかるが。ヘビーランスとかで削って。
「それしかないでしょうね。崩れないよう防御魔法で上の土を支えて。頑張りましょう。今周辺の空間を音で確認します。静かにして下さい」
コツコツと四方を叩くレピアス様。
「うん。私達の腹側に空洞がありそうです。そっちに向けて掘ります。本当は極域に掘削魔法があるのですが、練習しているよりは地道に上級魔法ですね。トレニアちゃん、初級物理で良いので全員に防御魔法お願いします。ライノくんとスティナちゃんはヘビーランスで削って下さい。私は崩落しないように『スチールマフラー』で支えます。行きますよ」
「防御が初級でいいなら、並行して私もヘビーランス撃ちます」
トレニアの防御魔法が体を包む。砕けた石の破片ぐらいなら十分防げる。
魔法の土木作業が始まる。変な体勢から無理やりやるので、曲芸めいた魔法制御が必要だ。辛いが、アニタがいるからなるべく短時間で終わらせないと。
◇◇ ◆ ◇◇
必死の作業の結果、横穴を掘り、ダンジョンの部屋に繋げることに成功した。狭い穴を脱出する。レピアス様が『スチールマフラー』を解除すると横穴はぐちゃりと崩れてしまう。
「アニタ、改めて久しぶり。大丈夫……じゃないね。トレニアお願い」
フードを外し、顔を晒してスティナが言う。俺もフードを外す。アニタの顔は真っ青だ。
トレニアがアニタに近寄り、おでこに手を当てたり、口を開かせて覗き込んだり、色々確認する。
「医者ではないので本当には分かりませんが、これを飲んでください。妊婦にも安全とされています」
鞄の中から1本のポーションを取り出し、アニタに渡す。素直に従うアニタ。少しすると、みるみる顔色がよくなる。
「楽になっても無理しては駄目ですよ」
「はい。それで、スティナとライノはどうしてここに」
「うーん。詳細は内緒だけど、神託のようなものでアニタがこのダンジョンで動けなくなっているのを知ってね。助けに来たよ、アニタ」
微笑みかけるスティナ。神託か……概ね真実なのになんか凄い嘘感がある。
「さて、お出迎えが来たな。ここ何階層かな?」
近づいてくるモンスターの気配。
「落ちた距離を考えると、確実に地下46階よりは下でしょうね」
ぼやくように返すトレニア。このダンジョンの最深到達地点は46階なのだ。
来てしまったよ、未踏領域。
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執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。




