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34 久しぶりに見た勇者は

 いつもの酒場、いつもの席を四人で囲う。


 都市クーシュタには完全に日常が戻っている。


 大勢の客で賑わう酒場。ある卓は祝いの酒で笑い合い、別の卓はしんみり傷を舐め合う。猥雑ながら心地よい喧騒が満ちている。


 酒場は貸し切りなんかより、この雰囲気の方が良いと俺は思う。


 レピアス様は女神バージョン。認識阻害効果により、この卓の特殊な要素を周りは気にできない。何かやらかしても安心だ。


 葡萄酒にチーズ、腸詰肉と、茹で野菜、テーブルには酒と料理が並ぶ。


「うーん、やっぱり良いね。この感じ。ライノくんと、スティナちゃんと、トレニアちゃん、仲間内のお酒が一番だよ。さて、杯を乾かし始める前に、レピアス頑張ります」


 そう、レピアス様はこれから少し頑張る。久しぶりに勇者パーティーの様子を確認するのだ。


「また結構長く開けちゃったな。でも私も『雑魚に苦戦』、『ポーションで下痢』と色々鍛えられています。きっともう大丈夫。すぐに皆が慰めてくれるしね。ホント、ありがとう。私の予想では次は非ダンジョンの普通の山で遭難だと思うんだ。じゃあ、見ます」


 ちょっと無理にテンション上げている感じで、レピアス様は捲し立てる。頑張れ、レピアス様。


 レピアス様の目の焦点が合わなくなる。これは勇者パーティーを見ているからで、異常ではない。唇が歪みだしたら、何かが起きた合図だ。


 少し待つが、唇に変化はない。おっ今回は大丈夫かフロックス。


 俺がそう思った次の瞬間、レピアス様が崩れ落ちた。木製のテーブルに頭がゴチンとぶつかり、突っ伏した状態になる。


 今までに無かった激しい反応。これは、ヤバイ。


 何をした……痴情のもつれで刺されたか?川で溺れたか?性病か?


 レピアス様が、ふらふらと起き上がる。


「皆さん、真剣な話をします。勇者パーティーを救出する必要があります。手を貸して下さい。ダンジョン『果てなくの墓地』の地下24階で行動不能に陥っています」


 いつになく、状況がヤバそうだ。気持ちを切り替える。しかし、24階か随分奥まで行ったものだ。


「何があったんですか。行動不能って」


 負傷だろうか?だがマルケッタの回復魔法があれば並の怪我なら治るはず。


「今から言いますが、まずテーブルを少し片付けましょう。きっと崩れ落ちます」


 そんなことは、とも思うがレピアス様の判断ならば、そうするべきだろう。自分の前に頭が落ちるスペースを作る。


 何だろうこの作業。


「勇者パーティーは騎士アニタの悪阻(つわり)で行動不能です」


 体から力が抜け、頭がテーブルにゴチンと落ちる。スティナとトレニアの崩れる音も響いた。



 少しして、俺はふらふらと起き上がる。


「行きましょう。是非もない」


 トレニアも体を起こす。


「ええ、子供には何の責任もないですから」


 スティナも姿勢を直す。


「うん。妊婦を助けない選択はない」


「みんな、ありがとうね」


「でも、そうなるとレピアス様は留守番ですね。勇者パーティーに関わると不味い」


 イナゴ降っちゃう。


「いえ、その点についてはあまり関係ありません。私の要請で動く時点で干渉です」


「それだと、不味いのでは?」


 アニタは助けたいが、イナゴが降っては被害はそれどころではあるまい。


「冒険とは関係のない要素で行動不能になったアニタは一時的に勇者パーティーから離脱しているという解釈で、勇者パーティーそのものとはなるべく関わらず、アニタだけさっと救出して戻るという方向で」


 それは……柔軟な解釈だが平気なのだろうか。


「かなり無理のある理屈に聞こえますが、大丈夫なのですか?」


 トレニアが尋ねる。


「直属の上司が良いと言えば、許されるレベルの無理ですね。今から許可を取ります」


 大丈夫だろうか、性格最悪の上司がそんな融通を効かせてくれるとは思えないが。


 レピアス様の前の空間に不思議な光の枠が現れる。その枠の中には光る文字。

 知らない文字なのに何故か意味が理解できる。神様的な力でどんな人にも読める文字なのだろう。

 今レピアス様が言った解釈とそれに基づく行動を許すよう、求める内容だ。


「送信」


 レピアス様が手を合わせ、何かに祈るポーズ。女神様、それは不味いのでは?


 ピッと音がして、光の枠の中に文字が浮かび上がる。


 『却下』


 非情な二文字。しかし、1秒後追加の文字列が表示される。


『あーでもレピアスが今すぐもの凄く楽しい宴会芸したら気が変わるかも~~』


 ひでぇ。


「あは、あはは」


 乾いた笑いのレピアス様


「ありがとう威厳。あったかどうか分らないけど。さようなら尊厳。今までお世話になりました。女神レピアス!鼻から葡萄酒飲みますっ!!!」


 レピアス様はむんずと葡萄酒の瓶を掴むと、手を添え、その可愛らしい鼻へ。


 

 地獄だ。


 地獄はここにあった。



 瓶が空になり、テーブルに置かれる。涙と、鼻水と、葡萄酒でぐちょぐちょのレピアス様。


 ああ、あんな馬鹿のためにそこまでしてくれる貴方こそ、真に敬愛すべき女神です。


『ぶぶっ、ぐひゃひゃ、許可!』


 この上司、本当に……


 評価や感想、ブックマークいただけたら、凄く嬉しいです。小躍りします。


 執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。


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