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32 虫は狩りました

 都市クーシュタは安堵と混乱が合わさった、不思議な空気に包まれていた。


 都市の住民が丸ごと逃げようと城壁外に出たところに、オパールワーム撃破の連絡だ。安心も混乱もする。


 そんな状況なので、都市は麻痺状態。宿も酒場も営業していない。


 なので、俺達はトレニアの私宅に居た。


 女性の家に上がり込むのは気が引けたが、本人は全然良いですよとあっけらかんなので、お言葉に甘えた。


 しかも何故かここは寝室。トレニアとスティナはベッドに腰掛け、俺とレピアス様が椅子に座る。


 ちなみにレピアス様は女神バージョンだ。


 トレニアの淹れてくれたハーブティーが美味しい。


「お疲れ様でした。ふふっ、犠牲者いっぱい出てるのに戦闘楽しくて楽しくて、少し女神失格です」


「いや、もう無茶過ぎます。結構撃ち漏らしたし。辛かった」


 本当に防御魔法で防いでくれた4人のお陰である。


「勝てたからよしです。この後のことは少しばかり胃が痛いですけど、オルセン伯が何とかしてくれると信じます」


 とトレニアが言う。


「胃が痛い?」


 巨大な死体は都市の守備隊が明日片づけてくれる予定だし、問題なく進みそうだけども。


「ライノさんは地頭良いので、少し考えれば分かると思いますよ。倒したんです、オパールワームをしかも討伐隊に犠牲者ゼロで」


 小首を傾げる俺にトレニアが諭すように言う。


 えーと、うーんと、あ……


「国内外の政治バランス崩れる?」


 考えたら犠牲ゼロって近衛騎士団より優秀じゃん。


「はい。恐らくそうなります。ヘドルンド侯爵の血縁者である私トレニアとヘドルンド侯爵陪臣の家系のスティナ先輩、よく分からない2人の4人が、オルセン伯と共闘してオパールワームに完全勝利です。事情を知らない人には、私達のパーティーがヘドルンド侯爵の戦力に見えます」


 よく分からない2人……まぁそうか。


「でも内戦とかにはならないよ、たぶん。ヘドルンド侯爵は王家と対立してないし」


「ええ、スティナ先輩の言う通りです。内戦の心配は直ちには無いです。今回のはモンスターが出たから倒しただけ。王家側は警戒しますが、喧嘩を売るのは危険が大きすぎます。近衛騎士団が私達に敗れたら、王家は終わりですから。ただまぁ、細かな面倒は起きるかもです」


「やだなぁ、フロックスの下痢より難しいことは心配したくない」


 心底めんどくさい。


「ライノくん、大丈夫ですよ。修行を続ければ2年後ぐらいには人間の政治なんて気にしなくていい世界に行けます。『俺の薬草採り邪魔するなら国滅ぼすよ?』って脅すだけです」


 いやどんだけ薬草好きなんですか俺。


 しかし、レピアス様は発想が『力こそパワー』だ。


「すみません、変な話して。でも貴族やら王家やらが接触してきた場合は慎重に対応して下さい」


 心に留めておこう。


「それはそうと、スティナ先輩今夜は私のベッドで良いですか?ほら見ての通り大きいですよ」


「まぁ、いいけどね」


「ぐふり」


 ぐふりって、トレニアさん


「ライノさんは客間のベッドでいいですか?私のベッドでスティナ先輩半分こでも良いですけど」


「客間でお願いします」


「レピアス様は…どうします?」


 人間バージョンの時は普通に寝てたが、今は本来の女神姿だ。


「うーん、ちょっと夜のうちに少し用事済ませて来るよ」


「分かりました。じゃあ、今日はボチボチ休みますか、疲れました」


 ほんと、流石に今日は疲れた。明日からはのんびり生活に戻るぞ。



◇◇ ◆ ◇◇ 



「本当にありがとう。感謝する。被害は最小限に抑えられた。民を虫の餌にせずに済んだ。褒賞は何でも言ってくれ」


 オルセン伯が頭を下げる。


「いえ、自分の住む都市ですから」


 笑顔で返すトレニア。


 俺達がいるのは、いつもの酒場。オパールワーム討伐前の会議と同じ10人が集まって貸し切りで飲んでいた。


 こうなったのは半ば偶然だ。そもそも俺達4人に加えサナリーさんとギルドマスターの6人で飲みに来た。そうしたらお店は準備中。


 無理もない。当分戻れぬ前提で避難を始めていたのだ。一日で営業再開を期待した俺達がせっかち過ぎた。


 でも「みなさんぐらいなら、何とかします」と貸し切りで営業を始めてくれて、そうしたらオルセン伯が訪ねてきた。オルセン伯はトレニアのお店で居場所を聞いたらしい。


 結果がこれだ。


「ただ、その政治の方は伯に対処をお願いしたいのですが」


「ああ、もちろん。その辺の苦労は責務だ。ヘドルンド侯とも連携して動く」


 よく分からないが、何とかしてくれるなら良かった。


「しかし、行けばよかったぁ。見たかったぞ。ピグメントストーム斬ったとこ」


 ギルドマスターが本当に悔しそうに言う。


「ああ、あれは素晴らしかった。領主失格だが、実は領民が助かったこと以上にあれを見られたことが嬉しいんだ。今まで見た何より美しかった」


 俺はもう絶対やりたくない。


「私、凄すぎて、この人ら馬鹿か!て思いました。ごめんなさい」


 いえ、サナリーさん、俺も馬鹿かっ!て思いました。仲間です。


「いや、後方に防壁5枚あるから何とか戦えましたよ。ありがとうございます。特にサナリーさんは子供いるのに命かけさせてしまって」


「いやぁ、ノリノリで参戦したんで。うん。やっぱり私は冒険者でした」


 確かに戦っているときはキリッとしていた。


「ふふっ、実は私も不謹慎ながらストーム斬るの楽しくて楽しくて、わーい!わーい!って思ってました」


 レピアス様、流石です。


「でもピグメント斬りもヤバイですが、共同詠唱が本当に存在したのが、魔法使い的にはびっくりでしたよ。魂を同期なんて出来る訳ないのに」


「ふふ、愛の力です」


「トレニア……広い意味の愛ってことにしといてあげる」


 と、厨房の方から巨大な皿を持って人が出てきた。


 調理師の人達だ。ホールの店員さん達も集まってくる。


「伯爵、皆様、大したものではございませんが、感謝を込めて作りました。お召し上がり頂ければ幸いです」


 肉や、魚や、果実、色取り取りの料理が並んている。


「「「街を守ってくれてありがとうございました」」」


 そう言って一斉に頭を下げる酒場の人達。


「いえいえ〜楽しく戦っただけですからー」


 レピアス様、そこまでのんきだったの貴方だけです。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 オパールワーム討伐成功、その情報は国内外を駆け巡った。


 自ら杖を手にピグメントストームに立ち向かったオルセン伯の名声は、本人の意思を無視して、天を突くばかりに高まる。市中でも、貴族社会でも称賛の嵐。


 討伐メンバー8人のうち3人が冒険者であったことから、冒険者ギルドも評価を上げた。


 一拍置いて、討伐の主力となった極域魔法の使い手がヘドルンド侯爵の縁者であるとの話が貴族間に流れ、巻き起こる警戒と打算。


 諸外国は警戒。


 ライノ達には見えない場所で勝手に色々起きていく……


 評価や感想、ブックマークいただけたら、凄く嬉しいです。小躍りします。


 執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。


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