21 改善が見られます女神様
「みんなお疲れ様〜」
漁村の酒場に響くレピアス様の明るい声。
元気なのはレピアス様だけで、俺はボロボロ、スティナとトレニアもヘトヘトだ。今日の訓練は昨日のダンジョンより体力的には辛かった。
午前中はレピアス様が用意してくれていた杖を使い、ひたすら『墜鳥』を詠唱。
そして午後はずっと模擬戦。レピアス様の剣技は凄まじかった。パーティーの平均程度に能力を制限されている筈だし、実際筋力もスピードも俺よりやや低いぐらい。だが、技の美しさが違う。一分のブレもない斬撃は見惚れてしまう程。余りに綺麗で一度「斬られてみたいな」と思ってしまった。
最初は対応できていても、徐々に俺の方だけが崩れて負ける。体幹がぶれ、構えが半端になっていく。
俺も剣技には自信があった。しかし、まだまだ上はある。心底思い知った。ボロボロだけど、トレニアの回復魔法がなければ今も動けていないだろうけど、楽しい。
「ライノくんはよく頑張りましたよ。私の剣に食らいついてくる姿は可愛かったです」
労ってくれるレピアス様。
「ありがとうございます。でも今日凄かったのは圧倒的にスティナとトレニアですよね」
そう、俺なんかどうでもいい。凄まじい成果を一日で上げていた。伝説級のだ。
「まぁ、確かに私も思いつき程度に練習させてまさか一日で実現させるとは思いませんでしたよ。共同詠唱の使い手がこの世界に現れるのは300年振りです」
言葉通り二人で一つの呪文を詠唱し魔法を行使する技術『共同詠唱』。存在自体が眉唾で、かつて使い手がいたと語り伝えられるのみの技術。
この娘らやりました。
「愛の力です」
すっごく得意顔のトレニア。確かにそうかもしれない。
「えへん」
胸を張るスティナ、珍しく愛うんぬんに突っ込みを入れない。
「実際相性ですね。共に魔法を学んだ仲で、相手をよく知っていて、魔力量も技量もほぼ同等。条件は理想的です。それにしたって凄いですけど」
と、レピアス様。
「でも、女神様の指導がなければ一生無理でしたよ。コツとか普通教えて貰えないですもん。ありがとうございます」
確か意識を相方に7、魔法に3で振り分けるとか、指導していた。そんなの言われて出来るものなのだろうか。
「そうですね。実はちょっとイナゴぎりでした」
レピアス様が世界に過度の影響を直接与えるとペナルティで雨の代わりにイナゴが降る。世界は危険に晒されとった。
「共同詠唱でなら極域魔法使える筈なので、今度試してみましょうね。ふふっ、パーティーが強くなれば、私もそれに合わせて大きな力が出せます。楽しみです。いつかまた古龍とか倒したい!よし、今なら頑張れる気がする。目を背け続ける訳にもいかないので、勇者の様子確認しますね。レピアス女神バージョン!」
にょきにょき翼。
しばらくして、レピアス様の口がへの字になる。そして、「への字」を超え更に歪む唇、「むの字」を目指して居るのだろうか。
最後に、茹でた二枚貝みたいに、ぱかーっと口が開いた。
「大丈夫ですか?女神様」
スティナの心配そうな声。今度は何だ?フロックスよ。
「呆けてごめんなさい。えっと、勇者ですが、パーティー皆でお腹壊してます」
ん?食中毒か?
「どうやら筋力増強ポーションを常用して冒険したようです。勇者9本連続使用です」
えー、あれちゃんと注意書きなかったっけ?
「はぁ、ほんと、どこの錬金術士も赤字で注意書いてる筈なのに」
頭を抱えるトレニアさん。色々思うところがあるようだ。
あの手のものは、読まない人は読まない。
「でも、つまり筋力足りないって気付いたんですよね。進歩なのでは?」
フォロー?する俺。
「リザードマンにはリベンジできたようですし、進歩と言えなくもないですが……こっちとの落差が凄くて力が抜けます」
そこは勇者フロックスである、諦めるしかない。
「店主さん、お酒を人数分」
俺は注文する。やっぱりうちの酒量が多いのはフロックスの責任だと思う。
店主が出てきて「はいよ」と、酒を出してくれる。
むんずと掴み杯を傾け、飲み干すレピアス様。
「では……ご覧下さい。長いので一部早送りします」
一杯空けたレピアス様が手を翳すと映像が流れ始める。
杯を傾けつつ、皆で静かに見る。
おお、ちゃんと戦ってる!
ポーションがぶ飲みに目を瞑れば、進歩してるじゃないか、フロックス。
そうそう、シーフはそう使うんだよ。
ミラも、いい腕してるじゃないか、正確な矢だ。
「改善が見られます、レピアス様」
「ええ、そこは、その通りです。ですけども……」
「うーん、なんでフロックスに任せて誰も頭使わないかなぁ。ミラかレベッカ辺りが薬の説明書きぐらい確認しておけばいいのに」
と、スティナのコメント。
実際、全員で腹を壊す状況は笑いごとではない。
戦闘力が落ちたところをモンスターに襲われたらどうなるか。加えて脱水症状や感染症も怖い。下手したら全滅だ。
フロックスは反省すべきだが、他のメンバーも頑張れ。
リザードマンを倒し、灰雫の森を出たところで映像は終わる。
「ここから先は映像は止めておきますね。見苦しいですし、可哀想なので。ですが、戦闘の数倍壮絶な行程を経て、2日かけて街に戻りました。フロックスくんも珍しく落ち込んでいるようです」
しかし、本当に俺はあれの一員だったのだろうか?実感がない。
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執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。




