13 勇者のダンジョン攻略?
勇者フロックスは馬鹿だが大馬鹿ではない。
勇者パーティーはダンジョン『果てなくの墓地』にいた。
地下深く作られた超巨大墳墓は、何階層まであるのか未だに分っていない未踏破ダンジョンとして知られる。
勇者が挑むに足る最高難易度のダンジョンである。
同時に地下深くより瘴気の湧き出るこのダンジョンは、浅い階層であれば強いモンスターは出てこない。
つまり、このダンジョンの低層でウロウロしていれば、対外的には高難易度ダンジョンに挑戦している態で、訓練できるのだ。
フロックスの持てる知能の全てを以て考えたプランである。
まぁ間違ってはいない。彼がもう少し馬鹿であればあっさり全滅して女神の心労も消えただろう。
そして、地下2階の玄室で勇者達は敵に遭遇した。
スケルトンウォーリアー3体にゾンビメイジ2体だ。中堅冒険者パーティーなら安全に勝利できるレベルの敵である。
「レベッカはアニタ、ミーナはヘルヴィのフォローに!マルケッタ防御魔法を詠唱して保持!」
勇者フロックスは仲間に指示を飛ばす。騎士と槍戦士それぞれをシーフにサポートさせ、勇者を含め合計5人で3体のスケルトンウォーリアーを受け持つ作戦だ。
スケルトンが突っ込んでくる。錆の付いた粗雑な直剣を構え、前衛に迫る。勇者フロックスは剣を構える。勇者の持つ剣は鋼・ミスリル合金で作られた高価な剣だ。
フロックスは敵の斬撃を構えた剣で弾き、斬り付ける。しかしスケルトンは後ろにステップ、躱される。腕力はないが、体が軽い分スケルトン系のモンスターは動きが早い。
左右ではアニタとヘルヴィがスケルトンと斬り結んでいる。シーフ二人の支援もあって、敵を食い止めてはいるようだ。
鋼のぶつかる音が、幾つも幾つも、地下室に響く。
フロックスは何とか早く目の前の敵を片付け、敵のメイジを攻撃するなり、アニタを支援するなりしたいが、なかなか攻撃が命中しない。
こんなに早かったのかスケルトンモンスター……
フロックスは内心焦る。ライノ達がいた頃はここまで早かった記憶はない。これもデバフの効果だったのだろう。
ライノは接敵した瞬間から戦闘終了までデバフを維持していたので、フロックス達はモンスターの能力を全く把握できていなかった。
前衛が5対3で拮抗する中、後衛攻撃要員の魔法使いシーラと弓士ミラは手を出せずにいた。
幅の狭い玄室で前衛が混戦を繰り広げる中、下手に攻撃をすると味方に当たりそうで撃てないのだ。
そうこうするうち、敵のゾンビメイジの魔法が完成した。メイジの周辺に赤い光が幾つも生まれる。
火炎系の攻撃魔法。一つ一つは小さいが、敵の周りには合計10発の赤い光が灯っている。
攻撃魔法が一斉に放たれ迫る。
スケルトンは炎耐性が高いからか、味方に当たることを気にしていない。
「マルケッタ!防御!」
フロックスは慌てて、僧侶に指示を出す。迫る赤い光、その前に青みが買った光の壁が構築された。赤い光が次々と青い光の壁に当たり炎を散らす。
そして、光の壁は砕けた。一発だけ、防ぎきれなかった火炎弾が後に飛びマルケッタの足に直撃した。悲鳴が上がる。
しかし幸運な事に敵の火炎弾のうち一発は、フロックスが相対するスケルトンに直撃していた。炎耐性があろうと、体勢は崩れる。フロックスは剣を振り下ろし、スケルトンの頭を砕く。
マルケッタの状況は気になるが、対処する余裕はない。敵のメイジは既に次の攻撃に移っていた。同じ魔法で今度は合計で3発、早さ重視で数を減らしたのだろう。
勇者フロックスは前に出る。今マルケッタは防御魔法は使えまい、なんとかしなくては。
赤い光が放たれる。剣を振るい、火炎弾を叩き落とす。二つは成功したが、一発は仲間へと飛んでいく。再び悲鳴、レベッカの声だ。
フロックスはそのまま前に走り、二体のメイジを斬り倒す。急ぎ振り返り、また走る。アニタとヘルヴィはまだスケルトンと戦っている。
レベッカが肩を押さえ、倒れていた。
フロックスはアニタと交戦していたスケルトンに駆け寄ると後ろから斬り付け、頭を砕く。そのままヘルヴィの方のスケルトンに向かい、横薙ぎに剣を振り背骨を砕き真っ二つに。
なんとか、倒した。
「大丈夫か!」
マルケッタとレベッカのうめき声が響いている。声が出るなら恐らく致命傷ではない。
「今ポーションを使うからな」
急いで二人の火傷に薬を使う。魔力の籠ったマジックポーションだ。回復魔法程の早さではないが、傷は癒えていく。
「怪我人を出してしまって済まない。今日は戻ろう」
冷や汗をだらだらと流しながら、勇者フロックスは言った。
ライノとスティナが居た頃は、この程度の攻撃魔法で防御魔法が崩された事など無かった。魔法攻撃にもデバフ使っていたのかアイツと、勇者フロックスは思った。
そそくさと、勇者はダンジョンから撤退する。
幸いにも、帰り道ではモンスターに会わなかった。
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