12 三人で乾杯!
「「乾杯!!」」
豪快に杯をぶつけ合わせ、麦酒飲み干す。美味しい。
蜘蛛モンスターから回収した素材をトレニアの店の倉庫に運び込んだあと、三人でトレニアお勧めの酒場に向かった。
楽しく稼いだ後のお酒は格別だ。
「ああ、ほんと、俺反省しているんだ。ギルドに紹介されて深く考えずに勇者パーティーに入って、だらだらと散々苦労して、もっと考えて生きなきゃ駄目だ。早く自分から辞めるべきだった。クビにしてくれてありがとう、そこだけは感謝しているぞ勇者フロックス!」
「私も、同じ気持ちですね。幸せ……あ、それでトレニア、ライノさんの戦闘力どうだった?」
そうだ、今日の狩りの目的の半分はトレニアに俺の戦闘力を把握してもらうためだった。楽しくて忘れてたけど。
「もちろん文句なしです。魔法もですが、剣の腕も一流ですね。アラクネモドキ、魔法なしでも倒せる感じでしたし」
「でしょー」
嬉しそうなスティナ。トレニアは言葉を続ける。
「能力は一流、容姿もそれなり、人格はスティナ先輩が懐いているので保証済み。仕方ありません。断腸の思いですが、スティナ先輩のパートナーとして認めましょう。スティナ先輩は半分こで手を打ちます」
いや、パートナーに認めるとか、そういう話しではなかったと思うが。今後の連携の為に実力を見て貰った筈だ。
「半分って、私はケーキじゃないから切ったら死ぬよ」
苦笑いして言うスティナ。突っ込むのはそこだろうか?
「切りませんよ。プランはこうです。まずスティナ先輩がライノさんと結婚します。そんで、私は対外的にはライノさんの第二婦人いうことにします。三人で暮らして、スティナ先輩は隔日で私とライノさんの部屋に イタッ」
スティナが手刀をトレニアのおでこに振り下ろす。
「トレニア、また訳の分からない冗談を」
「ううっ。割と本気ですよ。隔日が不満なら三人ででも アグッ」
スティナがトレニアの口にスティック状に切られた人参をねじ込む。
「トレニアの嫌いな人参だよ。ほらモグモグ」
悲しそうな顔で人参を食べるトレニア。
「ごっくん。頑張りましたよスティナ先輩」
頑張ってトレニアは食べ切った。
「うん、偉い」
次々と料理が運ばれてくる。小魚の揚げ物、焼かれた燻製肉、茹で潰した馬鈴薯、チーズ。美味しそうで、食べると期待通り美味しい。
料理は最初にトレニアが「お任せでお腹いっぱい」と頼んでいた。
冷えた麦酒もとても美味しい。
店の雰囲気は堅苦しさのない庶民的なものだが、味には拘っている。流石はトレニアお勧めの店だ。
「ところで、ライノさん。あの魔力と技術なら、極域魔法も使えません?」
トレニアが唐突に問う。極域、最高難度の魔法。まぁ、素直に答えよう。
「実戦では使えないかな。発動出来るのは『墜鳥』だけ、杖を構えて瞑想状態でゆっくり詠唱して、やっと」
「ふぇぇぇえっ。ライノさん極域使えたんですか?何で教えてくれないんですかっ」
大きな声を出すスティナ。驚いた顔も可愛い。隠してはいたつもりはないんだけどなぁ。
「いやぁ、実戦レベルじゃないから。なんかね」
訓練場でなら使えるんです、とか恥ずかしい。
「『墜鳥』ですか、最強のデバフ魔法ですね。並の人間が喰らえばデバフのはずが心臓が十分に血を送れなくなって死ぬと言う」
「それそれ。勇者パーティーのお守りも無くなったし、練習するかなぁ」
「私もちゃんと鍛えたい。魔法使いたるもの極域魔法は目指さないと」
闘志を見せるスティナ。なんか対抗心を持たせてしまった。
「なら、少し難易度の高いダンジョンも視野に入れますか?ただそうなると、もう一人前衛が欲しくなりますね」
「そうだなぁ。まぁ暫くはそこそこのモンスター相手にしながら追々考えよう」
今日の三人での狩りは楽しかった。もう少しこれを楽しみたい。
酒は進み、盛り上がる。
スティナとトレニアの昔話に花が咲き、そのうち眠くなり、解散。
酒場と宿は近い、歩いてすぐだ。スティナと二人で宿へ戻る。
『胡桃の葉亭』は良い宿だった。内装や装飾品が凝っている訳ではないが、細かな作りがしっかりしている。何より男女別にお風呂がある。
ただ、俺的に問題というか何というか……
宿の中に入ると、階段を二つ上がり三階へ。ドアを開ける。ベッドが二つ置かれた部屋だ。つまり、スティナと同室。
トレニアに手配を頼む時に部屋をどうするか何も言わなかった。勝手に二部屋のつもりでいたので、完全に俺のうっかりである。
ただ、スティナが気にした様子もなく当然のように振る舞うので、俺も特に何も言えずに泊まっている。もちろん嫌な訳ではない。ただ少し精神の許容量を何かが超えそうになる。
ここ数日で実感したというか、気付いたというか、俺ライノはスティナが好きだ。
べた惚れだ。
可愛くて仕方ない。
で、どうしていいか分からない。
告白とかすればいいのだろうか。だが、同室で暮らしている状況で告白って、かえって難易度が高い。
駄目だった時のことを気にするのは馬鹿かもしれない。でもOKだったら、その後どう振る舞うのか。
我ながら情けない。勇者フロックスの爪の垢でも貰いに行くか。代わりにあいつにはトレニアの爪の垢を煎じて飲ませよう。
「夜の湖も綺麗ですね。月が映ってキラキラしてます」
俺がごちゃごちゃ考えている内にスティナは木製の窓を開け、外を眺めている。この部屋は窓からちょうど湖が見える。
もちろん景色も綺麗だけれど、景色眺めて微笑んでるスティナ、ほんと綺麗だなぁ……
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