10 トレニアが仲間になりました
トレニアに案内され、彼女の店に入った。大規模店という程ではないが、想像よりも一回り大きかった。
各種ポーションや鉱石などが並んでいる。魔法薬、一般薬、材料を一通り扱う店のようだ。店の中には店員らしき人が2人動き回っていて、看板には錬金術士の店である旨が書かれている。
店の奥の個室に案内され、椅子に腰掛けた。
「改めてスティナ先輩お久しぶりです」
「久しぶり。さっき言った通り当分この街メインで暮らすつもりだからよろしく。お店も順調なようで何よりだよ」
「ええ、利益もそれなりに出て順風満帆です。なのでスティナ先輩を十分に養えますよ。それでどうしたんですか?勇者パーティー入ったとか聞いてましたけど」
「あーそれがねー」
スティナは一通りの流れをトレニアに説明する。一部はライノも知らない話しだった。勇者のアホは結構スティナを口説こうと頑張ってたらしい。
そして、話を聞き終わったトレニアは、強烈な殺気を放っていた。
「つまりその勇者とかいう馬鹿は他の女侍らせながら追加でスティナ先輩狙ったと。よし殺しましょう。このトレニア、錬金術士としての技術の全てを以て、勇者を世界で一番苦しんで死んだ人にしてみせます」
「ありがとうトレニア、でも実被害は受けてないから手を汚さないでね」
「まぁ、スティナ先輩がそういうなら良いですけど」
「あはは。それで、とりあえず宿を取ろうと思うんだけど、オススメの場所ある?」
「私のベッ」「あなたのベッドはあなた一人で使ってね」
言いかけたトレニアの言葉をザクッと遮るスティナ。いつもと雰囲気や口調が違って、仲いい友達なんだなぁーと感じる。
「ううっ。宿が良ければ『胡桃の葉亭』辺りが中級店の中では一番信頼できます。高級店なら『銀の宿り木』ですが。どうします?人走らせて手配させますよ」
「ありがと、胡桃の方でお願い」
手間を掛けさせるのは悪いが、トレニアを介した方が先方も信頼できる客として扱ってくれる。
なんか、スティナが指をこちゃこちゃ動かしてるけど何だろう。まぁいいか。
「じゃあ、そのようにしますね」
そう言って、トレニアは一度部屋から出て、またすぐに戻ってくる。
「胡桃の葉亭に人を向かわせました」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
2人頭を下げる。
「構いません、私のスティナ先輩への愛は無償かつ無制限です。何でも言って下さいね」
両手を広げ、トレニアが言う。たぶん広げた手で愛の大きさを表現しているのだろう。
「それで、スティナ先輩達はこの街で冒険者業ですか?」
「そのつもり。悩ましいのは二人でやるか、パーティー組むかだなぁ。ライノさん強いから大丈夫だとは思うけど、常識的にはヒーラー欲しいよね」
俺もスティナも回復魔法は得意ではない。一応使えるし、無理しなければ何とでもなるが、安全を考えると欲しい。
とは言え、なんかもう勇者パーティーで人間関係は疲れた。
「もう面倒はやだなぁ」
少しげんなりした声で言う俺に、スティナも頷く。
「そうですね。人格と能力共に問題ない人は中々既存パーティーから出て来ないから、探すの難しいですし」
「またまたースティナ先輩ったら、もう、照れですか?私が、トレニアがいるじゃないですか。回復魔法ばっちりの私が、ここに」
トレニアは両手の人差し指で、何度も自分を指さしながら、言う。
「トレニアの腕は確かだけど、お店は?」
「ふふっ私を舐めないで下さい。あっ、物理的には幾らでも舐めて下さいね。で、お店ですが私が居なくたって回るようになってます。冒険してれば良い素材取れるかもですし、大丈夫です」
この子本当に凄いな。超優秀だ。
「ほんとに大丈夫なら、もちろん嬉しい」
そんなこんなで、仲間が増えた。
◇◇ ◆ ◇◇
「くぁーっ、スティナ先輩が男に取られたぁー」
スティナ達が宿に向かった後、トレニアは一人机に突っ伏していた。
あの二人、正式に付き合ってはいないのだろうけど、雰囲気が完全に恋人同士だった。立ち振る舞いとか、目が合ったときの表情とか、声のトーンとか……
「あのスティナ先輩のジェスチャー、『ベッド二つの部屋一つ』で合ってますよね」
宿を手配する話をしてたとき、スティナはトレニアに向けて指でジェスチャーしていた。指で四角書いて、その中に線二つ。
「くーっ何ですか、それ。付き合い始める前の、でも両想いの、ふわふわ楽しい感じ出して。まぁ、幸せそうなので良いですけど」
あのライノという青年、スティナ先輩をあんなにするとは、凄い。
「さて、悶えてないで仕事しますか。サクっと引き継ぎして体を空けないと。ふふっ、スティナ先輩達と冒険楽しそうだなぁ」
常識人モードに表情を変え、トレニアは店員たちの所へ向かう。
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執筆初心者ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします。