1 プロローグ(女神様の愚痴)
「ふぇ〜ん。また上司から人を見る目ないって馬鹿にされたー」
声の主は葡萄酒のカップを手にテーブルに突っ伏していた。
夕陽を浴びた麦畑を思わせる美しい金色の髪が、酒場のテーブルの上、場違いに広がっている。
「まぁ、まぁ、女神様気にせず。大体、女神様が失敗したのは一回だけじゃないですか。その一度がずっと尾を引いてるのは事実ですけど、運が悪かっただけですよ」
酒場の丸テーブルを囲むのは4人、正確には3人と1柱。
俺ライノに、魔法使いスティナ、錬金術士トレニアそして、女神レピアス。
「ありがとう、スティナちゃん。みんなが慰めてくれることだけが救いだよぉ」
女神レピアスが顔を上げる。美しいその顔は目が潤んで赤らみ、唇はへの字。
「俺達レピアス様の愚痴を聞くことしか出来てなくて……もし何か出来ることあったら言ってくださいね。まぁ、勇者パーティーに戻るのは勘弁ですが」
「当然だよ、ライノくん。むしろ絶対戻っちゃ駄目だよ。そんなことになったら、私の愚痴聞いてくれる人居なくなっちゃうもん。『もう遅いっ!』だよ」
ちなみに以前はその辺の木とか、岩とかに向かって愚痴を言っていた。いかに神の言葉とて、植物や岩は応えない。
「しかし、何度聞いても酷い話です。あれも禁止これも禁止、それでいて責任だけ負わせるなんて」
「怒ってくれてありがとうトレニアちゃん。まぁ神様だからルール無用だと『理想の世界一丁上がり!ほい』になっちゃうのは事実なんだけどね。でもせめて、勇者チェンジ権が欲しいよ」
女神が嘆く理由は勇者。それは神が指名する魔王を倒すべき人間だ。
今代の勇者を指名したのは目の前の女神レピアスである。
酒場の給仕が料理の皿を持ってくる。大盛りの茹で馬鈴薯に腸詰め肉だ。
「さぁ、お料理きましたよ女神様。勇者への怒りをこの腸詰め肉に叩き込みましょう」
そう言って女神レピアスの手にフォークを握らせるスティナ。「うぉーっ」と言って女神レピアスが料理にフォークを突き立て、かわいい口をあんぐり開けて放り込む。
もぐもぐ。もぐもぐ。
お辛い立場のレピアス様。心労の原因はあの馬鹿勇者だ。
さりとて、勇者の実態を知らない人々に「私の選んだ勇者まじクソなんですー」などと言える筈もない。
その愚痴に付き合えるのは勇者パーティーを追放された俺達だけだった。
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