8話 新たな仲間
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テソテリケの肉って美味いのかなぁ……
そんなことを思っているクロネコは今、ご主人であるミシェリーの肩には乗っておらず、ノルア館長によって抱っこ状態にあった。
「ノルアさん、なにかすることありませんか?」
「わっ。私に聞かれても……あっ、」
ミシェリーがノルアに暇であることを遠回しに言うと、ノルアは考えると共に何かを見つけたような仕草をした。
「どしたの?」
その仕草にミシェリーは頭にクエスチョンマークをひとつ浮かべて首を傾げる。
「いえ、あちらで並んでいるお方、もしくはとおもいまして」
ノルアが指を刺しているそこは、「本日半額セール中!」と、旗がパタパタしている雑貨店だった。
指をさしている場所はそこなのだが、正確に言えば、移動販売車でクレープを売っているところにある7~8人くらい並んでいる列の真ん中辺りにいる人物。
「あっ、もしかしてっ!」
ミシェリーはその人物に気づくと同時に駆け出していた。
そしてそれを、走って追いかけることも無くゆっくり歩いていくノルア。
やがてその人物の元に辿り着くと、ミシェリーはその人物と楽しそうに会話をしていた。
「それでね、そのミーちゃんが可愛いの!」
「へぇ、そりゃ是非とも見てみたいな!」
どうやら俺の話をしているらしい。
ってことは知り合いか?
「あっ、ちょうどいい所に!ほらルチーナさん、これがミーちゃん」
ミシェリーはそう言うと、俺の体をノルアから剥がし取り、その時人物へと躊躇なくわたした。
「へぇ、こりゃちっせぇネコだな、うーらどうだ、たかいたかーい」
「にゃ……?」
(ルチーナ…?)
「うぉっ!鳴き声も可愛いやつ!」
その人物は完全にルチーナそのものだった、ミシェリーに似た金髪、誰にでもモテそうなルックス、たしかにこの人物はルチーナだ、つい先日俺とあの豪邸内で意思疎通をした。
たしかにあの時ルチーナの姿はその家の中にあった、ミシェリーやノルアと触れ合う機会だって多いはずだ、なのに何故今、久しぶりに会ったように接しているんだ……?
「お久しぶりですルチーナ様」
「おっひさー、そだそだミリー、今日から泊まってくね〜フェミアによろしく」
「分かった!」
久しぶりに泊まる?
まてよ、お前つい最近あの家の中にいただろ。
「ルチーナさん、今並んでいるのは……」
「あー、気にしなくていいよ、ミリーとノルアに会えたからね、さっさと家に帰りたい気分になったよ」
「じゃあ早く帰ろ!!」
半額セールとやらに興味を示さなくなったルチーナは、あの豪邸へ帰ろうと催促する。
人間3人でいろいろと話が進んでいるようだが、俺は不可解な点で頭がいっぱいになっていた。
『やあやあお困りのようだね〜』
そんな悩みまくっている俺の脳内へ、ある声後響いた、ルチーナだ。
(お困りって、お前さっきの本当に久しぶりに会ったのか?)
『"記憶上では"そうなってるね』
(記憶上では…?)
『この前君に言ったでしょ、私は人の精神全般をいじくることが出来る。だから人の記憶の改竄なんて余裕ってこと』
こいつの言っていることは何となくわかった。
しかし何となくであるが故に訳が分からない。
(どうして記憶を消したんだ?必要あったのか?)
『今は秘密、でも後々知る機会はあるかもね』
あるかも……と言うと無いかもしれない、という訳で。
尚更ルチーナのやりたい事が迷宮入りしてしまった、こいつの企んでいることに俺の何かが関わっているから後々なのか、そもそも記憶を操作できるのなら今の会話だってすぐに記憶から消してしまえばこんな話をする必要だってない。
『おうおう、少しは答えに近ずいていってるかな?でもそんな考えたって最終的には全て無駄になるけどね〜』
ルチーナは前を歩く2人の背を追ってこちらを見ずに伝えてきた。
話を聴けば聴くほど謎が深まる、記憶に関する怪しい企みをしている人間相手に、1度足を踏み入れたのならどう足掻いたって逆らうことは出来ない。
これ以上深入りしてしまうとますます謎は増えていき、なんなら記憶だって簡単に消されてしまうかもしれない。
そんなことがもしあるとするならば、もうこの話はやめにしていつものご主人との暮らしをエンジョイするしかない。
そう考えながら、ルチーナにこの考えが読まれていることにも気づかず、クロネコはミシェリーの肩に乗ったまま目的地へと向かうのであった。