11話 対峙する者
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先程まで大粒の雨でザーザーとうるさかった外も、少し納まって人によっては心地よい音と感じる程に雨がやみ始めた頃、ルチーナは早速行動に出た。
「ルチーナさんどこに行くんですか?」
部屋にいたルチーナ以外の3人のうち1人、笹木 春が尋ねた。
しかしルチーナの頭はもう力橋の所へ急ぐことでいっぱいになっており、いちいち説得するのもめんどくさいとなんの躊躇いもなく3人の記憶を改ざんした。
階段を降りて外に出ようと玄関にたった時「もう帰るの?」と、後ろ声をかけられた。しかし今度は誰と確認することなくその人物の記憶を改ざんし、そして外へと身を出した。
「…………」
先程の雨が弱まったと言え、今降っているのも普段に比べれば少し降水量が多いくらい、その中を玄関口にかけた雨がっぱの存在すら忘れて小走りで目的の場所へと赴いた。
そこは三四素瀬荘から2キロちょっと離れた場所にあった。
ビル街の路地裏、怪しげな店が並ぶ中、ひとつだけなんの目印も看板もないパッと見ただけで分厚いと分かるような扉がそこにあった。
ルチーナはその扉のドアノブを回してみるが勿論鍵がかかっていた。しかしここまで来たのなら鍵がかかっていようが関係なしである、ルチーナは三四素瀬荘で停電した直後に掴んだひとりの人間に遠隔で命令した。
1分もしないうちに「ガチャッ」と解錠される音がしそのままドアノブを回し扉を開けた。
扉を開けるといきなり階段で、地下に行けるようになっていた。
そして何も怖がることなく突き進んでいき、やがてそこら中にコンピュータやら紙の資料などが散らばっている部屋にたどり着いた。
「きっ、貴様……?!」
「なんか言いたいことある?」
ルチーナは目の前にいる男、力橋 渡と対峙し声を荒らげることなく静かに聞いた。
「聞きたいことだぁ?はっ、貴様のその力で俺の頭ん中覗けば簡単に言いたいことなんて分かるんじゃねぇのかよ!」
力橋は所々震える声で目の前にいる女に叫ぶように言った。
「確かにそれでもいいけど、やっぱり喋った方が緊張感ってのがあっていいじゃん?」
「チッ……汚ねえ野郎め。貴様の目的はこれだろ!これをするのに俺の存在が邪魔だから記憶を消しに来たんだろ?!」
力橋はルチーナにタブレットの画面を見せつける、そこには久城が撮ってきた『100年物語計画』と書かれた資料の写真が映っていた。
「そうだな、そのためにお前の脳味噌の中にある"能力に関する記憶"だけを抹消するだけだ。それの何が不満なんだ?」
「はは、ふざけてんのかお前、俺は何百年も前から能力に関する研究をしまくってきた、俺の生きる糧は飯と睡眠と能力研究だ、ずっと昔から研究し続けてきたことを一瞬でパーだぁ?ふざけんじゃねえ!!」
「でも私のやりたいことに存在すると本当にいろいろ狂いそうなんだよねえ……」
「今お前が俺に言ってることはよ、今までお前が作り上げてきたこの都市をまっさらにしてゼロから始めさせるのと同じことだぞ?!お前は俺にそう言ったらようなもんなんだぞ?!」
力橋はルチーナの目を見続けて声をはりあげることにしか頭が回ってなく、それ以外の状況など一切気にしていなかった。
久城が、清水が、健がその状況を唖然として眺めているだけであった。止めようにもどう説得して止めればいいのか分からない、もし力橋の方を止めることに成功しても精神を自由に操れるルチーナを止める方法が、パッと出てくるだけで"殺す"という物騒な考えしか浮かばなかった。
「今までそこにあった都市が、暮らしが全部消えて家さえ無くなったところから数百万人はどう生活してその場を発展させていくのか、それも面白い物語になりそうねえ!いい事考えるじゃん!!」
ルチーナは怒りをぶつけている力橋とは裏腹に楽しそうにペラペラ喋る。
「それに能力の研究なんてまた1から始めればいいんじゃない?面白い物語りにするためにこの世界の各地方に7つ、能力を発現させる薬をばらまいた、そしてこの都市の図書館に能力に関する伝承の本をそれっぽく書いて3冊だけ置いといた。だから能力に関する情報がゼロになるわけじゃない、なんならあなたの生きがいになってる能力研究がまた記憶がなくなってゼロからできるっていうことに感謝して欲しいくらいね」
相変わらずペラペラ喋っているルチーナに言い返す言葉がすぐに思い浮かばない力橋はただ歯をギシギシと鳴らしながらそこに立っていることしかできなかった。
もしここでルチーナに対する攻撃を考えて、実行しようとしたって全て無駄で終わる。なんせ相手は精神操者、生き物の記憶を見たり改ざんしたり、その者の体だって操ることが出来るのだ。策を考えたところで全て読まれている。
「諦めたら?」
黙り込んでいる力橋に、一言だけ言った
「私相手じゃ何も出来ないでしょ」
また一言
「もし私を上回るような能力があるとすれば、それは私と同じような精神を操る能力とか、それかないとは思うけど力を無効化する能力とか、そんなんがなきゃ無理でしょ」
それを聞いた瞬間、力橋の頭の中にひとつの考えが過った。
つい最近、能力発現剤がばらまかれてまだ能力を使える人が残ってるかもしれない……その使える人の中に精神を操ることが出来る人がいれば……!!
力橋はルチーナにこの考えが読まれていることを分かってはいるが、少しだけ希望を持った。そしてその希望はすぐに無へと返された。
「あ〜、この都市の老若男女だれもが口にするような商品100種類くらいに能力の種を消去させる薬混ぜといたから、いや〜工場の製造ライン見るの楽しかった」
よもや楽しかった思い出を語るまでに気楽になっているルチーナ、傍から見れば余裕でぶちのめそうだが、世界最強とも言えるその能力を知っている者は、勝負を挑むなんてアホな考えすらしない、そんな人間を力橋はもう、止めることができなかった。




