3話 知らぬ間に働く男
「ルチーナさん『神願の塔』って本当に神様がいるんでしょうかね」
キルカイア都市を出たルチーナと清水の2人と俺1匹。
現在周りの景色と似つかぬ乗り物を使ってブンブン飛ばしている。
「本とか人の話でしか聞いたことないから本当のことは私にも分かんないよ。んな事より安全運転!」
「わ、分かってますよ〜」
清水力弥の能力で移動すればいいのでは?と思うかもしれないが、実は今から遡ること約1時間………
「そういえば僕もパフェ食べたかったです」
「1人で行けばいいじゃん、おとこなんだし、それよりちゃんと前見とけよ」
「男だからこそ行きにくい所もあるんですよ!さも普通かのように言わないでくださいよ」
「まぁまぁ、『神願の塔』で神様に会えたら一緒に行ってあげる。それよりちゃんと前見てね?!」
「よっしゃっ!言いましたからねルチーナさん、何かあったからって僕の記憶弄らないでくださいよ?」
清水は確定で行けるということでもないのにとてもはしゃいでいるようで、当然ルチーナが先程から注意を促している事に耳を傾けることはなかった。
注意をほぼ無視するような形で今も尚能力を使って2人と1匹が乗っているソファ(長時間の移動に疲れなさそうということで採用)をビュンビュンと空中で飛ばしまくっている清水、やがて目の前に少し大きな木が立っていることが確認できたが、浮かれ気分になっている清水はそんなもの簡単に避けられると更に動きまくる。
「ちょっとりっきー!少し落ち着いてよ!ほんとに危ないから」
「大丈夫大丈夫〜何年この能力使ってると思ってるんですか〜」
「………」
こんな清水の発言と浮かれ具合を見て俺とルチーナは今すぐにでも降りたいと思った、マジで。
けど今清水に下ろしてと言ったところでどうせ下ろしてくれそうにないし、清水の考えをルチーナの能力で弄ろうにしても、清水の扱っている能力についてあんまり詳しくないルチーナがやると悲惨なことになりかねない。
よってルチーナと俺は清水が落ち着くまで無事であることを祈っている訳だが、そんなことは神島に届くことも無く……
「あっ、べっ…!」
清水は調子に乗りすぎて体制を崩す、そのまま元に戻ろうと意識がそっち側にかたよってきまい、ソファがグラつく。
「っっ!」
ルチーナは必死に踏ん張り、内心助かる確率はほぼゼロパーセントなのかなぁと諦めていた。
だが清水はまだ全く諦めている気配を見せず
「っっらぁぁっっ」
なんとかソファを地面と並行にする事に成功した。
「っどやぁ」
からのドヤ顔、ルチーナは清水のそのドヤ顔をぶっ潰すかのように脳天にチョップをかまし、そして叫んだ。
「なにが「どやぁ」よ!最悪死んでたかもしれないのよ?!りっきーは今からキルカイア年に帰って乗り物でこっちに戻ってきて、早く!」
「………?」
「何とぼけた顔してんの?早く行ってきて!私達はここで待ってるから、30分以内に戻ってきて、いい?」
「ぁ…ぅっはい。」
「ほらはやく!」
ルチーナと俺が暇になって30分経つより少し早めにやってきた清水、乗ってきたのは窓ひとつないバギーのような乗り物で、人工物の他に平らなところがほとんどないこの世界を移動する手段としてはセダンなどを使うより断然マシな乗り物を持ってきた。(ちなみに運転の練習がてらここまでの道のりは運転をして来いと指示を受けた)
実はと言うと、キルカイア都市にはキルカイア都市で作られた発達技術を外の世界の人に見せてはいけないという、法律とまでは行かないがほぼ禁止事項みたいな事が言われている、だから車だろうがなんだろうが、光るものですら外の世界の人にとっては魔道具などしか見たことない、そんな人間たちが興味を持たれるか恐怖心を抱かれるかどちらかと言ったら十中八九恐怖心の方が大きいだろう、そうなってしまいその噂が世界中広がるとなると、キルカイア都市として色々と面倒なことになってしまうらしい。
だったら、
どうして清水は軽々と30分でこちらにこの乗り物を持ってこれたのか、これは言わずもがな清水とルチーナの2人の能力者がいるからである。
清水は無理でもルチーナであれば、人の記憶を自由に改竄することが可能だ。
だからもしこの動く鉄の塊を見られたとしても、ルチーナはその目撃者を見なかったことにし、そしてそのままその人のするべきことを続けさせるよう脳内へ指示するのだ。
ここで気になる人もいるだろうが、もしその目撃者にルチーナや清水、そして俺が気づかなかった場合、それはどうするんだ、と。
正直そこまで対策はしていなかった。
能力者が2人も!更に精神操者がいるのなら完璧だ。
そう言って車を外に出してもらった人間もルチーナの能力を過大評価しすぎ、そうでなくても普通に気づいて許可なんてとるはずがないだろう。
さらに言うとその点に気づいてすらいないこの能力者2人も、少しおバカなところがあったりするのだろうか……
とちらにせよ、今ここにキルカイア都市の技術物があるのは少しまずいのではないか、俺は道無き道を走るバギーに揺られながら考え込んだ。
『どうしたの?』
するとすぐ横から俺の顔を覗き込むような形でルチーナがかがみ込んできた。
(いや、色々と心配しすぎかもしれないんだけど……)
俺はいまさっきまで考え込んでいた事を全て吐き出した。
どうやらその事はルチーナから清水の脳内にまでリンクしていたようで、その場で3人とも同じことについて考え出した。
「それは確かに……言われてみれば僕が能力者だからって、許可が取れるの簡単すぎた気もします」
「確かにそうだね…私たちが心配し過ぎってのもあるのかもしれないけど、一応ここからはまたりっきーの力借りとく?」
さらっと清水の記憶を覗き込んで、その当時の場面を見ながらルチーナは言った。
正直俺は賛成だ、ないと思うしなんならないであって欲しいが、もし俺たちの知らないところで裏の力が働いていたりしたら怖い
(でもこの車はどうするんだよ、もしこれもりっきーの能力で動かそうにもパッと見さっきと変わらず鉄の塊が動いてるだけじゃん)
「確かに、ええっと……りっきー?」
「なんですか?」
俺がルチーナに聞いたことに対してルチーナは何やら突破口を見つけたのか、その鍵となるであろう清水に提案した。
「もっかいキルカイア都市に行く精神ある?」
「………………ないです」
「やっぱり」
しかしその提案は清水の悩んだ末に却下となった。
もしこれで清水がもう一度キルカイア都市へ、バギーを誰にも見られないような覚悟でキルカイア都市にまた向かうとなると、1度経験したあの地獄のような往復はもうしたくないであろう清水もマジで嫌そうな顔をしてこちらに無言の圧力を掛けている。
「あー、ごめんね?」
「え……?」
だがその無言の圧力にも負けずルチーナは"先に"謝った。
清水はいきなりの謝罪に素っ頓狂な声をあげ、そしてそのままバギーに乗り今来た道を帰っていった。
(お、おいお前まさか)
「ん?私なにかしたっけ?」
(あ、おう……何もしてない、俺は何も見てない)
「お絵描きでもしとこっと」
何食わぬ顔で近くにあった太めの木の枝をとり地面に絵を描きだしたルチーナ、俺は何も見ていない、何も知らないような気持ちでルチーナのもっている枝先に注目していた。
けど、これだけは言わせて欲しい。
…………こいつに嘘ついて逆らったら終わりだわ
それから40分後、清水は疲れた表情を一切見せずに「あれ?なんでこのソファがここに?」ととぼけた顔をしていた。
すまん、りっきー。




