2話 起動と喜怒と
電気屋へと買い物へ行った翌日
笹木春と千歳美希は現在、ミシェリーの部屋にあるベッドの上にて2人横になっていた。
その2人は今から昨日ルチーナが自腹で買った新作ゲームとやらを始めるところだった。ふたりの頭には、その頭を覆い被すようにヘルメットのようなものを装着しており、そこからコードやらケーブルが伸びていた。
「よっ、よし、私は準備おーけー!」
「うちもいつでもかもーん、」
篭り気味の声を確認したその他フェミア、ルチーナ、ミシェリーの3人は、笑顔でいた。
ちなみにノルアと清水力弥は今夜の晩御飯の食材調達のため今は不在である。
3人の笑顔を、視界の端っこで確認しながら、ベッドの上の少女2人はゆっくり目を閉じ、そのヘルメットのある場所へと手を添える。
「あ、あの、誰か「せーの」って掛け声下さい。それで私と美希一緒にGOするんで!」
まだ新たな感覚へと溶け込むのが怖いのか、春は誰でもいいので掛け声を要求した、そしてその要求に答えたのが…
「すりー、つー、わーん、ワールドスタートーー、」
「えいっ………」
すぐ隣にいる美希の掛け声により、その隣にいる春は1人だけ新たな世界へと足を踏み入れた。
「あっあれ?美希ちゃんはいかないの?」
そんな中まだゲームの中に入ってない美希にミシェリーは聞いた。
他のふたりも少しは気になってるようで当の本人を眺めている。
「いやー、毒味的なあれだー、もし出れなくなったりとかしてー…」
「そんなんねぇからさっさといってこーい」
スクっと起き上がった美希を押し倒しながらルチーナは言った。
そしてさすがにそこまで頑固ではなかった美希も諦めて意外と軽いノリで目を閉じ起動ボタンを押してしまった。
「いっちゃったわね〜、早速中継で見てみましょ〜」
2人が静かになったのを確認したフェミアは今度は机の上に移動してきてテレビ2台の電源を点け、ヘルメットから繋がっているケーブルの接続を合わせた。するとそこには1人の少女が映っていた。
「これは春ちゃんの方かしら〜」
「初期設定かな、今はアバターの外観設定だな」
「これほんとに春ちゃん?!」
各々が何か言う中、モニター内にいる少女の見た目はどんど変わっていき、やがてルチーナのような黒髪ロン毛のかわいい女の子が出来上がっていた。
「ってこれ私じゃね…?」
「設定画面がどうなってるのか分からないけど〜どうしてもルチーナの姿が出てきちゃったのかしらね〜」
「あ、美希ちゃんの方も今設定してるみたいだよ!」
「美希ちゃんのアバターは春ちゃん似ね〜」
「こいつらオリジナルのキャラクター作るの苦手なタイプかな…」
この後も細かな設定が少しばかり続き、ゲーム起動から15分程経った時、2人のアバターの転移が始まった、行先は一国の大広場だった。
目の前には綺麗な噴水が湧き出ており、その周りには店や宿など、生まれも育ちもキルカイア都市である2人の少女にとっては、とても興奮するような景色になっていた。
モニター越しからもその様子は伝わるもので、早速2人は当たりを見渡して好き勝手に散っていった。連絡手段はもう決まっているのか分からないが序盤でそんな散っても大丈夫なのか、画面を見ながらしみじみ思っている俺に、ふと脳内に話しかけられた。
『お兄ちゃん、楽しそうに見てるのは分かるけど、今はこっちの話を聞いて』
(うぉ、急にどうしたんだよ)
『とりあえず、私の部屋に来て』
(分かった)
「あ、私ちょっとやらないといけない事あったんだ、自分の部屋戻っとくわ」
「あら〜、ここからが面白そうなところなのに〜?」
「なんか2人剣振り回してますよ?」
「あはは、大丈夫。話は後でたんまり聞かされるだろうし、とりあえずまたね」
「は〜い」
とりあえずルチーナは適当な言い訳を作ってミシェリーの部屋を脱出、それについて行くように俺も部屋を出ようとしたわけなのだが…
「ミーちゃんは私と一緒にいるの!」
「にゃぁ?!」
(まじかよっ!)
ルチーナのように簡単に部屋を脱出することは無理だった。
そして部屋をなかなか出てこない俺の状況を察したのか、先に自室へと足を運んでいる結望から、壁越しの脳内会話が始まった。
『別に無理にこっちに来なくてもいいけど、来た方がわかりやすいだけだし……』
(なんか拗ねてる?)
『すっ、拗ねてなんかない!いいから話し始めるよ!?』
(おっ、おう)
何か心情を隠すかのようにした感じの結望であるが、実は自分が重度のブラコンに気づいてなかったりするので、兄へ対する愛の気持ちがバレぬよう、隠しきれていない愛情を頑張って隠しいるのだ。
『まず単刀直入に、薬ができた』
(えまじ?)
結構どストレートに単刀直入な発表であったが、どうして今まで何年、もしかしたら何十年もかかっていたかもしれない能力を打ち消す『対能力消却剤』が、今となって急に出来上がってしまったのか、俺の質問しようとしたことを分かっていたかのように先に言ったのは結望の方だった。
『たっ、ただお兄ちゃんの記憶が戻って…あとはカクカクシカジカ…』
(なるほどそうだったのか…じゃねぇぇっよ!なんだよカクカクシカジカってぇ!)
『だっ、だってぇ!言えないモノは言えないんだから濁してもいいじゃん!』
(俺が1番気になってる事だぞそれ?!)
『話が進まないからまた後で説明する!』
(お前そのまま一生話さないやつだろ分かってんぞおら!あ、ってかお前前世の時のあの話、まだ最後まで理由を聞いてねぇぞ?!)
『とりあえず、私は近いうち大手企業の工場に潜り込むから、それだけを伝えたかったの!』
「にゃぁぁっ?!」
(はぁぁっ?!)
「どっ、どうしたのミーちゃんっ?!」
「あら〜、春ちゃんと美希ちゃん合流したみたいね〜」
「おぉ!さすがミーちゃん、ちゃんと見てるね〜!」
『じゃあその時は覚えててね、お兄ちゃん♪』
(お前俺が人間になった日には絶対なんかしらの仕返ししてやっからなぁ?)
『べっ、別にお兄ちゃんなら身体弄られても平気だし……』
「にゃにゃぁぁっ!!」
(何言ってんだてめぇっ!)
「今度は何っ?!ミーちゃん」
「あら〜2人でパーティーメンバーになったわ〜」
電気屋に行った翌日、今日も今日とてニルン邸は喜怒歓喜が渦巻いていた……




