4話 平和な朝
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目が覚めると、目の前にはルチーナのお腹が広がっていた。
そして俺の目からは涙が零れていた。
目の前にあるルチーナの独特なデザインの服から視線を外してみると、全面締切っているカーテンの隙間から、数ミリ程度光がさしていた。
そのたった数ミリの光さえ眩しく見えるほど真っ暗闇に包まれているこの部屋、初めて見た時、そして入った時には少し漏らしそうになってしまうほど、説明しにくい恐怖感があった。
しかし、ルチーナの記憶を隅から隅まで、見てしまったミリーにとって、改めてこの部屋を見ると、全く違う感覚が湧いてきた。
「おはぁ……」
するとそこで、ルチーナの方も太ももの上で足踏みをし、周囲を見渡すクロネコにより目が覚めた。
「………」
(おはよう)
いつもなら声を出して言うあいさつが、今朝は少し違っていた。
今までの感覚で言おうにも寝起きのせいかもしれないが出来なかった。
「どうよ、私の記憶、ついでにお前のもな」
ルチーナは口角を少しあげて呟いた。
俺は妹を庇って死んで、この異世界に来た。中継地点とか神様や女神からのチートスキルもなく、挙句の果てにクロネコの姿になってこの異世界へと転生したのだ。
転生後、目覚めた場所はご主人のベットの上、真横にはそのご主人の小柄な姿があり、時間が経つにつれ俺はこの家、屋敷で飼われているペット的存在だと言うことがわかった。
それから、ご主人やお母さんのフェミア、ノルア館長の他に、ルチーナや清水の2人の人間とも出会いこの屋敷は1層明るく、それと同時に俺の未来も明るくなりつつあった。これから明るくなる未来の始まりが、このニルン邸内のご主人のベットの上から始まった。
だがこの転生。本当の始まりは今話したものではなかった。
先程ルチーナがサラッと言った言葉「私の記憶」。そしてその後に続けて「ついでにお前のもな」。
何故だろうか。クロネコミリーが眠っていた時、見ていたのはルチーナの生まれた時からの記憶、それだけだったはずなのに、その記憶によくでてきた3人の人間のうち1人はよくルチーナ本人の傍にずっと居た。
その1人の少年がどうしても自分なんじゃないかと思いながら、ルチーナの記憶は止まることなく、どんどん時間は進んでいった。
「(やっぱり詰め込みすぎたかなぁ)……いろいろ理解した?」
ルチーナは思い返しているクロネコを見るなり誰にも聞こえないような小声で何かを言った後に、聞いてきた。
(どーゆーことだよ)
「んーにゃ、なんでもねぇよ。まだその話には続きがあるかもって話しさ」
(続き?今まで見せてくれたので全部なんじゃ?)
ルチーナの言葉に引っかかったクロネコは、頭を傾げ言葉の彩を見つけ出そうとした。だが答えを先に言ってしまったのはルチーナの方だった。
「私は私の記憶全てをお前に見せたつもりだけど、どうも理解してないところがあるから全て見せれたわけではないんだなぁって」
(それはつまり…?)
「まずお前、目が覚めた時泣いてたろ?私の記憶を全て見たのなら、お前の中でクルクル回り続けている歯車同士がガッチリ合わさるはずだ、それで涙を流していたのならそれは正解だ。けれど今お前の頭を除く限り、その正解にはまだたどりつけてないっとことよ」
ルチーナは机に置いてある缶コーヒーのプルタブを開けて飲み始めた。昨日の夜飲んでいたものと同じものだ。
それを見ながらクロネコミリーはさらに困惑してしまう。
(言ってる事がどんどん分からなくなる。少し聞いてもいいか?)
「ご自由に」
(まず、俺はお前の言う正解にはたどり着いてないんだよな。その正解ってなんなんだよ)
「お前自信の全てが分かる時」
ルチーナはグビグビ飲んでいる缶コーヒーをゆっくり下ろすと、大雑把ではあるが説明してくれた。
それに尚もミリーは聞いていく。
(俺なりの理解で悪いけど、つまり俺は自分が気づいていないだけで、ルチーナの記憶を全て見たってことか?)
「間違ってはないわね〜それから?」
ルチーナはもう一口コーヒーをのむ。
構わず俺はド直球で聞いた。
(それじゃぁ、今までとは違う俺になって聞く。ルチーナさんにとって俺はどんな存在なんだ?)
一瞬にしてルチーナは顔色を変えた。
静寂に包まれているその暗闇の部屋、たった1匹のネコに対して1人の人間が口を開いた。
「存在ね……まぁ今パッとすぐ浮かんだ言葉で言うなら、『私のネコ』って感じかな……」
「にゃにゃ?!」
(わたしの?!)
ルチーナのボケなのか本気なのか分からないその言葉に、クロネコは思わず声を上げてしまった。
「驚かれてもねぇ……実際そうなんだし〜」
クロネコミリーの思いも否定せずにルチーナは行ったことが嘘ではないことを伝えた。
そしてその瞬間、静寂と暗闇に包まれていたその空間は、一瞬にして、いつものような和やかな空気へと戻ったのだった。
「ルチーナさん!勝手にミーちゃん取らないでくださいよ?!」
ミシェリーは朝食を食べに来たルチーナに対して朝にもかかわらず、結構元気な声で言った。
「私はなんも悪くないって〜わるいのはこいつの撫で心地だかんね」
相変わらず自分が怒られているという立場をひとつとして理解してないルチーナは、元凶を俺に移してきた。
「にゃにゃにゃ〜?!」
(俺は何も悪くねぇだろ!)
思わず反論。
「ほら!コイツも言ってるし!」
「ほら!ミーちゃんも言ってるよ!」
俺は起きたばかりの気持ちがいいはずの朝。なぜか今両サイドの耳から、大音量の声で大きな声が聞こえてくるのはどうしたら止められるのか、でもなにか事件じみたことが怒るよりは何倍もマシである。
その日ルチーナから記憶をもらい、それでも全ては見ることの出来なかったと言われた1匹のクロネコは、現在キッチンで朝ごはんを作っている2人の女性に対し助けを求め続けるのだった……




