10話 清水さんのお土産
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清水は現在、フェルノウド王国を出て数キロ先を走っていた。
謎の少年についてもっと聞きたいことがあるのなら冒険者ギルドに直接来てください、というミルスフィーナの言葉なんかさっさと忘れて、行き良いよく走っていた。
清水の走っている目的は今のところは2つ。
まず1つ目は当の謎の少年について本人から直接色々と聞き出すことだ。
清水が勝手に追っている謎の少年は、この世界ではとっくの昔に消えたはずの様々な魔法、今までの話で言うなら古代魔法とやらを使いこなしているのだ。今現在の風魔法などで空を飛ぶ様な魔法は発見されていない、できたとしてもそれは世界一風魔法が得意な人間が、赤ちゃんを思い切りな風圧でギリギリ浮かすことができる程、それでも浮かせて移動するのは不可能である。
しかしその謎の少年は軽々と自身の体、ましては周り数人こ少女すら浮かせて移動していたのだ。
重力魔法以外にもミルスフィーナから教わった雷撃魔法、有名なところでは闇属性、光属性などの魔法を使えるはずのない現代で、いとも軽々と消滅したはずの魔法を行使している謎の少年について、清水は興味津々になっていた。
なので1つ目は謎の少年がどうしてその魔法を使えるのか知りたいということ。
そして2つ目、それはこの古代魔法を扱える謎の少年を「お土産」としてルチーナの為に持って帰っていくことだ。
どうしてお土産になったのかは清水とルチーナもお互い何故かわかっていないが、とりあえず「旅から帰ってくる時に渡すものと言えばお土産でしょ」ということでお土産になった。
どうして謎の少年、しかも人間をお土産にしてルチーナに渡すのかは、清水もルチーナに嫌という程聞かされていたことがある。
ルチーナ曰く、この世界は現在、火、水、風の3つの魔法の属性しかないことにより平和が保たれているとの事だった。
先の3つの属性以外にも沢山の魔法があった時代、それは魔族と神族が終わらぬような争いを四六時中続けていた時代であり、それが平和にみえることがないのは、火を見るより明らかだった。
魔族と神族は、ありとあらゆる属性の魔法を使い、敵を塵一つ残さぬよう駆逐していた。そしてその影響もあり、魔神大戦に関係の無い地上の民にも、魔族と神族が零した魔力によって、様々な属性の魔法を発現させることが出来た。
だがある日、その魔神大戦は突然の終わりを告げた、不可解な終わりと同時にその時まで簡単に発現できていた色々な属性の魔法も、使えぬものとなっていた。
魔神大戦が突然の終わりを告げた理由、それと同時に使えなくなった様々な魔法については、今でも解き明かされていないという。
話が逸れたが、その大戦時の地上は魔神大戦には劣るものの、ある程度荒れていた。国の中にも限らず破壊魔法をぶっぱなす不良や、重力魔法を使ってスカートをめくりあげるとか言う小さいことばかりする変態集団すらいた。
殺戮すら容易にすることのできる、大戦終了前の世界は、数え切れないほどの種類の魔法が飛び交っていたが、魔神大戦が終わると同時、その飛び交っていた魔法の属性もいつの間にか3つの属性しかなく、それもまた人間などを殺すには少し物足りない力量であり、それっきりその世界は何もかもが平和になったのだ。
故に現代の平和は魔族神族お互いの争いがないからこそ続いているというわけで、この情報量をルチーナによって何度も聞かされた清水はいつの間にかほとんど内容を覚えてしまっていた。
そんな訳で出てきた2つ目の目的が謎の少年をルチーナにお土産として持っていく。
このままその謎の少年を放置しておくと、何時ぞやの大戦と同じようなことが起こって平和主義と言いまくっているルチーナが許さないのだ。
なのでその少年をどうにか捕らえてルチーナの元へと持っていき、ルチーナが記憶を弄ることによって、その古代魔法についての知識をひとつ残らず消してしまう。
このふたつの目的があるので清水は今も勝手に謎の少年を追いかけているのだが……
「んー、あの人によるとこの辺りのはずなんだけど……」
清水は駆け足気味に動いている足を止め、当たりを見渡してみる。
清水の言っているあの人とはミルスフィーナのことであり、ミルスフィーナから山の麓に火竜が出たと情報を得た。
そしてその火竜を依頼も受けていない、自主的に倒しに行ったのがその謎の少年であり、倒しに行く途中空を飛んでいたのをちょうど清水は見ていたわけだ。
清水は暫く辺りを見渡してから、今度は少し山に昇……ってみて、また周りを見渡してみる。すると
「お。あのシルエットは美味しい火竜で…その下の人たちが……」
少し離れたところに、強大な覇気を纏っている赤黒い竜と、それに対峙する5人の姿が見えた。
そのうち1人の少年だけが、清水の目的の人間であり、その周りにいる4人の女になんか一切目を惹かれていなかった。
清水は普通だったら怖気付くはずの竜を前にしてなんの躊躇もなくその少年に近づいて行った。
真面目そうな見た目とは裏腹に清水は呑気に声をあげた。
「あのー、すみせーーん!今いいですかーー?!」
絶対良くないであろうタイミングなのにも関わらず清水は呑気な声で呼びかけた。
そして普通だったら何かしらのモンスターと戦っていたら言葉なんて返すことなんてしない、ましては竜という強いものであれば国ひとつを滅ぼしてしまうほどの力を持つ、そんな化け物を前にしてその謎の少年は「ん?」と危険感なく清水の方を見た。
「えっと、聞きたいことあるんですけどいいですか」
清水はその少年との距離を一気に縮めながらも言い放った。
それに対して少年は
「あぁごめんね、この火竜をぱぱっとやっちゃってから聞いてくれると助かるよ、ここにいると君は危ないからそこの岩陰にでも隠れといてね」
目の前にいる火竜を前に軽々と告げて、いきなり飛んで行った。
(まっ、また古代魔法いったいあの少年は何者なんだ…?)
清水がその少年について悩みつつ、目の前で起きている火竜との戦闘を見つからぬよう岩陰で見てると、その少年は重力魔法以外にも、ミルスフィーナの言っていたように、確かに色々な古代魔法を扱っていた。
強敵であるはずの火竜をいとも簡単に倒してしまった少年は、次に死体とかした火竜の元へと歩み寄り、腰に着けてある巾着袋のような物を手に取った。
「(なんだあの袋は…なにかふりかけるのか……?)」
清水がその巾着袋の中身を予想しているのもつかの間、それはすぐに始まり直ぐに終わった。
死体になって地面にへたり混んでいる火竜に向けて、その少年は巾着袋を開いた、するとその巾着袋はブラックホールかのように火竜を軽々と飲み込んで言った。
手のひらサイズの巾着袋のはずなのに、巨大な竜の体をその小さな布の中に収めた。
「(なっ、なんだあの袋は?!あっ、亜空間的な何かでもあるのか、いやでも今までそんなものは聞いたことも無いしな……)」
「何ぶつぶつ言ってるにゃ?」
清水が岩陰でブツブツと口から出していると、突然真後ろから獣人らしき人間から声をかけられた。
「ふぇっ?!なに?!」
勿論考え事をしていた所にいきなり話しかけられた清水は素っ頓狂な声を出し、その反応を見た獣人はニシシと笑い、清水の目の前へと移動した。
「よっ、レイヤに何か用にゃ?」
その獣人はよく見るとネコ耳があり、体の後ろからひょこひょこと細いしっぽが度々顔を出していた。
「れっ、れいや…レイヤ?もしかしてあの男の名前か?」
清水は「レイヤ」という名前を連呼しながらも獣人の娘に確認を撮った。
「そうにゃ、レイヤは強いにゃ」
「強いのか……」
獣人の娘は首を縦に振り頷いたところで、また別のところから声がかかった。
「こらミーナ!」
「にゃぅ、逃げるにゃっ!」
「あっ!フィーシャ、ミーナを抑えてくれ!」
「了解っ!」
清水は、獣人の娘が言った言葉に対し、この男をどう捕えるかについて少し悩んでいた。そして清水の前にゆっくり歩いてきたレイヤであろう少年は、獣人の娘に何やら怒るような真似をすると、その獣人の娘は一瞬で清水の前から姿を消した。そしてそれを追うように金髪の子が辺りを捜索し始めた。
「ごめんね、ちょっとあのネコ耳のある娘はやんちゃでね」
「はっはぁ……」
獣人の娘と入れ替わるように前に立ったその少年は、清水と同じくらいの身長、体格的にも体重もおなじぐらいに見える。髪の毛も清水と同じく真っ黒で短髪だった。
「僕の名前はキリガミ レイヤだ、僕に何か用でもあったのか?」
「苗字……この人は都市側の人間なのか…?……あっ、僕の名前は清水力弥で、古代魔法について色々聞きたいのですが……」
何かぶつぶつと口を動かしている清水には追求せずにレイヤは、その用を聞いた。
「ごめん、この魔法については言えない事情があって……」
「そっ、そこをなんとかできませんか?!」
古代魔法について聞き出したかった清水の要求をなんらかの事情があって言えない、と断るレイヤに対し、清水は更にお願いした。だが帰ってくる言葉は同じようなもので…
「だからっ!ダメなものはだめなんですって!」
「じゃ、じゃあ!せめてそのダメな理由だけでも聞かせてください!」
「それも無理なんです!」
キリガミ レイヤがあまりにも断るおかげで
互いの声のボリュームは段々ヒートアップしていき、やがて周りにいた4人の少女にも声が届いた。
そしてその声を聞いたうちの2人、身長、体型、顔立ち。髪型以外何もかもが似ている恐らく双子であろう少女がこちらに駆け寄ってきた。
「あの!レイヤ様に向かって口答えしないでよ?!」
「そっ、そうだよぅ…ごっ、ご主人様を怒らせたら…こっ、こわいんだぞー……!!」
何を言っているのだこの2人は
清水が今思っていることはこうだった。正直色々と状況が整理はおろか理解すら出来ない清水にとって、今思えることがこれだったのだ。
「こらこら2人とも、そんな僕を庇うようなことはしやくていいから!」
「「でも」」
状況が飲み込めない清水を置いてレイヤは、双子の姉妹に説教をしているようでしていない感じで口を開いた。
「何があったんですか?」
すると今度はそこに獣人の娘を縄でぐるぐる巻きに縛り付けた金髪の子が乱入してきた。
「いや、どうして古代魔法が使えるのかきになって」
「古代魔法…ですか。ご主人様、少しくらい教えてもいいと思いますけど……?」
金髪の少女がレイヤに言ったが、それでもレイヤは口を閉ざし古代魔法について一切教えてくれなかった。
ここまで来ると本当に教えてくれなさそうなので清水にはひとつの考えが浮かんでいたが、初対面の相手にいきなりこの力技はちょっとなぁ…と、清水は頭をうならせた。
「僕達はこれで帰るけど他に聞きたいことは無い?」
すると今まで黙っていたレイヤがいきなりくちをひらいた。
「古代魔法の──」
「無理です」
抵抗する清水に対し冷静に即答したレイヤ、これにより清水の考えは先程までやらないと思っていた力技を実行する1歩手前まで進んでしまった。
「ご主人様、どうして教えてはいけないのですか?」
「これまたレイヤの故郷のニッポンってとこのルールかにゃ?」
清水が黙り込んでいるのを横目に金髪の少女とネコ耳のはえた少女が言った。
「あぁ…」
それに静かに答えたレイヤは、目の前に入れ清水と同じように黙り込んでしまった。
そしてそのあと数十秒後
「もう僕達は帰ることにするよ」
「まっ──」
いきなり出てきた言葉に対して清水は思わず声を上げてしまった。
「おいお前ら、とりあえずギルドに帰るぞ〜」
そして目の前になにか聞きたげな人がいるのにも関わらずレイヤは周りの4人の少女に呼びかけた。
清水はレイヤの気に食わないことを言ってしまったのか考えてみたが、古代魔法について聞いただけで言ってはいないはず。とついさっきまであった出来事を思い出してみた。
それでも清水はどうしてレイヤがこんな不機嫌のようになってしまったのか分からずにいた。
「じゃあな」
清水が思い返しているうちに5人の人影は帰宅準備に入っていた(と言ってもほとんど何も持ってきていなかったが)。
色々置いてけぼりにされた清水の目の前にはまだレイヤがいる、清水が目の前にいるからなのか見るからに不機嫌さが伝わってきていた。
「あの、最後に1つ聞きたいんですけどいいですか?」
レイヤの不機嫌そうな顔を見た清水はそれでもしつこく問うた。
「答えられるやつはな」
それに対してやはりレイヤも不機嫌そうにかえした。
「そもそもあなたはどんな人なんですか?」
清水は古代魔法の事ではなく、他のことを聞いてレイヤの機嫌を取り戻そうとしていた。だが何かを間違えたのか、レイヤはさらに不機嫌そうな顔をした。
「古代魔法が使えるタダの凡人だよ。僕は」
そして一言いった。
それが一体何を意味しているのか、そもそも何か意味しているものなのかも分からずに清水はそこに立ちつくした。
(古代魔法が使えて凡人とかこの世の生物の価値観どうなってんだ……)
さらに清水の表情も伺わずにレイヤは周りの少女4人を引き連れてとうざかって行こうとする。
顔を上げた清水に、レイヤは1度足を止めた、なぜ気づいたのか。もう考えることすらしなくなった清水に
「そこらのモンスターに襲われんなよ、竜を目の前にした命知らずさん」
レイヤは一言告げてその場を去ろうとした。
しかし、清水にとって「命知らず」という言葉がどれだけ深い意味のある言葉なのかも知らずに、レイヤと少女4人は軽々と空を飛んで行った…
はずだった。
「あぁ、もう我慢出来ない!命知らずなんて軽々と言うんじゃねえ?!」
その瞬間、空を飛んでいた5人の両足に、地面から飛び出た"蔓草のような形をした固い土"に、5人はバランスを崩した。
清水。キルカイア都市に3人(+α)いると言われる魔法とは違う「能力」と言われる、その本質はキルカイア都市の技術でも分かってはいない、不思議なモノ。
その能力のうち1つ、「物体操者」。
清水に宿る不思議な力であり、やろうと思えばこの世界だって破壊出来るかもしれない人間を、キリガミレイヤという少年は、自分の都合によって敵に回してしまった。
「速攻便で送ってあげますよーっ、ルチーナさぁぁっっん!」
敵に…回してしまったのだ……。
清水は後になって冷静に考えてみた。
別に相手に「命知らず」って言葉を使うな、ということを忠告した訳でもない、だから言っても相手側に悪い意思は無かった、しかしその時の清水は、相手の不機嫌さも相まって人間をお土産にするという行動に出てしまったのだった。
前話との間が少し空いてしまいましたが、これからは最低ラインを4日にしたいと思います…




