9話 料理勝負はノルアの圧勝
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「………」
俺ことクロネコミリーは現在ルチーナという名の女性の腹の上で目を覚ました。
ここはニルン邸、キルカイア都市の一宮区にある周りの景色とはまったく違って、随分と浮いているように見える家…いや、屋敷だ。
その屋敷の二階にあるココ最近まで放置されていたルチーナの部屋にて、俺は目を覚ました。
別に目を覚ましたからって朝のルーティンなんかがあるって訳じゃないので、とりあえずルチーナを起こすために俺は目の前の女性の顔の真横へと移動する。
そしてすぐ目の前にある頬に寝起きの猫パンチ。
「んん……」
1回目ではあまり効果が出ないのも分かっているので続ける、なれた動きで2回目のパンチを打ち込む。
「んぁ………」
いつもならこれで目を覚ましてこちらを見てくれるのだがどうやら今日は起きてくれない。
クロネコミリーが繰り返し軽く猫パンチを繰り返していると、ルチーナの手が急に猫パンチをしているクロネコの体を軽く掴む。
そのまま若干引きづられながらも持ち上げられ、やがて再び腹の上へと戻された、しかも体の上にはルチーナの手が2枚重なって脱出困難になっていた。
「にゃぁぁぁっっ」
(手をどけろぉ!)
くっ、くそ!こいつマジで寝てやがる…
そういえば昨日遅くまでゲームしてたような…確か、3時とかまでなんかピコピコ音が聞こえて寝付けが悪かった気がする。
ルチーナは目を覚まさないどころか暴れまくるミリーを抑えつけていると、部屋のドアの方からコンコンと軽くノックする音が聞こえた。
「にゃ〜〜」
(助けて〜)
勿論まだ寝ていたいルチーナはそんな音を聞かなかったかのようにスルー、いや、ほんとうは聞いてすらいないのかもしれないけど。
「入りますよルチーナさん」
ドアをノックした者の正体はノルア館長で、呼び掛けにルチーナが返事をしなくともドアを開けて堂々と部屋の中に入ってきた。
「にゃ、にゃぁ…」
(た、たすけて)
「これはこれは」
ノルア館長はこちらの抑えつけられている姿を見るなりそそくさとベッドの方に近寄り、ルチーナの体を揺さぶった。
ちなみに腹の上で抑えりている俺も揺さぶられていた、結構激しいからもうやめてくれません?もうこのお寝坊さんなんて放置して俺だけでも助けてくれればそれでいいんですけど。
「起きてくださいルチーナさん」
「あと10分……」
ガキんちょかよ!お前にとってノルアはオカンなのか?!
「まったく…どうしたものですかね……とりあえずこの子だけでも、と」
「にゃにゃぁ〜」
(ありがたやぁ)
ルチーナを起こす前に俺を解放してくれたノルア館長には感謝しなければ、よし、ノルア館長がルチーナを揺さぶってるうちにちょっとフェミアさんの所に行ってみるか…
「起きてくださいルチーナさん!」と言う声が遠ざかっていく中、1匹のクロネコはまだ少し慣れていない階段を1段ずつゆっくり降りていき、1階の廊下を真っ直ぐ行き右に曲がった所にあるリビングへと足を運んでいた。
リビングにある長テーブルにフェミアは1人座って何やら読んでいた。
俺はなんとなくフェミアの座っている椅子の隣の方に登ると、こちらに気がついたフェミアが手を伸ばしてきた。
「ルチーナの所で寝るのはつらいでしょ〜今夜は私のところで寝るぅ〜?」
そのままクロネコの軽い体をひょいっと持ち上げるとフェミアの目の前にポンと置きものにされ、そして話しかけられた。
にゃーにゃーとしか返すことがないので適当に「にゃ〜」と軽く鳴いみると、フェミアは少し笑顔になって頭を撫でられた。
「まったくどうして猫ってこんなに可愛いのかなぁ〜はぁ…本当に今夜一緒に寝ないかなぁ」
頭を撫でながら言ったそれは相手がネコだから言えることであり、それを言ったフェミア本人はまたまた俺の体を持ち上げると、今度は頭の上にのせられた。
「こうゆうのってやってみたかったのよね〜えへへ〜」
なんだろうこの感じ、まず最初に言えることはこのお母さんいい香りだなぁ、さすが御屋敷にあるシャンプーは違いますなぁ…
そしてルチーナと違って全く嫌な気にならない、むしろやってもらいたい。
お?あれは時計…ってもう11時……?!
「あら?頭の上は嫌だったかしら。それじゃあ肩なんてどう〜?」
全くの誤解をしたフェミアは浮かれた気分で頭の上に乗っけていたクロネコを今度は肩の方へと移動させた、いつぞやのミシェリーの如く。
そしてフェミアは再び読み物を再開した。
読み物というか、見ていたのはこの前本屋に行った時に見つけた「キルカイア都市、外食ならここ!」というなんとも胡散臭いレイアウトをしている雑誌を眺めていた。
意外とこうゆう胡散臭さには気づかない人なんだろうか……
「あ!今日のお昼はここのレストランなんてどうかなぁ、いいよねぇミリーちゃ〜ん」
早くもなにか目的を見つけるや否や話しかける相手がネコである俺しかいないフェミアは可愛がる子供のように俺に聞いてきた。とりあえず適当に「にゃー」と半棒読みで言うと、フェミアは「それじゃあルチーナも起こされてるはずだし私もお着替えお着替え〜」と言いながら俺を肩に乗せてそのまま自室へと足を運んだ。
まだ育ち盛りで動きが活発なご主人や、歩き方ががさつなルチーナと違ってフェミアは何だか穏やかで、歩いている時の揺さぶりが心地良い。
現在ルチーナはノルアに監視されながらもお出かけ用の洋服に着替えていた。
結局ミリーが部屋から出たあとも起きなかったのでノルアは力ずくでルチーナを立たせ、「頭から水をかけさせますよ?」と脅した結果ルチーナは「へいへい」と言いながらダラダラ足を動かしたのだ。
ルチーナは読み尽くした本の知識から得たコーディネートの組み合わせしか服をもちあわせていない、そのためか今日はなぜかノルアの持っている服を着ることになったのは、ルチーナ本人もよく理解していないことであった。
数分後、ニルン邸の玄関には3人の女性の姿があった。
言わずもがなフェミア、ルチーナ、ノルアの3人である。ちなみに俺は先程と変わらずフェミアの肩に乗っている、フェミアが服を着替えるところを目の当たりにした俺が言えることはただ1つ、「このお方意外と着痩せするタイプ…」それだけだ、これ以上は言わないでおこう、いろいろとまずい気がする。
ちなみに俺がフェミアの肩に乗っている横でルチーナは「私のクロネコをかえせぇっ!」などと嘆いていたがその両サイドにいる2人は全くの聞かぬふりをして足を動かし始めた。
「なぁフェミアぁ〜どこで昼飯食うんだよ〜」
無視されたことには何も思わずにルチーナは率直に言うと
「それは着いてからのお楽しみよ〜」
フェミアは笑みを浮かべて言った。
その返しを受け取ったルチーナは一瞬コイツがどこに行こうとしているのか頭の中を覗いてやろうかと思ったが、やめておいた。こんな小さなことで色々やってしまうと、この前のフェミアとの約束はいつまで経っても守れない。ルチーナはそう自分に言い聞かせるようにして潔く楽しみにしておくことにした。
「ねぇルチーナ、今あなた私の心読もうとしたでしょ?」
「びぇっ?!」
思いとどめたのもつかの間フェミアはルチーナの思っていたことを簡単に当ててしまった。
それに驚いたルチーナも変な声が出てしまっていた。
「図星ですねルチーナさん」
さらに追い打ちを書けるように言い放ったノルアの言葉には。もうちょっとしたお遊びが含まれていた。
「そそそ、そんなわけないじゃない!あははぁ〜っ、はは?!」
「そう?ならいいわよ〜」
何かを隠すように、そして勘違いされそうな言い方で言ったルチーナに対してフェミアはこれ以上いじるのはやめておこうと、この話題をスパッと切っておいた。
「あ〜、力弥のやついい土産見つけたかな〜」
「あら清水君のこと?」
いきなり他の話題について口を開いたルチーナにフェミアは確認をとる。
「そうそう、いろいろと有名って聞いたフェルノウド王国ってとこに行かせたんだけどさぁ」
「フェルノウドって言うとあれね、結構有名な所よね」
「都市を覗いは世界1位2位を争う大国と聞いております」
ルチーナの言った言葉にフェミアとノルアは付け足して言った。
フェルノウド王国、この国はこの世界にある電子機器で発展した都市を除きこの世界の1位2位を争うほどの色々な面で優越を誇っている大国であり、もちろん観光地としても有名である。
街並みや多種多様な種族が平和に行き交っている国は、争いなど一切無関係に見えるほどの穏やかさ、毎日行きゆくところに子供の遊びはしゃぐ声が聞こえて、それに対して怒りを買うものもいない、治安もいい所でもある(ギルド内の冒険者などは例外)
そのフェルノウド王国でなにかしらのお土産を買ってこいと強制的に動かされている清水力弥と言う少年は、現在その王国にはおらずとある森のき陰に隠れているのだった。
時間は進み現在時刻ちょうど正午。
キルカイア都市は平日でありながら外食目的のために大いに賑わっていた。
それはフェミア御一行が今から行くレストランも例外ではなく……
「うわぁ、意外と並んでんな〜」
「平日なのにこのお店は人気が高いのですね〜」
「数十分は並ばないと行けませんね…」
現在フェミア、ルチーナ、ノルアの3人はとあるレストランの前にある長蛇の列に並んでいた。
今朝フェミアの見ていた本「キルカイア都市、外食ならここ!」と言うものに乗っていた美味しい料理でお手ごろ価格のレストランであった。
「まだ4月とはいえ夏場に来たらみんな熱中症になってるぞこんなの」
ルチーナは列の合間合間に視線を逸らしながら一言呟いた。
それに反応したフェミアも
「別に私は魔法が使えるから熱中症になんてならないんだろうけね〜」
自分は魔法が使えるから熱中症になんてならないわ〜と、1人ドヤ顔でいた。
こうなるとノルアもなにか不満でも言っているのかなーと、俺はフェミアの肩に乗りつつノルア館長の方に視線を向けると
「それほど美味しいということでしょう」
2人と違って結構ポジティブ思考だった。
案外こうゆう性格だったりするのかな、ノルア館長。この前も雨の日は植物の恵みの日とか1人ボヤいてたけど、見た目の冷酷さと違ってポジティブな思考もできるギャップもナイスってことか…。
「ほらほら、この子はもう疲れきってるじゃない〜」
「あっ、まじじゃ〜ん、意外と体力ないのかよ〜」
ノルア館長へと視線を向けてフェミアの肩で脱力して肩の形にフィットしている俺を見てノルア以外の二人が声を上げた。
「さっきノルアから聞いたけどルチーナも自分の寝相の悪さなおしてからこの子と一緒に寝たらどう〜?」
「これでも寝相はなおったほうなんだよ!ってか実際こっち来てからベットから落ちてないしぃー!」
「それでも、お腹の上でこの子を押さえつけるような寝かたはダメなんですよ〜」
「うっせ」
「こら〜〜?!」
何やらこの2人はこの2人で仲良くおしゃべりしているので俺はノルア館長をずっと観察でもするか……暇だし。
変態じゃない、安心してもらいたい。
暇になった俺はノルア館長をなんの意味もなく観察することにしたが結局あの後30分くらいノルア館長は何も行動せずにレストラン内へ入ってしまった。
そしてそのレストランの料理も3人曰く「まだノルアの方が美味いわ」「やっぱりノルアちゃんには勝てないかな〜」「そっ、それほどでは…」と言う結果となり、ノルアが家で作った方がいろいろといい事ある。ということが分かったところでお勘定を出して暑い外をニルン邸へと直行で帰宅したのだった。




