面接のようなものを通過、王宮採用は事務職!?
「こちらへ。」
通されたこじんまりした部屋。
外から見えた王宮の外観からは想像できない薄暗い部屋に少し不安がよぎる。
「柳原さん。おかけください。」
現れたのは王の娘マリアだった。
ん?
「王宮で働くにあたって、少しお伺いしたいのだけれど・・。」
んん・・。
「柳原さんは今までどんな事をしていらしたの?」
「えっと・・。」
これは実質面接の流れですね?
もしかしてここでミスれば路頭に迷う感じなのか?
冷や汗がじわりと出てくる。
切り替えなければ!思い出せ現実世界!就職面接!!
「こちらに履歴書があるのですが!!」
カバンを急ぎごそごそと探り、現実世界で書いたはずの履歴書を引っ張り出した。
「りれきしょ・・?」
「・・・。」
そうか、こっちの世界に履歴書という概念はないのか??
どうしよう。
「あ・・今までは様々なバイトから正社員のお仕事をしてきました。」
先回りして捕捉しとくか・・。
「バイト・・というのは学生の時代に勉学をしながら就業するという事でして、主に食品の販売、精算を行っていました。」
要はレジ打ちである。
「その後は正社員として・・正式に就業し、社会の一員として衣類や雑貨、食品等の販売から受注管理を」
小売業の事務である。
通じた・・のか??
「そうなのですね!」
心なしかマリア・・王女の目が輝いた。気がした。
「ちょうどよかったです。王宮で募集していたのは冒険者たちから集まったアイテムの管理、受付、再販売の事務なのです」
こちらの世界のアイテムについてわからないことが多いはずなので非常に不安を感じるが・・ここは・・
「そうでしたか。それでは多少なりとも経験がありますのでお手伝いできるかと。」
給与体系や様々な事が気にはなるのだがここで落とされると詰む気がする。
一旦やる気を見せておくのが吉・・というかそれしか選択肢がない。
「それでは早速明日から来て欲しいわ。」
面接のようなものが謁見の後で王女と行われるとは思っていなかったので焦ったが、
これで王宮で正式に就職が叶ったという事なのだろうか。
とりあえずほっとしたがまだ分からないことだらけで何から質問すべきかもパッと思い浮かばない。
「はい。宜しくお願いします。」
こうして王宮で俺は事務職としてどうやら採用が決定したらしい。
異世界にまで来て冒険者でも勇者でも魔法使いでも無く事務職・・。
ちょっと現実味あるな・・。想像の範疇を超えない夢の可能性でてきたかもな。
そんな事を考えながら面接が行われた部屋を後にすると、
王宮内の執事?のような人物が現れた。
「柳原様のお部屋を用意いたしました。こちらへ。」
ついていくと廊下には同じような扉が並び、その中でも一番奥の扉。
開けるとこじんまりとした部屋にベッドが一つ。
そして1つのクローゼット。
素晴らしい事にシャワーとトイレが個別でついているようだ。
現代のアパートみたいなものか。
「クローゼットに数日分の衣類がございます。明日からこちらをご着用くださいませ。」
開いてみるとそこには柔らかな素材の白っぽい上下のセットアップ。
執事は燕尾服なのでてっきり文化的に今着ているスーツで出勤OKかと思いきや
思ったよりも動きやすそうな民族衣装に近い服が用意されていた。
異世界の服装で思いっきり浮くのも嫌なのでありがたくお借りしよう。
「ありがとうございます。」
「明日は、朝8時までに先ほどのお部屋へいらっしゃってください。」
「本日の夕食・明日の朝食はこちらへ。今から1時間後・そして朝は7時〜食堂が開いております。
好きなだけ食べてもお給金から一定額の差し引きとなりますので心配なく好きなものを好きなだけお召し上がり下さい。」
・・食堂か。一定額というのが気になるが今金額を聞いたところでそもそも相場がわからない気がする。
心配なくというからにはそんなに無謀な金額でもないだろう。
とりあえず今日は疲れたのでもう眠りたい。草原を歩き続けたのがたたって既に体力は限界だった。
「すみません。今日はもう休んでも大丈夫でしょうか。」
「もちろんです。お休みはこちらのお召し物を。」
何だかすっごい軽くてフワフワのガウンみたいなものを新たに渡された。
色々と考えたいが既にまぶたが重い。
執事が扉を閉めると同時に着替え、ベッドに倒れ込んだ。