異世界でモンスターと遭遇!守られる無職。
異世界に飛ばされた僕、柳原圭一は草原で出会った猫耳娘のランと
スレンダー美女のスワロと共に落水の都へ向かう事になった。
「ねぇねぇ、ケイは何でこんな所にいたの?」
「僕もわからないんだよ。気が着いたらここに立ってたんだ。」
不思議な二人に挟まれて僕は鞄を両手で守るように抱えながら歩く。
「ここから落水の都に行けば王様と賢者が居るわ。
何もわからないのなら、そこで色々と聞いてみると良いわ。」
スワロの横顔は見惚れるほど美しく、僕は少しドキドキしながら質問する。
「スワロさんとランさんは冒険者なんですか?」
「そうよ。基本的にはこの大陸を回ってレアアイテムを集めて暮らしているの。」
「あの空に浮かんだ文字。あれは何なのでしょうか。」
「・・・・。」
「ケイってあれみたの初めてなの??本当に??」
ランが目をまん丸くして尋ねる。
「うん。僕のいた世界ではあんなものは見られないよ。」
「あれはこの世界を形成する物質、クオリアの思念だと言われているわ。」
「世界の望みであり、祈り。指針とされているの。皆同じものが見えるわけではなくて、
受け取るべき者に現れるとされているの。」
「あれが見えたのなら貴方もとりあえずは落水の都へ行くのが一番良いと思う。」
スワロは顎に手を当てて少し難しい顔をしている。
「そうですか・・。」
何がどうなっているのかわからない事だらけだが、
とりあえずは情報収集の為にも都へ行った方が良いのだろう。
「チッ!」
南に向かって歩いていると急にスワロが舌打ちをし、背中のマントを翻し杖のようなものを取り出した。
「ランが押さえるよ〜!」
猫耳娘のランが可愛く飛び跳ねたと思ったら、急に目つきが鋭くなり聞いた事のない
呪文のようなものを唱えた。
「ラン・クルコン・ディーセレン!! スレイ!!」
パリッと空気が振動したような気配と同時に僕の頭上に大きな影が落ちる
「ギャギャギャ!!ッ!」
恐る恐る見上げるとそこには今にも僕の頭に食いつかんとする翼竜のような獣が何故かピタリと静止している。
「スワロ・クルコン・イル!ケイ・ラウト!キリエ!!」
スワロが叫ぶと同時に閃光が僕の目の前で炸裂した。
「うわっ!」
驚いて尻餅をつく僕の横に、真っ黒焦げになった翼竜が地響きと共に崩れ落ちた。
「ギリギリだったね〜!ケイ怖かった??」
ランがぴょんと僕に近づき顔を覗き込む。
「思ったよりスピードがあったなコイツ。」
急に口調が荒くなったスワロが翼竜を足蹴にしながら呟く。
「ケイ大丈夫か?悪かったな。」
差し出された手を掴むと、さっきまで黒髪だったスワロの髪が炎のように
揺らめく金色に光り、目もまるで宝石のように金色に輝いている。
「え?どういう・・何これ・・。」
急展開すぎてついていけない僕にスワロが説明をしてくれる。
「これはご飯だ。」
「?」
「ごはん〜!!」
ランの相槌も意味がよく理解できない。
急にスワロが腰に下げたナイフを取り出し、翼竜のこんがりとした皮を剥ぎ取り、
内側に白い粉を振りかけた。
「ほら、食えよ。」
「えっ!」
呆然とする僕に皮付きの肉を押し付けると、
スワロとランはテキパキとその場に敷物をを引き、倒したばかり、ホカホカの翼竜の肉を
削り取って取り分け始めた。
「いっただっきまーす!」
ランが大きな口を開けて翼竜の肉にかぶりつく。
スワロも骨のついた羽の根元部分の肉を黙々と食べ始めた。
僕は恐る恐る良く焼けていそうな部分を口に入れてみる。
「うっっま!!」
その肉はジューシーで今までに食べたことも無いほど甘い味がした。
まるで蜂蜜で漬け込んだ肉のような旨味がある。
さっきスワロが振った粉はどうやら塩のようで、塩気と相まっていくらでも食べたくなるような味だった。
夢中でもらった分の肉を平らげると、
スワロはいつの間にか黒髪に戻っていた。
スワロ達が持っているお茶までご馳走になりながら話を聞くと、
この世界にはモンスターが居て、基本は剣と魔法で戦い、倒したモンスターは
だいたい食べられるらしい。
僕はスワロの見立てだと、魔力?に当たるものは持っていないようだし
魔法を使う為にはそれなりの修行と勉強が必要らしい。
この世界において僕はどうやら完全に丸腰のようで、二人と出会わなければ
このモンスターに殺されていただろうという事らしかった。
ちょっと待て、異世界転生とかしたらチート的な能力とか魔法が使えるものなんじゃ無いのか?
丸腰で僕はこれからどうすれば良いんだろう。
元の世界に帰っても無職。こっちでは丸腰のモンスターのエサなんて・・。
ただ、クオリアの文字を見たのであればこの世界に許容されているということだと
スワロは教えてくれた。その言葉を信じてどうやら進むしか無いらしい。
ランが心配そうに僕を見つめた後、
「守ってあげるから大丈夫だよ!!」
力強く手を握り締められて、僕は不覚にも情けないが泣きそうになってしまった。
「ありがとう。」
そう言って、ランとスワロと共に僕は落水の都へと歩き出した。