第1階層①
今日は元号が変わる日。ちなみにこの前書きを書いている私は新しい元号が発表されてもいない時の私です。
by2019/3/21の私
2024年夏、今日は俺の誕生日だ。それから4年前の明日は俺が穴に落ちた日でもある。
「はぁ」
ため息も吐きたくなる。この穴に落ちてもうすぐ4年目になる。今日は俺が19歳になる日だ。だが、この3年かけて攻略に勤しんでいるダンジョンと思われる穴は一向に終わりを見せない。もうすでに200階層目だ。一応ポケットに入れていたメモ帳と万年筆がここまで役に立つとは思わなかった。モンスターの名前や出現階層、攻撃パターン、ドロップアイテム。攻略階層数、メモできて本当に助かった。メモ帳と万年筆を誕生日プレゼントにくれた妹には本当に感謝だ。
「さて、再開しますか」
俺がこのダンジョンに来た時のことを懐かしもう。そのくらい今回のボスは余裕で勝てるようレベリングしたし。
◆◇◇◇◆
「あ〜痛〜」
穴に落ちた。それも30メートルほどの深い穴。なぜ無事なのかはわからないがちょっと擦りむいただけで目立った傷はない。
ここは何の穴だろうか?直下堀りされており、マンホールのような蓋もなければ梯子のようなものもない。大体ここは近所の住宅街の路地のような道だ。こんな所になぜ縦穴があるのか?てか、どうやって出るよ、これ?色々考え、思案していると。
「ゲギャ、グゲギャ」
緑の肌で醜悪な顔をした日本人でいう12歳くらいの身長の人型。そう、まるでファンタジーの王道雑魚、スライムの相方。
「ゴブリンじゃねぇか」
手には素人目に見ても錆が目立つ剣が握られている。
「よし、いないな」
俺はゴブリンを見た瞬間、ありえないという考えと共に、辺りを見回した。ゴブリンは複数人行動することがゲームや物語で定番とされているからだ。
そしてこいつ一匹しかいないのを確認し、我がたるんだ腹と腕を見る。
「ダイエットしとけばよかった」
だか、問題なさそうだ。ゴブリンは剣を持った手をフラフラとさせている。どうやら筋力が足りないようだ。
「わりかし動けるデブの名は伊達じゃないって教えてやるよ!」
そう言って俺はゴブリンを、観察する。
ゴブリンは剣を持ち上げるまでにかなり時間がかかるようで、一度避ければ俺の勝ちだ。圧倒的重量で押しつぶしてやる。
「ゲギャグ!」
ゴブリンは思った通り、俺に剣を振り下ろした。だが甘い。
「俺の動体視力なめるな!余裕で対処できるんだよ!そんなぬるい動き!」
俺はゴブリンの剣を避け、剣の峰を蹴り飛ばし、圧倒的重量の《体重》でゴブリンを押しつぶした。
「ふっ、開始直後から即死コンボぶち込んでくる格ゲーのNPCよりぬるいな」
当たりどころが悪かったのかゴブリンは光の玉になって弾けた。
「おぉ〜、ゴブリンでも案外綺麗になるもんだな〜」
よく聞く『汚ねぇ花火だ』とは真逆の言葉を口走ってしまったことは置いておいて、
「何じゃこりゃ?お、テキスト出た」
いよいよファンタジーだなぁ〜と思いながらも、テキストを読む。
《ゴブリンの肉》
臭みが強いが、蒸すことで臭みがなくなり美味になる。
《錆びついた剣》
錆びついて最早、鈍器化してしまった剣。切れないが、錆びついているのに折れにくい
「肉か〜。オークとかならまだ食べたいと思えたんだけどな〜」
だってオーク肉って大体の作品で美味しいって扱いだし。てか殺した禁忌感がない。
「まぁ、腹で押しつぶしただけだし、その上、服についた血も光になって消えていったからな。禁忌感がなくても当たり前だわな」
まぁ、うじうじ悩む必要はない。死とは不条理で突発的である。自然的であれ、人為的であれ。大体、作中で『覚悟が足りなかった』だの言ってるの、あれ意味わからん。蚊やゴキブリを叩き潰すのと何が違うのか?蚊は殺せてゴブリンが殺せないなんてアホらしい。肉を切った感覚?ハッ!そんなの料理やってりゃ慣れるわ!ま、美少女に「やめて」ってお願いされたら即座にやめるけど。
「それはそうと、アイテムにならなかったこの光の玉はなんぞや?」
《光の粒子》
モンスターを倒すとモンスターの体が一度これを経由して素材と経験値になる。
ふむ、つまりこれに触れればいいのだな?
「ぴとっ」
自ら効果音を発し、光の玉に触れた。するとあ〜ら不思議!
「体に吸収されたではありませんか!」
ん?まてよ?
「ファンタジーといえばあれじゃね?す、すすすす、ステータス!」
そういうと目の前にまたもやテキストが。
《ステータス》
名前:阿賀野 大河
caste:527255
Lv:2
HP:100/100
MP:100/100
攻撃力:20
防御力:30
魔攻力:5
魔抗力:30
敏捷:7
持久力:5
〈スキル〉
・鑑定Lv.MAX見切りLv.MAX
〈魔法〉
・なし
「ま、魔法!?魔法?あ、魔法!」
興奮した。それはもう二度見した上で、じっくりと眺めてそのあとゆっくり読み返したくらい興奮した。まだ魔法を持ってないのに、魔法が存在すると言う事実のみで。
「まっほう♪まっほう♪まっほっう〜♪」
妙な小躍りをした。
「ファンタジーだぁ!」
意味もなく奇声をあげたり。
「い〜よっしゃ〜!」
改めてガッツポーズしたりもした。
その後、俺は持ち前の精神力と知識によってファンタジーを肌で感じ、錆びついた剣を使って出てきたゴブリンを撲殺したり、宝箱の中身が包丁、それも2本入っていたことに微妙な気分になったりもした。撲殺は肉の筋切りをする感覚に近い。そして、俺は思った。
「やば、水どないしよ」
と。
「こりゃあかんわ〜、どないしよ」
エセ関西弁になるくらい困った。そして再び。
「あ、皿も調味料もないやん!」
それどころか調理器具は包丁しかない。これでは肉を蒸すどころか焼くことすら無理だ。
「あ〜、ほんとどうしよ。ま、困った時は歩こう。湖とかあるかもしれんし」
俺は歩いた。途中、宝箱を3つ見つけて、御都合主義的にフライパンと燃えやすい薪と皿洗い用の洗剤とスポンジのセットをゲットした。当然、ゴブリンとも遭遇した。ま、こうして無事に歩き回っている時点で結果は察せるが。
そしてついに。
「水場だぁー!あったー!よかったー!」