1話 夢を見た
雨の音が聞こえる。
今、雨が降っているのか?
痛い!
心が刺されたような痛み。
その痛みと伴い、透き通るような綺麗な声が聞こえた。
「主、妾のこと忘れないで!」
それは女の子の声だった。
それは、雫のように捉えられなく、まるでこの世には存在しない声だった。
だが、この痛みは?殺されそうなこの痛みは?
そして、夢の中に現れた女の子は、誰?
主って、僕のこと?
子供の頃から、時にはこの夢を見る。
そう、いつも同じ夢を見る。
何度も感じたその痛み。
何度も聞いた女の子の声。
それは悪夢だったか。そうかもしれない。
だが、その女の子の声は、鈴を転がすような澄んだ声だった。
例えその子の顔を見たことがなくても… ただの一言の囁きでも…
その女の子の声に惚れてしまう。
…
大学に通うために、古都に引っ越しした僕は、今日から一人暮らしが始まる。
明日は入学式。
大学に入ったら、どんな出会いがあるのかな。
期待しているが、今日は疲れたし、眠ろうか。
今夜、またその夢を見るのか?
またその女の子に会えるのか?
また同じ夢を見た。
今まで何度も見た夢。
いつもと同じ、夢が終わったかと思ったら…
「…見つけた」
夢の中で聞いたその女の子声。
疑惑。
なんか今までの夢とは違う。
その話、聞いたことはない。
その女の子の声に聞こえるが、それは昔のように遠くて、儚くて、まぼろしの声ではない。
「よく妾のそぼに来てくれたね、主。待ってたよ」
女の子の声が、また耳に入った。
いえ、耳に入るというより、頭の中に響いた声。
この声、なんだか夢の中の声ではなく、現実で、囁いてくれる声だ。
「もう、離さない」
何のこと、この子が言っているのだ?
意味がわからない。
やはり夢を見ているか、僕は。
苦しい。
誰かが近くにいる。
金縛りに遭ったのように、体が動けない。
「夢なんかじゃない。起きてください」
その声は…
どうして僕の考えが分かってくれるのか?
いつの間にか、体が動けるようになった。
目が覚めると、部屋に一人の女の子がいた。
闇の中に、顔がよく見えないが、スタイルがよく、長い黒髪に白い浴衣ぐらいは分かった。
この子を見た瞬間、恐怖さえ忘れ、なんかその見た目に惚れてしまった。
いつも夢の中に現れる女の子が、目の前にいる。
夢の中にはこの女の子の声だけ聞こえるが…
口を開け、質問しようとするが…
「き、君は誰?もしかして、ゆ、幽霊!?」
「幽霊?そうか、妾はすでに幽霊になったか…」
「幽霊さん?なぜ僕の部屋に?」
「主を会いに来たの」
「主って、僕のこと?僕たちはお互いに知ってるか?」
「そう、会いたかったの、主。ただ…」
「ただ?」
「主はなんで男になったの?!」