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【完結】マジック・ラプソディー  作者: 橙猫
第3章 黒の生家
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閑話 幸せな時間*

「へくちっ」

「大丈夫か?」


 黒宮家の庭を悠護と一緒に散歩する日向は、夏なのに気温が低いせいで小さなくしゃみをする。

 そのくしゃみに反応した悠護が心配そうに聞かれ、日向は平気の意味を込めて頷いた。


「うん、大丈夫……。うぅ、なんで夏なのにこんなに寒いの?」

「今年の夏も気温が不安定だからな。そのせいで沖縄の最高気温は一〇度らしいぜ」

「うわぁ、それはちょっと厳しいよね……」


 第二次世界大戦後、魔法による激しい戦闘の影響で環境が不安定になり、冷夏や暖冬が起こしやすくなった。

 今年の夏に起きた冷夏の最高気温は一五度。

 秋と冬の中間あたりの気温のせいで、日向はピンクのパーカーを羽織っている。悠護も寒さが苦手なのか白いパーカーの上に黒のジャケットを羽織っており、たまに手を摩っている。


「それより悠護、準備はいいの? 忙しいんでしょ」

「あー……それな、ぶっちゃけて言ったと俺の仕事はスピーチだけでそれ以外ないんだよ。で、今スピーチの内容を親父に見せてもらってる最中なんだけどよ、親父の方も忙しそうだったし、その間は休憩していいって言われたんだ。さすがに他の仕事も俺には手伝えないしな」

「ふぅん、そっかぁ。あ、あそこあったかそうだし座って休もうよ」

「そうだな」


 ちょうど日当たりの良い場所を見つけると、日向と悠護はすぐさまそこに腰かける。

 冷夏だがちょうど日が燦々(さんさん)と照らしてくれているおかげで、心なしか体がぽかぽかと温かくなってくる。

 悠護の言う通り、徹一が『ローズガーデン』の最上階をパーティー会場として使えるよう交渉を交わしている話は仲良くなったメイドから聞いているし、朱美もその手伝いに追われている。


 鈴花は家庭教師に魔法の勉強をしているせいで自室に篭っていて、一緒に散歩に行けなくて残念だが、申しわけないが日向はこうして悠護と二人きりで過ごす時間ができて嬉しく感じる。

 悠護はぼーっと空を眺めており、自然と日向の背中にもたれかかる。その重みも久しぶりに感じ日向の顔は自然と緩む。


(そういえば、こうして悠護と過ごすのが当たり前になってるような気がする)


 考えてみれば学園でも休日でも行動しない日はあまりなく、何をする時も常に一緒にいた。

 だが日向がこうして悠護の近くにいるのは八月一日まで。新学期までしばらく会えなくと少し寂しさを感じてしまう。


(不思議だな、最初は互いに何も知らない他人同士だったのに)


 初めて会った時は何も知らなくて、でも共に時間を過ごしていく内に色んなことを知った。

 そうやって互いを知るにつれて少しずつ絆が深まっていく。それが苦じゃないことは、特定の人物にそこまで親しくしたことのない日向にとっては初めての感覚だ。

 

「……ん?」


 ふと背中にかかる重みが少し重くなった感覚がして、首を横に動かす。

 背中に持たれかかっている悠護は顔を俯かせながらすーすーと寝息を立てており、子供っぽい寝顔を見てくすりと笑う。


「寝ちゃってる……。最近忙しかったもんね、お疲れ様」


 目元に薄らとできた隈を指でそっと撫でると、おもむろにふわぁっ……とあくびを出す。

 ここは日当たりが良いせいで眠気を誘っており、日向の瞼が自然と下に落ちていく。


「……あたしも眠くなってきちゃったなぁ。うーん、ちょっとだけ寝ようかな」


 こんな昼寝には最適なポジションにいて寝ない方がおかしいと思いながら、日向は瞼をそっと閉じる。

 瞼を閉じたと同時に聞こえてくる鳥の鳴き声と風で葉が揺れ動く音、太陽の光と後ろにいるパートナーのぬくもりは今日という日には最高な温かさだ。


 たとえ一緒にいられる時間が減っても、この小さくも幸せな時間をも大切にしていきたいと強く思いながら、日向は眠りの世界へと足を踏み入れた。



挿絵(By みてみん)

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