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【完結】マジック・ラプソディー  作者: 橙猫
第2章 合宿は刺客を呼ぶ
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閑話 怜哉の苦手なタイプ

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」


 気まずい。怜哉は口ではなく心の中で呟く。

 陽との尋問が終わり、二階客席の隅でひと眠りし、習慣になっている《白鷹》の手入れしている最中にトイレ帰りの樹が目の前で立ち止まったかと思うと、無言で手入れ中の《白鷹》を喰いつくように凝視し始めた。

 最初は怜哉も特に気にせず手入れに集中していたが、一〇分以上経っても凝視し続ける樹をだんだん気になり始め、今に至る。


「……………何か用?」


《白鷹》を鞘に納めると同時に思いきって長い沈黙を破ると、樹は目をぱちくりさせる。


「ああ、悪いな。ちょっとそれが気になってよ」


 照れ臭そうに笑う樹が指さす《白鷹》を見て、怜哉はようやく合点がいった。

 日向の殺害任務の時に、彼女の周囲にいる身辺調査資料には樹のデータも入っていた。

 データによると、樹は魔導具技師を目指しており、自作の魔導具を作るという器用さを持っている。そして魔導具の魔力の流れを目視できる目を持ち、卒業したら魔導具犯罪課に目をつけられる可能性が高いとも書かれていた。


「……そういえば君、魔導具技師希望だったね。よくこれが魔導具だって見破ったね」

「んー、まあな。その刀にアンタの魔力がかなり感じるからさ、多分そうじゃねぇかなーって思ったんだよ」

「ふうん、ちなみにこれにどんな魔法を付与していたか分かる?」

「あ? あー、そうだな……一番多いやつだと『切断アムプタティオ』だな。あとは『束縛コンペディブス』とかヤベー魔法が数十種類、しかもどれも一回きり」

「……へぇ」


 目を凝らして《白鷹》から感じる魔法の残滓を読み取った樹を見て、怜哉のアイスブルーの瞳を鋭く細める。

 通常、専用魔導具に付与した魔法を知るのは術者もしくはその魔法を受けた者のみだ。たとえ腕のいい魔導具技師でも持ち主が付与した魔法を読み取るのは難しい。


 それをこの少年は平然とやってのけた。それどころか今まで付与した魔法の回数まで分かるのは異常だ。

 これほどいい目を持つ魔導具技師は世界中どこを探してもいないだろう。


(……これは『黄倉』が知ったら、十中八九狙うだろうな……)


 魔導具の製造・管理を役目にしている黄倉家にとって、優秀な魔導具技師の確保も仕事の一環だ。

 樹のような人材は黄倉にとっても見逃せない相手だ。


「……でよ、ちょっと頼み事があるんだがいいか?」

「別にいいけど」

「ほんとか!? じゃあ早速なんだが――」


 白石の自分に頼み事など、どうせお金を貸してくれとか、有名な魔導具技師に会わせて欲しいというところだろう。

 今までその手の相手をしてきたため、そう高を括っていたが、


「――その魔導具、ちょっと貸してくれねぇか!?」

「えっ?」


 目をキラキラと輝かせながら言った樹の顔に、思わず素っ頓狂な声が出た。

 よく考えれば、魔導具技師を志す者なら怜哉のような専用魔導具について関心を引くのは当然の反応だ。


 樹の頼みがそれと同じだと分かったが、何故か《白鷹》を他の誰かに触らせることに抵抗を感じた。

 思わずぬいぐるみのように抱きしめると、怜哉は首を横に振る。


「……ごめん、それはダメ」

「え、なんでだよ。いいって言ったじゃねぇか」

「言った。でもダメ」

「頼む! 少しだけ! ちょっと見るだけ触るだけ!」

「ダメ」


 そんな押し問答を繰り返すうちに面倒臭くなり、怜哉は全速力で逃走した。

 未だ追いかける樹の声を聞きながら、怜哉はフェリーの操舵室の天井の上に座ると、滅多に見せない疲れた顔で小さく呟いた。


「……僕、彼のこと苦手かも」


 白石怜哉、一六歳。生まれて初めて苦手なタイプの人間と出会った瞬間であった。

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