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閑古庵のお便り  作者: 稲生 萃
一通目 生きながら
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一通目 生きながら 七

やっと解決です。

ずっと思ってた事がお互いに分かる回

「先生、さっき入れ物に入れた黒いモヤの中に見えたのって……」

 あたし達は目を覚ました明日香ちゃんを家に送り、その後閑古庵へ行った。西日傾く道中気が気じゃなかった。あのもやもやの中に、あたしの顔。苦しそうに顔を歪めたあたしがあの中に見えた。それは暮相さんや翠さんの目にも映っていたらしい。

「まあまあ、翠は取り敢えずお茶を持ってきてもらっていいかな。落ち着くためにもね」

 閑古庵のカウンター席に座って震えていると、暮相さんが正面の席に座って優しく声をかけてくれた。そのうち翠さんがお茶を持ってきてくれて、優しさで涙が出そうだった。

「落ち着いたかい?不安になることはないよ。むしろ安心してほしい。さっきの入れ物に君の悪いが吸い込まれたんだ」

「あたしの悪い気?」

 あたしが暮相さんに問うと翠さんも続けて言った。

「気ってなん……あっ」

「お、やっと気付いたかい翠」

 翠さんがハッとした表情で驚きの声をあげると、暮相さんはふふっと笑った。

「どういう事かさっぱり、なんですけど、つまり……?」

 きっと今あたしの頭にはクエスチョンマークが三つくらい並んでいると思う。あたしの気?気っていうのは多分オーラとか妖気とか、そういう類のものだとはわかったけど、『あたし』の『悪い気』?

 首をひねっていると暮相さんが答えてくれた。

「つまりね、直美さんのいんの生霊だよ。君の生霊が明日香さんに取り憑いて、影響が出てしまったんだね」

「あたしの……生霊……?それで明日香ちゃんは……」

「思いつめないでいいのよ。私達が思うに、きっと直美ちゃんの優しい気持ちから派生した生霊だから」

 翠さんが隣の席に座って優しく背中を撫でてくれた。

「そう。翠から聞いたが、君は明日香さんと長い間仲がいいんだろ?生霊に取り憑かれた明日香さんが呟いていたように、きっと君は明日香さんとずっと一緒にいたいんだろうね。その気持ちが強くなった結果が、これだね」

 暮相さんがあたしの生霊を閉じ込めた入れ物を指先で持ち上げた。

「あたしがずっと友達でいたいと思いすぎたせい?それで明日香ちゃんにあんな迷惑かけちゃったの……?」

「でも、それも今日で終わりだよ。まあ迷惑かけたのは仕方ないよ。本人の意思の関係ないところで動くのが生霊のやっかいなところだしね」

「ところで先生、その生霊どうするんですか?一応直美ちゃんの魂の一部ですよね」

「えっあれ魂の一部なんですか」

「そりゃね。このくらいのいんなら浄化して直美さんに戻せば大丈夫だよ」

「でもそしたら、また今回みたいな事になりませんか……?あたしもう明日香ちゃんにあんな目にあってほしくないです!だから、魂の一部だとしても、そんなもの……」

「いや、これは浄化して君に返すよ。出ないと私もお偉いさんに怒られてしまうからね。それに、明日香さんが君とずっと友達でいたいと思えば大丈夫だよ。きっと君は明日香さんにとって自分がどんな存在か分からなくて怖くて生霊を飛ばすほどになってしまったんだろうね」

 あたしはハッとした。確かに、あたしは明日香ちゃんのこと大好きだし、ずっと友達でいたいと思ってる。でも明日香ちゃんははっきり気持ちを口に出さない子だから、明日香ちゃんにとってあたしは良い友達でいるか不安だった……。

「そういえば、明日香ちゃんが取り憑かれた時、何か呟いてたって言ってたよね」

 あたしは翠さんの言葉である事を思い出した。

「確かに、ずっと一緒に、って取り憑かれたときの明日香ちゃん言ってました……。で、その後に……!」

 あたしは思い出して思わず顔が熱くなった。暮相さんは、生霊に取り憑かれた状態だと生霊の気持ちや取り憑かれた本人の気持ちが口から出やすいと言ってた。……もし、あの言葉が明日香ちゃんの気持ちだったら……!

「あーらら。顔赤くなっちゃって。その後なんて言ってたのかなー」

 翠さんがにやにやしながら顔を覗き込んできた。こ、この人、あたしが依頼した時に言った『その後』の言葉、絶対覚えてるわ……!

「ぐぅぅ……!」

「ふふふ、君達も仲良しだねぇ。私にも教えてくれるかい、直美さん」

 暮相さんまであたしで遊び始めたなこれ!

「そ、その後……」 

  [私も]って言ってくれた




 顔を真っ赤にして直美ちゃんは帰っていった。完全に日は落ちていないが、帰るには少し遅い時間だったかもしれない。でも生霊の陰を浄化して返したから妖怪達はよってこないはずだ。

 私はカウンター席でお茶を片手にくつろぐ先生に声をかけた。

「先生、もう今日はお店閉めますか?」

「おや、いつも働けと尻を叩く君がその提案は珍しいね」

「だって疲れてるでしょう。目が死んでますよ」

「あ、わかる?まあ霊は専門外だし、浄化だっていつぶりだって話だ。……よし、店を閉めよう」

「はーい。あ、そういえば先生、今回は報酬もらいませんでしたね。なにで満足したんです?」

「んー?あれだけ仲睦まじい話を聞いたらお腹いっぱいだよ。そうだ翠、靴の裏の御札、剥がしといた方が良いよ。すねこすりのしっぽでも踏んだら可哀想だ」

「ん、忘れてました。じゃ、一階の後片付けは私がやっときますから先生はもう二階に上がってていいですよ」

「ありがとう、頼むよ」

閲覧ありがとうございました。

この後にほんの少しだけ続きますが本筋はここで終わりです。

感想やご指摘、お待ちしております。

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