一通目 生きながら 五
お久しぶりです。お待たせしました。
今回も黒いモヤがうごうごしてます。
私は座り込んだ直美ちゃん達のもとへ駆けだした足を半ば強引に止めた。先生に、無闇に近寄らないよう言われていたのを思い出したのだ。そして結界を張ることも。
直美ちゃん達に近づく先生へ大きめの声をかける。
「先生!今から結界張りますね!」
「ああ、頼むよ!終わったらなるべく離れていてくれ!」
先生はこちらに返事をし、直美ちゃんに抱えられた明日香さんの観察を始めた。直美ちゃんは先生と初対面のはずだが、私が先生と呼んでいるのを聞いて察してくれたようだった。
私はコートのポケットからビニール袋に入れていた炒った塩を出し、先生達を中心にして四角形の頂点を描くように三メートル程離れた場所に撒いた。これで脆いものだが簡易結界は出来上がりだ。
私は先生の方を向きながら、結界の内側に立った。
そこまで遠くもないから先生達の会話が聞こえてくる。
「この子が明日香さんだね?さっきまで話していて、変わった様子は無かったかい?」
「全く……。でも今までもこんな感じで突然倒れちゃったり……あたし、どうしよ……!」
直美ちゃんはヒステリックになったり暴れたりはしないものの、やはり取り乱している様だ。
先生は懐からいそいそと道具を取り出しながら少し焦った様子で言った。
「直美さんも落ち着くんだ。今までとは違う点でもあるなら今すぐ言いなさい」
「明日香ちゃん倒れた後はいつも何か言ってたんです……!」
「今は何も喋ってないね。元凶が明日香さんから抜け出したか息を潜めてるな。息絶えた訳では無いから安心しなさい」
「でも!」
「無難に御札でも使ってみようか。君も離れて」
「や……やだ、明日香ちゃん!!」
先生が直美ちゃんを引き離そうとするがなかなか離れないらしい。先生から離れていろとは言われたが、先生の邪魔をされたらたまったものではない。仕方なく私が直美ちゃんを移動させよう、と思い、なるべく明日香さんに近付かないよう直美ちゃんの手を握って軽く引っ張った。
「直美ちゃん!先生はすごい人だよ、大丈夫だから……」
やはりすぐには動こうとしてくれない。更に力を込めて直美ちゃんの手を引っ張ろうとした時。
「翠、伏せろ!」
明日香さんに呪術道具を使おうとしていた先生の張り詰めた声が聞こえ、直美ちゃんの手を握ったままで意味も分からず、従って伏せた。
「えっ、……きゃっ!!」
小さい悲鳴をあげながら直美ちゃんも私に引きずられるようにして伏せたようだった。何事かと思って顔を上げると、頭上を黒いモヤが通り過ぎていくところだった。
「私が御札を使おうとしたら明日香さんから出てきたんだ。今の内に片付けてしまおう」
先生はそう言って立ち上がり、こちらへ歩きながら着ている着物の懐から縦十センチ程で蓋付きの陶器の入れ物を取り出した。
「この中に生霊・悪霊を吸い寄せ、閉じ込める御札を入れてある。これを投げるなりなんなりして直接あの黒いモヤに触れさせれば、封印が出来る。ただ投げるのはおすすめしないけどね」
黒いモヤは明日香さんから飛び出した後、結界の隅の方で浮遊している。
「落としたら割れちゃいますもんね。」
「さて、直美さん。封印の役割は君に頼んでも良いかな?どうやらあいつは君を狙っているようだからね、最も近づけるだろう」
直美ちゃんはハッとして顔を上げた。
「……あたしに、出来るんですか?これで明日香ちゃんは助かりますか?」
「助かるよ。直美さんがやれば解決できる」
「先生、素人に任せてほんとに大丈夫なんですか!もし失敗してしまったら……」
「翠は優しいね。でも大丈夫なんだよ」
先生は私の心配をよそに優しい声色で、理由を言うこともなく大丈夫だと言い切った。
「明日香ちゃんが助かるならあたし、やってみます。やってみますけど、その……やっぱ怖いから、ピンチになったら助けてくださいね!!」
直美ちゃんは躊躇いは少し残っている様だが、真っ直ぐ結界の隅にいるモヤを見て、先生から渡された入れ物を握って、立ち上がった。
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そろそろ一通目、終わるかなぁ。