一通目 生きながら 四
おまたせしました。
登場人物は変わらないです。
二十六日、夕方。
私と先生は直美ちゃん達が通る通学路の陰にいた。
なぜ朝ではなく夕方かというと、朝に尾行した際には驚くほど何も起きなかったのである。唯一起こった事といえば、尾行に飽き始めた先生に後ろから妙に細かい作りのカエルのおもちゃを投げられた事くらいだ。心臓が止まるかと思った。
登校中に何も無かったら後は下校しかない。そういう訳でそろそろ放課後だろうという時間を見計らって陰で待機しているのだ。直美ちゃんには明日香さんと一緒に登下校をしてもらっている。
「先生、下校中に明日香さんが倒れたとして、その時ってどうすればいいんです?」
「ん〜、周りに簡単な結界でも張ってもらおうかな。あとニ人に無闇に近寄らない方が良い」
「なぜ?」
「君はまだ怪異について一端しか知らない。下手な行動をとられては危険なんだ」
「……まあ、そうですよね。分かりました。なるべく離れてます」
「ああ、助かるよ」
対応について話していると、下校が始まったのかちらほらと生徒の姿が見え始めた。その生徒らを建物の陰からしばらく眺めていると、直美ちゃんと明日香さんの姿が目に入ってきた。
「あっ、先生!」
「来たみたいだね。もう待ちくたびれたよ」
先生は直美ちゃん達が五十メートル程先に見えたあたりで陰から出て、ゆっくり歩きはじめた。
直美ちゃん達は楽しそうに喋っているようだ。いつ明日香さんがまたおかしくなるかも分からないのに、優しい子だと思った。どうやら小学生の時、明日香さんが転校してきて以来ずっと仲良しだと言っていた。一緒の中学校に上がったときも飛び上がるほど喜びあったし、唯一無二の大親友だとも。
そこまで仲が良いなら、様子がおかしくなった時に一番明日香さんの身を案じていたのは直美ちゃんかもしれない。
通学路は住宅街の中に入る。
私はふと気になったことを先生に質問してみた。
「先生。先生は親友っているんですか?」
隣を歩いている先生が前を向きながら答えた。
「親友?唐突だね。もしかして直美さん達を見て親友が欲しくなったかい?」
「違います。私は先生の助手であれば良いんで、ていうかはぐらかさないで下さい」
「私の親友……。まぁ、いるっちゃいるかなぁ。でも直接あったのは数十年前な気がする」
見た目は若いが、この人は結構な年なんだろうか。
「数十年?先生ってそんなお年を召していらしたんです?」
すると先生はちょっと拗ねた顔で聞き取れないくらいの声で何か呟いた。そして直後に前方でドタッと人が倒れる音がした。
「……多分君が思ってるより数倍……翠っ!!」
「はい!」
何事かを察した私達は急いで直美ちゃん達に駆け寄った。
そこには倒れ伏している明日香さんと、明日香さんを支えている涙目の直美ちゃんがいた。
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