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閑古庵のお便り  作者: 稲生 萃
四通目 もの病みと夏
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四通目 もの病みと夏 七

「それでは、失礼します。スイカもありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ来てくださってありがとうございます。これで家内も安心してくれますよ」

 笹原友江に手紙を渡した後、解決の報告を行い、暮相達は帰路につこうとしていた。暮相は両肩に毛羽毛現を乗せていたが、笹原家の人間にはやはり見えていないようだった。

 


 閑古庵に帰る前に、暮相達は笹原家から少し離れた空き地にいた。毛羽毛現となってしまった祐介をあるべき姿に戻すためだ。

「悲しくなってしまったら、また何度でも家族の心に戻れるように。手紙に僕の気持ちを遺せてよかった」

 笹原祐介は家族にひっそりと別れを告げた。彼をこの姿にした毛羽毛現によると、彼はある種の呪いをかけられて式神のような存在になっているようで、毛羽毛現がその呪いを解けば霊体になれるらしい。

「わっ……。じゃあやっぱり一度幽霊にならなきゃいけないのね……」

「今の祐介さんは霊体になると我々の目にも見えるかわからない。呪いを解除したあと、すぐに迎えが来るように連絡しておきました。私達とはここでお別れです」

「そ、そのお迎えというのは……?」

「いわゆるあの世からの、です。まぁ、心配なさらないでください。事情は話してありますから」

「そうですか……その、色々とありがとうございました」

 暮相が合図をすると、毛羽毛現が呪いを解こうともにゅもにゅ動き出す。じきに煙のようなものが笹原の体から巻き起こり、その煙が消えた。暮相は一つお辞儀をすると、帰り道に振り返った。翠はその姿を見て、慌てて見えないがそこにいるであろう祐介にお辞儀をし、暮相に着いていった。暮相の目が霊体となった笹原祐介を捉えられていたのか、翠は聞けなかった。




 閑古庵に帰った暮相と翠は、友江からお礼にと貰ったよく冷えたスイカを食べていた。

「その辺をたださまよっていた幽霊が妖怪にされるなんてこと、あるんですね」

「まあ、無い話じゃないかな。ところで、笹原……真さんだっけ?彼に変な絡み方をされていたようだけど、大丈夫だったかい?」

「大丈夫ですよ。あの時はちょっとビビりましたけど、妖怪である毛羽毛現はわたしには見えたし、でも普通の人に妖怪や幽霊が全く見えない事なんて最早当たり前ですし」

「そうだね。色んな物が見えない彼らからしたら、事実でも幻想に見えてしまうからね」

「見えてるものが全てじゃないってことですね!そういうの、以前なにかの本で読みました」

「うんうん。見えてるものが全て、なんて世界はつまらないしねぇ」

 二人で談笑していると、閑古庵の奥から扉の開く音がした。虚ろ街側からの来客のようだ。来客は店主の言葉を待たず、「芳乃さん!」と呼びかけた。

「ん?依かい?随分急いでるね」

 暮相が迎えに行くまでもなくいつものカウンター席まで来た依は、翠を見て自らの懐に手を入れた。

「翠ちゃんはこれを」

 そう言って依が取り出したのは一枚の手紙。蜘蛛の糸の意匠が入っているため和巳からだと分かる。翠は礼を言ってそれを受け取り、中身を読むと「しまった!」と叫んでバタバタと自分の部屋へ向かった。暮相が呆然としていると、翠が支度をしながらまた叫んだ。

「今日、バイト先の人とシフト交代してたの忘れてました!今から行ってきますね!」

 あっという間に飛び出していった翠を見送ると、依がまた紙を出した。

「芳乃さんにはこれを」

 それは以前、花相が残していった紙人形と同じ形のものだった。

「これはどこに……?」

「虚ろ街北東にある現世との出入り口付近です」

「そうか」

 空気が張りつめ、二人は口を噤んだ。また彼女が虚ろ街にやってきたのだろうか。


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