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閑古庵のお便り  作者: 稲生 萃
四通目 もの病みと夏
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四通目 もの病みと夏 四

「忙しいところすみません、笹原友江さん」

「あら、どうかなさいましたか」

 友江の娘が見たという幽霊の存在を確かめるべく、暮相達は友江がいる台所へ向かった。彼女は夕食の用意をしているようだ。

「娘さんが裕介さんを見たとおっしゃった部屋を案内して頂けますか」


「……ここです。この家の一番奥で、雨戸を開けると庭もきれいに見えるんです。この部屋は……夫が亡くなった部屋でもあるんです」

 友江は暮相と翠を案内するとそう言い残して台所へ戻った。

 あまり物が無い部屋で、押入れと低い箪笥、小さめの姿見がある。

 そしてちょうど障子に隠れるような位置に、彼がいた。

「おっ、探偵さんだったっけ。また会ったね」

「あ、ま、真さん……」

 笹原真は、翠に暮相も一緒だと気付くと、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべた。

「おや、挨拶が遅れて申し訳ありません。私は暮相芳乃と申します」

「どーも、ここの長男、友江の兄の真です。よろしく」

 暮相がにこにことよそ行きな笑顔で対応している間、翠は少し焦っていた。彼が暮相にも妙な威圧感のある質問攻めをするところは、想像するだけで不快だ。早く調査を終えて真と離れたかった。しかし、時すでに遅し。

「暮相さんも幽霊とか信じてる人です?」

「ええ、仕事柄信じざるを得ないですねぇ」

「ふ〜ん、スピリチュアルに興味がある人とかがお客さんなんです?面白いですね」

「まあ、お客さんは様々ですよ。守秘義務があるので詳しくは……」

「あー分かってますよ。ねぇ、翠さんって言ったっけ」

「えっ、あ、はい!」

 一刻も早くこの場を離れたいと念じ続けていたところに突然話が振られ、逃げようにも逃げられなくなってしまった。

「君、本当に幽霊なんて信じてるの?見たことあるの?」

 真のレンズ越しの目が翠を探るように睨みつけている。

「えぇ、まあ……」

 過去に暮相を手伝った依頼では、幽霊の存在を感じたことはあったし、暮相も虚ろ街の住人だって幽霊はいること前提の世界だ。翠自身がハッキリと見たわけでなくとも、存在しているのは分かりきっている、はずなのだが。

「世の中にはさ、科学で解明されているものがいっぱいあるよ?人魂は化学物質だったとかプラシーボ効果の影響だったとか、そもそも捏造だったとか。その反応だとあんまり存在に自信がもててないんじゃない?」

 真のまくし立てるような言葉に目眩がするようだ。

「自信……?」

「もしかしたら気のせいだったかもって気持ちが1割でもあるんじゃないってこと。本当にお化けなんていたらさ……」

 真はつらつらと話し続ける。お化けなんて存在しないという主張、その根拠。翠に目を覚ませと言わんばかりの言葉が、翠の世界に虫食いのように穴を開けていき、彼女は段々と怖くなってきてしまった。昨日狸の友人と会話した記憶が薄れていくようで、隣りにいる先生の存在も希薄になっていくような気さえした。翠がぐっと固まって、俯いていると、暮相が口を開いた。

「まあまあ、助手をあまりいじめないでやってください。からかうと面白いのは分かりますがね」

 そう言いながら翠の頭に手を置いた。

「今は仕事中なんですよ。すぐ終わらせて帰りますから、ちょっと集中させてもらって良いですか」

「そっか。ごめんごめん、すぐ消えるよ。じゃあね」

 


「翠、彼の言うことをあまり本気にしてはいけないよ」

「はい…… 。助けてくれてありがとうございます……」

 真が去り、騒々しさがおさまった。翠はなんとなくしょんぼりしてしまった気持ちを立て直すように言った。

「今は、笹原裕介さんを探しましょう!」

「笹原裕介さんは毛羽毛現と同じ見た目になっていると言っていたね。……つまり妖怪になってしまってるわけだ」

「毛羽毛現と同じってことは、喋れませんよね。呼びかけても返事が出来ないなら地道に探すか、出てくるのを待つかですね」

 そう言って翠が近くにあったタンスの上に手を置いた時、翠が小さく悲鳴をあげた。

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