三通目 憎くて愛しい 六
情って絡まるとなかなか解けませんねって感じのお話です。
「次の満月の夜、か」
暮相はため息をついた。
ここは閑古庵の二階、住居スペースの一室。暮相の部屋だ。
昨晩、自分を襲ったあの少女を思い出す。あの少女は、名を花相という。実は、その昔、暮相芳乃がとある仕事で訪れた村に住んでおり、そこで知り合った仲だった。暮相は頭を抱えた。
「まさかこんな所まで来るとは…… 」
花相に襲われた翌日。依が閑古庵へ来た。
カウンター席でたった二人。翠は働きに出掛けている。
「次の満月まで…… あと一週間ほどありますが、どうなさいますか」
「もちろん、行くつもりだよ。身内を人質に取られちゃね」
依が少しのためらいを見せてから言った。
「…… 私も、付いて行ってもよろしいですか」
「そうだね、そのほうがこちらも心強いよ」
花相が待つというその日には、暮相、依が約束の場所へ行くこととなった。
「翠ちゃんはどうしますか」
「そうだな……。篠目に化けてもらうしかないかな。翠は、結界を張った閑古庵内で待機が良いかもしれない」
依と暮相の話し合いの結果、山頂へ出向くのは暮相、依、篠目の三人。翠は護衛のリュドミラと共に閑古庵で待機となった。翠以上に状況を知らない篠目に手伝わせるのは気が引けるが、今までのイタズラを精算してもらうという事で手を打たせるつもりだ。
「そういえば…… 」
依が思いついたように呟いた。
「なんだい?」
「あの花相という者との会話の中、『身勝手な都合』とかなんとか仰ってましたが…… 」
「ああ、それはね、随分と昔の話だよ。逆恨みされてるんだ、私も翠も」
暮相が遠い目をする。椅子の背もたれに背を密着させ、天井を仰ぐ。
「逆恨み?」
「聞いても楽しくないだろうけど……まあここまで巻き込んで聞かせないっていうのもねぇ」
依の言葉に苦笑いを返す。依はその表情に意味深長な事情を察した。
「いえ、話したくない事なら構わないのです。私にも言えない話の一つや二つありますから」
「そうかい、申し訳ないね」
話に一段落つき、出された茶菓子の最後の一口を咀嚼する。水羊羹だ。甘い餡が、舌と上顎の間に溶ける。
その後の世間話も程々に、依はさっさと荷物をまとめ、帰り支度を始めた。
「それでは、今日はこれ位でお暇します」
「ああ。今日はわざわざ来てくれてありがとう。帰り道、気をつけるんだよ」
「ありがとうございます。それでは」
依と話し合ったのが六日前。ついに、約束の日時は翌日の夜に迫っていた。
暮相は、自分の部屋の本棚に収められている、一冊の本を取り出した。今までの依頼の記録だ。ぱらぱらと捲っていき、とあるページに辿り着く。
『xxxx年 x月 xx日 垂益村』
「これだ」
そのページは、花相と出会った村で解決した事など諸々の記録が記してあった。
記録の文字を辿る。蘇るように記憶がハッキリする。しかし……。
「だめだな……。決定的なヒントがない。なぜ今更になって花相は私や翠を狙いに来た?」
最近のことを思い出す。
「それに彼女は、依と虚御所の姫様のことも知っていたらしいな……。簡単には知り得ない情報のはずだ。なにか、背景にいるとしか……」
「先生ー?まだ起きてるんですか?珍しいですね」
突然、ガラッと障子が開いた。
「うわぁっ」
「あれ?今何隠したんです?」
冷や汗がでる。この記録帳には今の翠に見せられない内容が書いてある。それは翠の過去に関する事だ。
「いやなんでもないよ。君も早く寝なさいホラおやすみ!」
「あっちょっと!」
障子を半ば強引に閉めようとする暮相と、閉めさせまいと障子を開けようとする翠。翠の立った状態、暮相の座った状態では、当然前者の力が勝る。力勝負に勝った翠がニヤニヤしながら暮相を覗き込む。
「先生、何隠してるんですか〜?」
「昔の記録帳!割と赤裸々に書いちゃってるから昔のは見られたくないんだ!」
「えっ、赤裸々って……」
翠の顔から表情が消える。
「決して卑猥な意味ではない!」
「先生さいてーです!おやすみなさい!」
「なんでそこまでツッコんどいて話を聞かないんだ!」
なんとか昔の記録帳を見られるという危機は回避したが、大切なものを失った気がする暮相であった。
一気に疲れた体を軽くほぐし、布団に入る。電気を消して目を瞑る。
明日の夜、自分達がどうなっているか分からない。というのも、先程眺めた記録帳から、思い出したことがあった。
花相は一度、神として祀られていたのだ。
閲覧ありがとうございました!
ご指摘ご感想ありましたらお気軽にコメントして頂ければ幸いです!




