一通目 生きながら 弐
主な登場人物
・橘 直美
今回の依頼者。中学2年生。
・小碓 翠
閑古庵の主人の助手。10代女性。2階の寝室でぐうたらしている主人の代わりに直美の接客をしている。
・閑古庵の主人(後で名前分かるよ)
2階の寝室でぐうたらしている人。まだ活躍時じゃない。明日から本気出す。
それは四日前の、あたしが学校に登校してる時に起こったんです。
直美ちゃんはどこか落ち着かない様子で話し始めた。
あたしは近所の高尾根中高等学校に通ってます。毎朝、家が近い親友の明日香ちゃんと登校してるんです。
でもその日は明日香ちゃんの具合がちょっと悪そうで…。休んだ方が良いんじゃない?って提案した矢先、道に座り込んでしまいました。貧血かなって思って…それで……それで…大丈夫って声をかけたら…明日香ちゃんがこっちを見上げたんです…。その明日香ちゃんの目が、カッと開いて…でも上の空って感じの顔で何かぶつぶつと呟き始めたんです…。
よく聞いてみたら、「ずっと一緒」とか「友達」とか「私も」って言ってたんです。そういう単語を聞こえないくらい小さい声で呟いた後に明日香ちゃんは倒れてしまって…。
それで、近所の人を呼んで救急車で運ばれました。でも病院に着いてから目を覚ました明日香ちゃんは何も覚えてないし、体に異常も無かったんです。
先生や親は精神的な病気を疑ってるんですけど、明日香ちゃんはストレスを溜め込むような子じゃないし、辛い事とか悲しい事があったらあたしに相談してくれるんです。
…それに、あたし見たんです。座り込む明日香ちゃんの周りに黒いモヤが纏わりついて、倒れた後にあたしの後ろを通って消えてったとこ…。だから、明日香ちゃんのあれは絶対病気じゃないと思ったんです。でも原因はわからないから、これは…
「妖怪や幽霊の仕業だと思ったんですね」
「はい。小碓さんはどう思われますか…?」
「まあ話を聞く限り、妖怪か幽霊かって言ったら幽霊でしょうね」
直美ちゃんは妖怪や幽霊、纏めて〈不思議〉とは信じ難いらしいが、黒いモヤなんて言われたらかなりの確率で不思議の仕業である。そんな話を私、小碓翠は店主の代わりに聞いていた。
「それで、未だにその怪は続いてるんですか?」
「はい…。度々、その登校時の出来事みたいな事が起きるそうです…。もう明日香ちゃんのご両親も先生もお手上げみたいで…。今日は、明日香ちゃんの御見舞の帰りで閑古庵で解決できないか相談に来ました」
「なるほど」
私はカウンターの上に置いてある手紙を手に取った。さっき私がお便りと呼んだ物だ。ここには怪事件発生の年月日と解決してほしい点を書いてもらっている。これが無ければ閑古庵は依頼を受ける事が出来ないのだ。
20××年 10月25日(火)
・桜井明日香の異常を治してほしいです。
「お便りの書き方ってこれで大丈夫ですか…?」
私がお便りを見ていると、少ない内容に不安になったのか直美ちゃんが覗き込んできた。
「ええ、十分です。実に分かりやすくて助かります」
「良かった…!依頼は受けて頂けますか…?」
「もちろんです」
「あ、あと…その…お金ってどれ位…」
「あぁ、報酬はご心配なく。なんせここの主人はお金に全く興味が無いようで、今まで頂いたお礼だってリンゴ2個とかヌイグルミとかですから。お金は必要ありませんよ」
「えっ、良いんですか!?」
「はい。それに学生さんでしょう?学割ってことで」
「そんな軽い感じで逆に良いんですか…」
「だって主人がそう言ってたんですもん。結構前に。多分」
「多分!?」
そこで区切り良く時計のオルゴールが鳴った。時計は五時を指していた。
「…おやもうこんな時間ですか。そろそろ暗くなってしまいますし、親御さんが心配なさるでしょうから」
「そうですね…もう帰らなきゃ」
「はい、お気を付けて。依頼の方は準備期間を…と言っても1日2日位ですが頂きまして、それから対処を始めます。どれ位解決に時間が掛かるか分からないので、空いた時間にでも閑古庵にお越しくださいませ」
「わかりました、ありがとうございます!それでは!!」
直美ちゃんは解決策が見つかってホッとしたのか、来たときより数倍明るい笑顔で帰っていった。
「う〜ん…若いって良いねぇ」
「やっと出て来ましたか。遅いですよ」
「だって体調不良って事にしたの君だろ?病人がウロウロしてちゃあいけないと思うんだ」
「屁理屈言ってないで準備してくださいね。話聞いてたんでしょ。はいお便り」
「え〜屁理屈じゃないよ…とりあえず準備しようかな。10月25日ね」
閑古庵が山の麓で、時間の間で動き出した。
閲覧ありがとうございました。
いよいよ次にから閑古庵が動き出す予定です。
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