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閑古庵のお便り  作者: 稲生 萃
二通目 時を経て
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二通目 時を経て おまけ

書き忘れていたので付け足しです。

「ただ今帰りましたー……」

「おかえり。おや、元気がないねぇ。どうしたんだい?」

 閑古庵のカウンター席の向かいに腰掛け、窓の外を眺めていた暮相が聞いたのは、明らかに元気のない翠の帰りの報告だった。

「先生…… 、私の簪、やっぱり見つからないです…… 。お店に無いとしたら、どこ行っちゃったんでしょうか……」

 翠はカバンを膝の上に乗せてカウンター席に座った。そして上半身をカウンターの上でぐにゃあと伏せた。

 翠が言っているのは、先日暮相が元の持ち主へかえした、紅葉の飾りがついた一本簪の事だ。事情により翠に気付かれないよう事を進めたので、彼女がもうあの簪がこの辺に無い事は知る由もない。ただ、自分で買った物が勝手に無くなってしまうのは気の毒だと思った暮相は代わりの物を用意した。多少なりとも謝罪の気持ちもある。

「ああ、例の。見つからなかったんならちょうど良かった。これをあげよう」

「え?この簪、新品ですか……?」

 暮相が手元の引き出しから取り出したのは、翡翠の玉の飾りがついた一本簪であった。

「うん。随分前に和巳御用達の小物屋を教えてもらったのを思い出してね。翡翠は『翠』って字も入ってるし守護の力もあるらしいし、合うかなと思ってね」

「翡翠って宝石の一種じゃないですか!そんな物頂いていいんですか……?」

 翠が後ろめたそうに聞く。

「良いんだよ。宝石の一種と言ったってそれはそこまで高価じゃないしね。さあ、それで元気を出して、アルバイトも閑古庵の店番も張り切って頼むよ、私の目覚ましばりに精を出し給え!」

 暮相がそう言ってはっはっは、とふんぞり返ってみせると翠の顔から負の要素が消え、少し笑った。

「相変わらずよくわかんないこと言いますね。でも本当にありがとうございます。大事にしますからね!」

 翠はカバンと新しい翡翠の簪を手に二階の自分の部屋へ向かった。

 暮相はそれを見送ると、はっと思い出したように呟いた。

「簪さんの分のお便り、書くの忘れてたな……」

 閑古庵が依頼を受けるときに受け取る手紙『お便り』とは、簡単な依頼履歴のような物である。閑古庵開業から今まで、年月日と依頼人の名前と依頼内容を書いた物を店主に渡し、依頼を受ける、といった手法が取られている。

 しかし、あの簪は手は有ったもののサイズが小さいが故に通常の筆記具が使えなかったため、結局書けずじまいだったのである。

「代わりに書いとくか」

 暮相が引き出しから筆記具と紙を取り出し、必要な事項をさらさらと書き始める。外では静かな逢魔ヵ時が訪れる。どこから迷い込んだのか、烏が一羽、閑古庵の屋根の上で一声鳴いた。

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