第五話
はあ、やっと出てきたのに……何故、あなたが……。
「リューク様はあなたのものなんかじゃありません! この私がリューク様をお護りしてみせます」
妙なヤル気を出してフローラさんが悪しき者の正面に立ち塞がった。
いや、無理でしょう。
学園でフローラさんの光魔法の威力は見たけど……確かに普通よりは上だった、けどアレじゃあ焼け石に水ってやつでは?
『何? お前がリュークの婚約者? なら……消えて』
そう言うと悪しき者はフローラさんへ影を伸ばした。
フローラさんはその影へ光魔法を放つ。
一瞬、大きく光が弾け影が消えたように見えたが……やはりというか、影はそのままフローラさんへと襲いかかった。
「え? な、何で私の光魔法が効かないの? い、いや、こっちに来ないで! 」
あ〜〜、このまま放っておきたい気もするけど、それはそれで面倒そうだからね。
しょうがない……私が友人達に視線を向ければ合点承知とばかりに悪しき者の影を弾き飛ばしてくれた。
悪しき者とフローラさんはどちらも固まっている。
おお、今がチャンスじゃないですか?
「こ、これは……わ、私の魔法が効いたのね! リューク様見ててください、今から倒してみせますわ」
いや、もう諦めようよ。
次はもう助けないよ。
もう、帰ってもいいかな?
なんて思っていたら王がフローラさんに向けて叫び始めた。
「もうよい! フローラ嬢、下がりなさい。その者はお前の力量で倒せる者ではない! 」
王の言葉に一瞬ビクッとなったフローラさんだが、そのまま悪しき者と対峙を続けている。
あれ?王命とか聞かない子なの?
これは完全に自分の光魔法の力に酔っちゃっているね。
この国では貴重な光属性らしいからな〜。
「へ、陛下! ご、ご安心下さい! この国で唯一光魔法を使いこなせている私がリューク様をお護り致します。この危機を救えるのは私だけですから」
そう言うとフローラさんは大掛かりな光魔法を放とうと力を溜め始めた。
確かにそれは威力はそこそこにあるんだけど……いかんせんその間は完全に無防備になってしまう。
その隙を敵は待ってはくれないのだよ。
悪しき者は絶好の攻撃チャンスを見逃すつもりはないらしく、先ほどより多くの影をフローラさんへ撃ち放った。
……次はないよ、とは言ったもののここで見捨てれば目覚めは悪いわけで。
姿を見せない友人達に代わり私がフローラさんの前へ出た。
でもさ、前からは影が来るし、後ろからは何故かフローラさんが私ごと光魔法で撃ち倒そうとしてくるしで、非常に面倒くさい。
私は左手からは闇属性の盾を、右からは光属性の盾を出し、どちらの攻撃も難なく受け止めることに成功した。
で、何故か会場中はシーンっと静まりかえっている。
え?何か間違ったかな?
私が首をかしげていると
「な、何でこの私の魔法をあなたが受け止めているのよ! しかも今のは最高威力の特別な魔法よ! 」
フローラさんがきれた。
だって、明らかに私も巻き込んで撃ち込んでいたよね?
しかも、あなたのその魔法じゃやられていたのはあなただよ。
「……わかったわ。その黒い髪と黒い瞳、最初から怪しいと思っていたのよ! あなたがその化け物でリューク様を襲わせたんでしょう! 」
……は?
やばい、この人何言ってるんだろう?
いや、それよりも何となく気づいていたけどこの国の人達って黒い髪に黒い瞳の意味知らない人が多過ぎる。
国に仕えている魔術師達はわかっているんだろうけど……現にジェイドさんは知っていた。
なんか急にどうでも良くなってきちゃった。
私は王の方を振り向き話しかけてみた。
「あの、もう帰っても良いかな? 」
私の言葉に会場からは二通の反応が。
一つはこいつ王に向かってなんてこと言うんだ!
もう一つは、
「「「お、お待ちください!」」」
王や王妃、リュークさんやジェイドさん、また警護に当たっていた王宮魔術師の皆さんが声を揃えて叫んだ。
私は嫌そうに
「いや、だってあれはないでしょう? 学園での嫌がらせじみた嫌味は、王子であるリュークさんの近くにいる為だと理解してある程度我慢していたけど。私が悪しき者を使役しているなんて……バカなの? 」
もう、口調もいつもの調子に戻っている。
今さら学園で生活するわけじゃないからどうでもいい。
私が本気で帰ろうかと思っていたら、またもやらかしてくれた。
「な、なんて口の利き方をしているの! 陛下やリューク様に失礼でしょう! それに本当のことを言われたからって……あなたの髪の色を見ればわかるわ。あなたは闇の属性なんでしょう? だからあの化け物を召喚出来たんだわ! 皆さん騙されたら駄目、きっとこの人はリューク様をさらいにこの国に来たんだわ」
あ、王妃が倒れた。
王も倒れそうになったが後ろから宰相が支えている。
とりあえずさっきから友人達が妙に大人しいのが気になりますな。