第四話
フローラさんや、未だ正式発表されていないリュークさんの婚約者としての地位を狙う令嬢方からお邪魔虫扱いされること数週間、やっとリュークさんの誕生日がやってきた。
正直、ここまで妬まれると思ってなかったよ……。
この国の常識を少しは習っておけばよかった。
でも、みんな不思議に思わないのかな?
普通婚約者を誕生日に発表するって言ったって、その婚約者と親に何も連絡がないなんてあり得ないんじゃないかな〜。
まあ、見たくない現実からは目を逸らして、ギリギリまで夢を見ていたいということか。
私がそんなことを友人達に愚痴っていたら
『相変わらずサラッと毒吐くよね〜』
『しかもその状態作り上げた本人だからね』
『あははは〜〜』
「……よし、君達誕生日の会場で姿あらわそうか? 」
私の言葉に我が友人達はピタッとおしゃべりを止めて、こちらをマジか? みたいな顔で見てくる。
私が大きく縦に頷くと
『な、何言ってんの! 』
『いやいや無理でしょう? いや、無理って言って! 』
『怒られる……いや、むしろヤられる? 』
私はそんな友人達にニッコリ笑顔で言ってあげた。
「うん、きっと大丈夫だよ。父だって鬼じゃない。勝手について来たとはいえ私の手伝いをしてくれている君達に酷いことなんて……し、しないはず? 」
『な、何で疑問系ーー!』
『駄目だよ、絶対駄目だよ』
『あの人、私達がミルザについて来ていること知っているはずだけど、この国で表立って動くのは駄目だって言うよ』
友人達は大騒ぎだ。
まあ、正式に父に頼まれてこの国にいることになっているのは私だけだからね。
でも、私はこの親愛なる友人達もこの国の人達に見て欲しい。
だって、リュークさんのことを護ってきたのは私だけではないもの。
大丈夫、父だってみんなが勝手について来ていたことは知っている。
むしろ気がつかないわけがない。
それに勝手について来ていたのはこの友人達だけではないことはわかっている。
「と言うわけで、今日は頑張ろうね」
『は? 』
『何が、と言うわけなの? 』
『うわー、うわー、うわー! 』
絶賛混乱中の我が友人達は放っておいて出かける準備しなくちゃ。
ドレスなんて動きにくいけど、一応リュークさんの誕生日、婚約者発表パーティーだからね。
はてさて、今日は全部丸く収まるかな。
はい、到着しましたお城です。
なんか良く分からないけど……いや、逆か……分かりすぎるほど令嬢方の姿が煌びやかだ。
みんなこれでもかとめかし込んでいる。
うん、リュークさんモテるね。
王子様だし、婿に行くとしても王家と縁続きになれるなんてやっぱり凄いことなんだろう。
学園で私のことを知っている子達がこちらを見て笑っている。
……うん? あ、このドレスがさほど目立つものではないからか。
コソコソと『これだから田舎者は……』とか『何故いるのかしら? 』とか言っている。
ふむ、これも悪意カウント出来ちゃいますな。
こちらから言わせてもらえれば、何で婚約者に選ばれたわけでもないのにそんなに特別感のあるドレスを着れるのかが分かんないよ。
これってこの国独自なのかな〜。
周囲を見渡せば、綺麗な衣装の令嬢がわんさか。
う〜〜、目がチカチカする。
早く仕事を終わらせて、のどかな自分の家に帰ろう。
そんな私の横には、さり気なくジェイドさんが付き添ってくれている。
エスコートってやつだね、だからさっきの学園の子達の暴言が出たときも飛び出そうとしていたんだけど、私が止めた。
今日で終わりなんだからそんなに気にすることないよってね、そうしたら困ったような、悲しそうな表情をしていたのだ。
……コレ、持って帰っても良いかな?
いや、駄目だろうね。
さすがに人をホイホイ拾って帰っちゃ駄目だよ、うん。
ようやくリュークさんが王と一緒に登場した。
王の横にはリュークさんにそっくりな綺麗な王妃もいる。
嘘の婚約者発表とはいえ、よくここまで大掛かりに頑張ってくれたよ。
それだけリュークさんが大事なんだよね。
「皆、今日はリュークの誕生祝いと婚約発表の場に集まってくれてありがとう」
王の挨拶が始まった。
そろそろ来るかな。
私は友人達の方を振り返った。
我が友人達はいつもと違い真剣な表情であたりを警戒している。
「……では、そろそろ皆も気にかけている婚約者の発表を行う」
王がそう言うと会場は静まりかえった。
一瞬、王と目が合う……私は小さく頷いた。
「リュークの婚約者は……」
『許さない』
王が最後まで言葉を言う前に会場に違う声が響いた。
それは会場の入り口、扉の方から急に現れて人々が逃げ惑う中、会場の中心まで移動してきた。
『リュークは、私のもの。勝手に誰かのものになるなんて許さない』
どっちが勝手なんだか。
でも、やっと現れてくれた。
これで解決出来ると思っていたら……え、何やってるの?フローラさん。