第三話
今、学園内ではリュークさんの婚約の話で持ちきりだ。
私が王に頼んだのは、リュークさんの婚約者の発表を来月のリュークさんの誕生日に行うという噂を流してもらうこと。
学園内で広がるぐらい噂されれば、悪しき者にも情報が必ず伝わる。
……しかし、本当に面倒くさい。
何でこんなにこの人は自信満々なんだろう?
「……ちょっと、聞いていらっしゃいますの? 良いですか、何度も言いますが私がリューク様の婚約者なのですからこれからはリューク様のお側には近づかないで下さいまし」
安定のフローラさんだ。
プラス、その取り巻き。
「そうですわ、フローラ様が婚約者になるのですから関係ない方はご遠慮願いたいです」
「そもそも何故リューク様のお側にいらっしゃるんですか? 」
ん〜、これは悪意をカウントして良いのかな?
私が迷っていると視界に入った我が友人達が良い笑顔でやっちゃえと言っている。
なるほど、ということは今日六十三回目かな?
今日はジェイドさんが用事があるとかで学園に来ていない。
なので、今日は違う方が私の近くにいてくれていたのだが、その人よりフローラさんの立場が上の為強く出ることが出来ずにこんなことになっているようだ。
さっきからその人は青くなっている。
そしてフローラさんのお付きの人は、安定の土下座状態、だけどそんなことにフローラさんは全く気付いていない。
「こんなところで何をしているんだい? 」
声の方へ振り返るとそこにはリュークさんがいた。
よくここがわかったね、ここは以外と死角になっているんだけど。
リュークさんの登場にジェイドさんの代わりの人は安心したのか膝をついている、緊張していたんだね。
リュークさんに気付いたフローラさんは、今までの不機嫌な顔をすぐに引っ込めて笑顔でリュークさんに近づいていった。
「まあ、リューク様。私を捜していらっしゃったんですね? 申し訳ございませんでした。ちょっとミルザ様の相談にのっていましたので」
おお〜、よくすぐにスラスラと嘘がつけるね。
貴族ってこういうことも必要なのかな。
しかも器用なことに、リュークさんには笑顔を見せてこちらには脅すような視線を向けてくる。
なるほど、今のことは言うなという意味ですね?
ところで、私は別にこの国の人間ではないのですよ。
なのでその辺の常識を求められても困るわけで……。
私はフローラさんとリュークさんにニッコリ微笑んで言葉を放った。
「今、フローラ様からお伺いしていたんです。どうやらリューク様の婚約者がフローラ様で決定のようだと」
私の言葉にフローラさんとその取り巻きは驚いた顔をしている。
まさかここで私がそんなことを言うなんて思わなかったという顔だ。
ちなみに我が友人達は離れたところで爆笑中。
だいたい噂はリュークさんの婚約者が誕生日で発表ということだけなのに、何でここまで自信満々になれるのか……一度じっくり聞いてみたい。
ということで、フローラさんはリュークさんになんて言うのかな?
「フローラ嬢、少し気が早いようだけど婚約者の発表は誕生日になっているんだ。私もまだ詳しくは聞いていないからね」
リュークさんは少し困った表情でフローラさんに話しかけている。
対するフローラさんは真っ赤になって……たぶん怒りで震えている。
もちろん怒りの矛先は私のようだ。
でも、私も聖人君子ではないからね〜、たまにははっちゃけたくなりますよ。
「あ、あのリューク様、わ、私も噂で聞いただけで、私がリューク様の婚約者だなんて信じられない思いでいたのです。そ、そうですよね、まだ正式に発表されていないのですもの。も、もう一体どなたがそんな噂を流したのかしら」
いや、婚約者云々の噂の出処は明らかに貴方でしょうが。
フローラさんは頑張って言い訳している。
でも、リュークさんはもうその噂知っていると思うけどね。
「まあ、誕生日になればわかるからね。焦ってもしょうがないよ。さあ、そろそろ授業へ行こうか? 」
リュークさんの言葉に私達は移動を開始した。
おお〜〜、フローラさんと取り巻きの視線がイタイ、イタイ。
でも、今までの私の扱いを考えたらこのぐらいのお茶目は許されると思う、それに誕生日には解決するから遊べるのはそこまでだからね。
あ、でも、明日からもしかして悪意のカウントがスゴイ勢いで増えるかな?
……ジェイドさんに頑張ってもらうしかないね〜。
いくら父の依頼でも少しはやり返さないとストレスがたまっちゃうから。
まあ、この結果次の日から想像以上にジェイドさんに迷惑をかけることになったのだけど……後悔はしていない。
でも、ジェイドさんには悪いと思っているから大人しくリュークさんの側にいようと思う。