第二話
私の言葉にムッとした顔をしているフローラさん。
この人は私がこの国に来た頃に力に目覚めたらしい。
フローラさんの髪は見事な金髪、光の魔法の適性があるとか。
まあ、そうなんだろうね、髪が金髪だから。
この国の人は魔法に適性がある人が結構いて、その人達の髪色は属性の色になっている。
例えば火なら赤色、水なら青色ってね。
ちなみに二つの属性持ちならその髪色は混ざったり、力が強い方の色が出る。
「フローラ嬢、ミルザ嬢は慣れない他国からの留学者だよ? みんなも気にかけてあげてくれ」
リュークさんの言葉に表向きは皆さん頷いたり、返事を返している。
だけどリュークさんの視線が逸れればそこは……ほらね?
どうしてこういうのが多いのかな、この国の貴族ってだけでここまで偉そうにしているのは逆に尊敬するよ。
しかもみんなまだ学生でしょ?
貴族として何かを成しているのかな。
「では、授業に遅れるわけにはいけないからね。そろそろ行こうか」
リュークさんの言葉にようやくこの場から移動することが出来た。
もう、本当にいろいろ面倒くさい。
そろそろ本気を出してリュークさんを狙う悪しき者と対峙する必要があるね。
たまには違う土地でのんびりとか思っていたけど、思ってた以上に煩わしい。
……今日も百回はいかなかった。
出だしは良かったんだけど、ジェイドさんが頑張った。
その結果今日は比較的少ない二十回。
私が大きくため息をついていると友人達が部屋を訪ねて来た。
「今日もあの子は頑張っていたね〜」
「ほんと、ほんと、ミルザに誰か寄ってくると一生懸命走って来るもんね〜」
「もはや番犬でしょ、あの子だったらここでの仕事が終わっても一緒にいても良いかもね」
我が友人達は好き勝手言っている。
「ねえ、みんな。もうそろそろここも飽きてきたから決着をつけようと思うの。百回はジェイドさんがいる限り無理そうだしね」
私の言葉に友人達はニコニコしている。
「ミルザにしてはもったよね〜」
「アレだよ、あの子が護ってくれていたから良かったんだよ」
「ミルザったらそっけない振りして内心嬉しかったんだよね〜」
本当にこの友人達は余計なことをペラペラと……。
「みんな……もうそろそろ黙ろっか? 」
私がニッコリ微笑んでそう言うとみんなはコクコクと頷いている。
すぐはしゃぎ過ぎるのがこの友人達の欠点だと思う。
楽しめれば何でもオッケーと日頃から言い放っているからな〜。
「んで、ミルザどうするの? 」
「居る場所はわかっているけど面倒くさいよね〜」
「全員で乗り込めば瞬殺だけど」
それに関しては私にも考えがある。
ちょっとこの国の王に手伝ってもらえば大丈夫なはず。
「ちょっと思いついた作戦があるの。あの悪しき者はリュークさんにだいぶ執着してるわ。だから今リュークさんに婚約者がいないけど、もし出来たらどうすると思う? しかもそれがリュークさんの誕生日で発表、これは面白くなるよね? 」
私の作戦に友人達はこそこそ話し合っている。
『なんだかんだいってミルザが一番えげつないよね〜』
『しかも本人自覚ないよ、絶対』
『やっぱり久しぶりに他国に来たからはっちゃけてるね』
「……全部聞こえているから」
私の言葉に友人達は、普段かかない冷や汗らしきものをかいて部屋を飛び出て行った。
逃げ足が速いな、相変わらず。
とりあえずリュークさんの誕生日は来月だから、すぐに行動を開始しなきゃだね。
私は早速次の日、王へ相談した。
リュークさんはこの国の第三王子、ゆくゆくはどこかへ婿入り予定だったが、成長するにつれて王妃様似の綺麗な姿になってきたらいつの間にか悪しき者に狙われるようになったとか。
だから婚約者も決めていなかったようなのだが、私がこの国に来て悪しき者を遠ざけるようになってきたら是非婿にと望む声が増えたらしい。
その筆頭がフローラさんのところの家。
家柄的には問題もないし、本人がリュークさんにベタ惚れ、そして光魔法に目覚めたもんだからその取り巻きも騒いでいる始末。
そんなんだから私への言葉もキツくなるようだ。
たぶんフローラさんが光魔法に目覚めたのは私がこの国に来てしまったからだと思う。
もしかしたら私がこの国から出て行くと髪色はまた元に戻ってしまうかも。
それで難癖つけられたら今度こそ私が切れても良いよね?
「……ということで、こんな作戦にしたいと思うんですがいかがですか? 」
私は作戦の内容を簡潔に王へと伝えた。
対する王は
「ふむ、しかし本当にこれで悪しき者が現れるだろうか? 」
「出ると思いますよ。それにもたもたしていたら私、この国から出て行くと思いますし」
私の言葉に王が慌てた様子で
「そ、それは困る。うむ、ではこれで進めてみよう。……ところで、まだ百回は行ってないな? 」
「惜しいところまではいくんですけどね〜。でも、もしかしたらこの作戦が知れたら、決行前に百回いくかもしれませんね」
「だ、駄目だろう。やっぱり私から学園の生徒に注意を促すように……」
「それはルール違反ですよ。父からも言われていたでしょう? それに……思いの外ジェイドさんは頑張ってくれていますよ」
私の言葉に王は大きくため息をついた。