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クロウ   作者: 辰野ぱふ
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ジルの丘 (4)

倒れてから数日でジャスクールはすっかり弱り、医者が「もう、ジャスクール様はお亡くなりになるでしょう。家族の皆様をここにお集つめになったほうが良いでしょう」と言うほどになった。

それでもマッカラムは慎重に自分の目でジャスクールをよく観察した。

もう、マッカラムに何かを伝えようという力もなく、眠ったようになり、ときどき息もとぎれるように感じた。確かに…。もう、家族の者を集めた方が良さそうだ。

このままマッカラムが一人だけでジャスクールの臨終を見とってもいい。だが、これから自分が領主となる以上、ジャスクールに認められ、ジャスクールの意志で領主になったということを皆に示した方がいいだろう。まだジャスクールの息があるうちに、皆にそれを印象づけるのだ。


マッカラムは皆をジャスクールの寝室に集め、一人ずつがジャスクールに別れの言葉を言うように、伝えた。

まず、クッチマムがジャスクールのかたわらに膝まずいた。クッチマムは泣いていた。

「お父上…。いろいろありがとうございました。お父上から教えていただいたことは、すべて忘れません。これからはお父上の意志に従い、マッカラム様を領主として、わたくしはこれまで通りにジルムンドリド家にお仕えいたします」

 ジャスクールは弱り、息も弱く、クッチマムの声が聞こえたのかどうか、わからなかった。


 つぎに、ジャスミンが三歳のジャストランドを連れて、ジャスクールのかたわらに膝まづいた。ジャスミンも泣いていたが、ジャストランドはまだ父親の死について、よくわかっていないようで、きょとんと丸く目をむいていた。

「ジャスク…。おお。あなた…」

 ジャスミンがジャスクールの手を取った。と、その時、ジャスクールがカッと目を見開いたのだ。その目の中にはあの、燃えるような強い意志が宿っており、マッカラムはぎょっとした。

 ジャスクールはまっすぐにジャストランドを見つめていた。そして、くちびるをふるわせて、何かを伝えようとしていた。

 マッカラムは気が気ではなかった。まるで今にも起き上がって、また動きそうな、そんな強い目の光だったのだ。


 ジャストランドといえば、そのジャスクールの目をまっすぐに受け止め、息が止まったように、目を見開き、びっくりした顔になっていた。おどろいたことに、ジャスクールはジャストランドに手を伸ばし、その手を握った。周りの者、皆がその様子をじっと見守った。ジャストランドは固まったようにその場に氷つき、なすすべもなく、ジャスクールを見つめていた。

 マッカラムの心臓は飛び出すかと思うほどに、大きく鳴っていた。最後の力をふりしぼってジャスクールは起き上がるのではないか。そんな意気込みがみなぎっており、気が気ではなかった。

 だが、ジャスクールはやはり何も言えなかった。その一瞬に今使える力すべてを注ぎ込んだかのように、燃え尽き、一瞬で力が抜けて行くのがわかった。

「ご臨終です」

 医者が伝えると、ジャストランドは魔法から解かれたように、まばたきをすると、急に大きな声を上げて泣き出した。

(そりゃあ、怖かっただろうさ。あの目にあんなにまっすぐに捕えられてしまったらな)とマッカラムは思った。本当にじゃスクールが起き上がるのではないかと冷や冷やしていただけに、臨終の一瞬に、ふっと口元がゆるみ、笑いがこみあげてきそうになっていた。だが、ここで笑ってはいけない。

 マッカラムは、くちびるをぐっとかむと、ジャストランドの肩を優しくたたき、

「さあ、もう、いいよ。お母様とゆっくり休むといい」

 と、ジャスミンの肩もやさしくたたいた。

 ジャスミンは泣きくずれ、まだ泣き続けるジャストランドを抱きしめた。


それから、マッカラムはジルムンドリドの領主となり、マスカが望んだように、ジャスクールが残したものすべてはマッカラムのものとなった。マッカラムは、冷たい目をジャスミンに向けた。この女を、隣町に返すわけにも行くまい。それに、そんなに手荒に扱うこともできないだろう。ただ、ここにいて、ジャストランドを育て、静かに生きたらいい。

もう、ジャスクールの目を気にすることもなく、これからはすべてがマッカラムの思い通りだ。マッカラムは愉快でたまらなかったが、そんな様子は見せず、威厳のある、だれにもバカにされない、厳しい領主になろうと誓ったのだ。

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