出発 (1)
「ねえ、マミリたまには皆で遊びに行きましょうよ!」
セロト市場の店を片付けながら、アンジェがしきりにマミリに言っていた。
「スコロバに泊りがけで出かけましょうよ! シャリオがあなたも一緒のほうが楽しいって言ってくれてるの。タイル工場を見に行けるのよ! 中にはなかなか入れないのだから、すごいチャンスだと思うわ」
そう言われてもマミリはなんだか楽しい気がしなかった。
「泊りがけでなんか行けないわ! やることがたくさんあるんですもの」
「リクってわかるでしょ? シャリオと一緒に市場によく来ていた黒い瞳の人。あなたと話したいみたいって…、シャリオが言っていたのよ」
「そう…」
と言いながら、マミリはジャニの方をちらりと見た。ジャニはしかめ面をして黙々と働いていた。
と、今アンジェの話に出て来た、そのリクがこちらにまっすぐに向かって来ており、じっとマミリを見ていたので、マミリはドキリとした。
それに気が付いて、リクはマミリから目を逸らさず、紙袋を差し出した。
「え?」
と言うと、リクはその袋をマミリの手に押し込んで、そのまま走って行ってしまった。
「きゃあ! リクったらやるわね」
アンジェがはやしたてた。
マミリはなんだか腹立たしかった。アンジェと一緒に騒ぎたい気分ではなかったのだ。
「ねえ、何をもらったの、見せて!」
とアンジェに言われるままにマミリが袋の中身を右手の平に出して見ると、様々な色の石がつながっている首飾りだった。
「すごーい! それ、高価なものなんじゃないかしら?」
とアンジェが言った。
マミリは目の高さにその首飾りを持って来て、ぶらぶらさせると、
「なんだか古くさいし…。あたしに似合いそうもないわね」
と言った。
「まあ! ぜいたく!」
「とにかく、しばらくあたしはお休みはしないから! アンジェ、あなた一人で遊びに行って来て、どうぞ、あたしのことはお構いなく!」
「ほんと、かわいくないのね。マミリ! そんなことしていると、仕事に埋もれて、楽しい時間が流れて行ってしまうわよ!」
とアンジェも腹が立って来たらしい。
「ええええ。かわいくなくてけっこうよ。だって仕事をしていると楽しいから。今が楽しい時間だわ。いいの。別に…」
「じゃあ、勝手にすれば」
それから、ジャム・サ・ドラに帰って、馬車の荷物を片付ける間も、マミリはトゲトゲしていた。でも、アンジェはときどきからかうように、
「ほんと、マミリって石頭!」
と言ってみたり、
「あああ、もう、こんなことがおもしろいなんて! あなたってどうかしてるわ!」
とか、
「あなたに楽しい気持ちを分けてあげられなくて、残念だわ。一度でもこの楽しみを味わえば、いろいろなことがすっかり楽しく楽にできるようになるのに!」
などと言い、そのたびにマミリの心はますますささくれ立ってくるのだった。
だから、アンジェが帰ると、マミリはホッとしたし、気力を入れすぎていたようで、身体のあちこちに疲れが噴き出してきた。
次の日、マミリはまた朝早くから農場で働き始めていたが、アンジェがやってくる時間になっても彼女はやって来なかった。
「やれやれ」
と言いつつ、マミリは少し寂しくなった。
ふっと頭を上げると、八百屋の店の上の方にカラスが空を舞っているのが見える。それがだんだんこちらに近づいてくる。
「タイラだわ」
と、マミリは空を見ながらも、カラスにたじろぐことはなく、せっせと仕事に精を出した。
と、フロラに乗ったタイラの姿が農場の入り口に見えた。
タイラは農場の入り口でフロラからすとんと降りると、マミリの方に向かって歩き出し、トウモロコシの影に隠れて、見えなくなった。
何か自分に用があるのだろうか? そう思いながらもマミリは手を休めることなく作業をしていた。




